第589話 グロック G44
時刻は十九時四十二分。ゴブリンどもが動き出した。
アポートウォッチでホームに置いたオレのプランデットを取り寄せた。
それがゴブリンが動いた合図だ。ホームにいるミリエルが動くだろう。
「お前たち、起きろ」
ぐっすり眠るメー&ルーを揺すって起こした。
ぐずることなくパッと起きる。なかなか厳しい環境で生きてきたことがよくわかる。
「顔を洗っておけ。腹が減ってたらそこの果物を食っていいぞ」
バナナと苺を出しておいた。寝起き……とか関係ない胃をお持ちのようだ。バクバクと食っているよ……。
「ほどほどにしておけよ。これから動くんだからな」
あるときに食べないといけない環境だったろうが、満腹になって動けないとか笑い話にもならん。腹八分で止めておけよな。
「ゴブリンが動き出したのか?」
最速の狩人は持久戦も得意なようで、四時間くらい動かず座っていたよ。
「ああ。続々とエサに集まっているよ」
この辺にも請負員はきているはずなんだが、なんでこんなにいるんだか。三百匹くらい集まってきてるぞ。
「そう言えば、二人はなにか武器を使えたりするのか?」
八歳の体になにを持つんだって話だが、メー&ルーが殺さなければ報酬は入ってこない。どんな武器を持たせたらいいんだ?
「これをもらった」
と、グロックのケースを出した。
ケースを開けると、グロックG44ってのが入っていた。
「二十二口径のグロックってあったんだ」
ミリエル、よくこんなのを見つけたな。銃関係はオレ、いや、ラダリオンか。食べることの次に銃が好きだったしな。
「撃ったのか?」
「ううん。ゴブリンを殺すときに練習するって」
まあ、練習に事欠かないだけのゴブリンを眠らせるんだからそのときで構わないか。
「そっか。じゃあ、体をほぐしておけ。三百匹のゴブリンがエサに食らいついたからな」
狂乱化するほどではないが、滅多にない肉に歓喜している。春で食料が足りていても肉は滅多に食べられないようだな。
一ヶ所に集まりすぎて個体選別がわからなくなってきた。
宴もたけなわ、ってなったとき、ゴブリンどもの気配が波紋を打つように消えていった。おいおい、ちゃんと生きているんだろうな?
ミリエルの魔力が上昇したのか、技術が向上したのかわからんが、無差別度は格段に上がっている。眠り魔法に指向性を持たせないと怖くてミリエルの横に立てないよ……。
「ゴブリンが眠りについた。もうしばらくしたら向かうぞ」
残り香と言うか、眠りの魔法は発動するとしばらくその場に残っている。安全のために五分から十分は近づかないほうがいい。
安全のため、十分したら向かってみた。
モニスにヘッドライトを買わせたのでプランデットをしなくてもいいな。巨人、便利。
待機場所から中心点まで約一キロ。五百メートルまで近づくと、効果範囲から逃れたゴブリンが現れた。
オレもファイブ−セブンを練習しておきたい。サプレッサーをつけて現れたゴブリンを駆除していった。
「なんかいまいちだな」
グロックに慣れてたせいか、違和感がありすぎて上手く当てられない。もっと練習しなくちゃ。
マガジン三本撃ったら効果範囲に入ったので、X95を取り寄せた。
「モニス! 踏むなよ!」
「わかっている。新しい靴を汚したくないからな」
明るいとき散々踏み慣らしていたじゃん。まあ、オレもゴブリンの血で汚すのは嫌だけどさ。
「タカトさん!」
灯りが見えたらミリエルがゴブリンを踏みながらやってきた。君はもうちょっと注意を払いなさい。そのままホームに入るんだからさ。
「ご苦労様。これ、ちゃんと生きているよな?」
報酬が入ってないし、微かに気配はある。だが、もう死んでいるようなもの。なんだ、この絶妙な状態は?
「はい、生きていますよ。薄く広く放ちましたから」
回復魔法の出番って言うか、ミリエルの強みが眠りの魔法に乗っ取られているな……。
「よし。メーとルーに止めを刺ささせるか」
グロックG44をケースから出し、マガジンに弾を込めさせた。
「二人の手に合うのか?」
「確かめたので大丈夫です。ただ、ゴブリンを殺せる威力があるか。ラダリオンは大丈夫だとは言ってましたが」
やはりラダリオンが選んだのか。料理の雑誌だけじゃなく銃の雑誌も読んでたしな。
マガジンに弾を込めたら二人に撃たせてみる。
「反動小さいな」
八歳の体でも簡単に撃てたぞ。
「どうです? ゴブリンは死にましたか?」
「微かに生きているが、放っておけばいずれ死ぬだろう。とりあえず練習で撃っていくとしよう」
まずは銃に慣れることを優先して、出血多量で殺すとしよう。
「ミリエルはメーをみてやれ。オレはルーをみるから」
「わかりました」
「モニス。悪いがゴブリンを集めてくれるか? トングってのを買えば直接触らなくてもいいから。あとで謝礼するから頼むよ」
「トングな。わかった」
快く引き受けてくれてなによりだ。
「じゃあ、オレらはあちらをやる」
「では、わたしたちはこちらをやります」
お互い、反対方向に向かってゴブリンに止めを刺して回った。
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