第583話 標語
朝飯が終わればミリエルにダストシュート移動してもらい、館で勤務している職員を会議室に集めて巨人のことを話した。
まだなにも決まっていないが、大まかな計画を話しておいた。
「マスターは、国でも創ろうとしているんですか?」
職員の一人が飽きれ気味に言ってきた。
「オレたちが生きていける生存圏を築いているだけだ。国王になりたいヤツがいるならオレがならせてやるぞ」
しーんとなる会議室。
「いや、冗談だからな。オレにそんな力ないから」
「いや、マスターならやってしまいそうだから笑えませんよ」
無理だよ! どうやったら国王を擁立させられんだよ? オレに……はダメ女神がついていましたね。使徒だと思われているオレが後ろ盾になったらできそうな気がしてきたよ……。
「オレはゴブリンを駆除するためにここにいる。それ以外のことに力を入れたらどうなることやら。神は慈悲深くはないぞ」
慈悲があるなら一般人を異世界に放り込むなんてしない。神は意地が悪くて無慈悲な存在だわ。
「セフティーブレットは、ゴブリンを駆除するために存在する。領地のことは領主代理の領分。こちらが口を出すときはセフティーブレットの利益を求めるとき。それか、不利益を与えられたときだ」
オレの基本計画は辺境区をオレの生存圏とすること。そのためなら領主代理の駒として動くことも容認するし、ゴブリン駆除以外のこともする。ダメ女神の許容内で、な。
「セフティーブレットの仕事が円滑に行えるようコラウス辺境伯領を変えていく。すべては安全にゴブリンを駆除するために。そして、セフティーブレットが幸せに生きるためだ。皆の働きに期待する」
と、職員たちが一斉に立ち上がった。え? はぁ?
「安全第一、命大事に。今日もゴブリン駆除を行います」
なにその標語? いつの間にできたのよ? いや、いいんだけど、ま、まあ、今日もがんばりましょう。
よくわからんが、オレも席を立って頷いた。なんだこれ?
職員たちが会議室を出ていき、オレは残ってシエイラから請負員の様子を地図を見ながら聞かせてもらった。
「結構、領内にゴブリンがいるんだな」
なんだかんだと請負員は五十人以上いて、今も報酬が入ってくる。毎日のように駆除しているのに一向に減った気がしない。ゴブリン界隈でコラウスは危険とか話題に上がらないんだろうか?
「これでも減っているほうよ。一昨年はどうしようかとサイルス様が苦悩していたからね」
「まあ、魔王軍に狙われていたしな。よく滅ぼされなかったものだよ」
十……なんと将と首長クラスが何匹かいた。ゴブリンを操れるミサロがいては勝てることはなかっただろうよ。
「それを阻止したのがタカトだけどね」
「それを狙ってオレをコラウスにほうり出したのなら女神を呪ってやるよ」
いや、この世界に放り出されてからずっと「くたばれ!」と呪っているけどな。
「請負員から不満は出ているか?」
「出てないわ。それどころか暮らしが楽になったと言っているわね。ただ、ゴブリンの数は確実に減っているわ。女神様のお告げが正しいなら請負員を増やしつつ仕事を保証してやらないとダメね」
「そうだな。夏にはアシッカにいかなくちゃならないし、コラウスで指揮をする者が必要だ」
オレは海への道を築かなくちゃならんから残ることはできない。そうなるとラダリオン、ミリエルは連れていかないとならない。
ビシャに任せたいところだが、素直に残ってくれるか怪しいところだ。
「……カインゼルさんを中心に部隊を作るか……」
できることならカインゼルさんにもついてきて欲しいが、うちで指揮できるのはカインゼルさんしかいない。今回は残ってもらうしかないな。
「職員にプランデットも教えておかないとダメだな」
プランデットは謂わば携帯電話だ。通信手段があるとないとでは大違いだ。職員には是非とも覚えて欲しいものだ。
「アリサたちはどこを担当している?」
エルフたちは古代エルフ語を使える。教える立場として協力してもらいたい。
「コレールの町ですね。エルフが多いので」
種は同じでもマサキさんの血が混ざった……亜種か? まあ、日本人と西洋人くらい違う。環境や思想も違うのに仲良くできてんのか?
「何人か呼んでプランデットの基礎を職員に教えてくれ。ミリエルにもお願いするから」
オレの次くらいにプランデットを使いこなしているのはミリエルだ。若い上にできのいい頭を持っているから二割は使いこなしているよ。
……つーか、二割も使いこなせたら充分だ。設備も道具もない状態では八割はゴミなんだよ……。
「わかった。伝えておくわ」
「頼む。オレはリハルの町にいってくるよ。女神がなにか役に立つ野菜があるみたいなこと言っていたからな」
「いいものだといいわね。食糧になるものなら冬の備えにもなるし」
「そうだな。あ、ベスミーも今の時期だっけ?」
ブルーベリーみたいなものでジャムとか作ったっけ。巨人の奥様連中が、な。
「そうね。わたし、好きだわ」
「そうなんだ。なら、お土産に買ってくるよ。ミサロにジャムでも作ってもらうとしよう」
ラダリオンも喜ぶだろうよ。あいつも飽きずに食ってたしな。
「気をつけてね」
抱きついてきて唇を重ねるシエイラ。出発は午後からでいいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます