第582話 ミジャー *59000匹突破*
さすがに疲れたので、巨人の町からホームに入った。
外で暮らす問題は巨人間で決めてもらい、個人的に仕事がしたいならラザニア村にきてもらうことにした。
すぐにシャワーを浴びて瓶ビールをいただく。あーなぜ瓶は缶より何倍も美味しく感じるんだろうな。もう一瓶。
「タカト。飲みすぎよ」
「しばらく飲んでなかったんだから許してくれよ」
ライダンドでは付き合いていどに収めていて、本格的に飲むことはしなかった。一区切りついたのだから飲ませてくれよ。このあとはお疲れさま用のアードベック十年をロックで飲むのだからさ。
「まったく、もっと体に気をつけなさい」
「大丈夫大丈夫。オレには回復薬があるんだからな」
オレたち駆除員は定期的に回復薬を飲んで体を回復させている。一人たりとも失っていい存在じゃないんだからな。
アードベック十年を半分くらい空けたらいつの間にか眠りについており、気がついたら朝になっていた。
「……七時か……」
体が軽いところみると、結構眠ったようだ。あー。毎日これだけ眠れたらいいんだがな~。
皆は起き出しているようで、ユニットバスや女風呂から音が聞こえてきた。
「あら、起きたようね」
水を飲んでいたらシエイラがやってきた。おはよーさん。
「ああ。もっと眠りたかったよ」
昔のようにダラダラしたいものだ。
「あとで巨人のことで話がある。時間、大丈夫か?」
「大丈夫よ。請負員たちは各々駆除しているからね」
基本、請負員は個人業。なにかあれば声をかけるが、なにもなければ本人の意思に任せている。
──ピローン!
朝から駆除やっているヤツがいるんだ。働き者だな。
──五万九千匹突破だよ~! 今年は雨が少ないからミジャーが増えるかも。流れてきたらゴブリンも増えるので稼ぎ時だ! 十万匹目指してレッツゴー!
ミジャー? なんだ? てか、レッツゴーってなんだよ? もう0からレッツゴーさせられているわ。
「どうしたの?」
「またダメ女神からのお告げだよ。今年は雨が少ないからミジャーってのが増えるんだとさ。流れてきたらゴブリンも増えるそうだ。なんだ、ミジャーって?」
シエイラに尋ねたらなにか青ざめている。それほどのものなのか?
「麦の葉を食べる虫よ。わたしがまだ孤児院にいたとき、ミジャーが流れてきて領民すべてを動員して狩ったのを覚えているわ。発見が早く、前領主様が優れた人だったから滅びることはなかったわ」
餓死者は出たけどと、小さくつけ足した。
「まあ、ゴブリンが食ってくるんだし、腹が膨れたところを駆除してやればいいさ」
「そうもいかないわ。ミジャーは集まると空を覆うほどになるのよ」
「そういや去年、木の実を食う鳥に遭遇したっけな。なんて鳥だったっけ?」
なんかコアラのマーチ的な響きだったような?
「ココラよ。ミジャーより最悪の災害よ。どうしたの?」
「ラダリオンと相手したよ。まあ、オーグやゴブリンの群れを相手した記憶しか残ってないな。あの頃は予想外の連続だったから」
いや、今も予想外の連続だけど!
「……二人で相手するものじゃありませんよ……」
「そうだな。あの頃は生きるのに必死で効率の悪い倒し方だった」
二度と関わりたくないが、今ならやれる手段はいくらでもある。そう考えたらオレも成長したんだな~。
……肉体はあんま変わらんけどな……。
「ココラを効率よく倒せるものなんですか?」
「まあ、簡単にやるならガソリンだな。気化爆発を起こせば半分は殺せるだろうよ」
山火事になる恐れがあるが、巨人化して消火剤を撒けば被害はそう大きくならないはずだ。
「タカト以外できないわよ」
「別に煙や刺激物を使ってもなんとかなるさ。鳥ならな」
呼吸する生き物なら肺や目を攻撃してやったらいい。すべてを倒せなくても動きを鈍らせることはできる。あとは人海戦術で潰せばいいさ。
「虫ではどうです?」
「ミジャーがどんなのかわからんが、どこから流れてくるなら網でも仕掛けてたらいいんじゃないか? 巨人に網を持ってもらって捕まえるなり、風の魔法を使えるヤツに切り刻んでもらえばいいさ」
コラウスには人がいるんだから対応策はいくらでも用意できるだろうさ。
「……タカトにかかれば大事も小事になるわね……」
「それは日頃からの備えがあるからだ。いきなりやれと言われてやれるヤツはいないさ。備えよ、常に、だ」
まあ、それは領主代理のお仕事。オレらの仕事はゴブリンを駆除すること。ミジャーに集まるゴブリンを駆除することを考えておかないとダメだな。
ダメ女神の話からして、夏の時期にミジャーがやってくるのだろう。請負員を指揮する者を選出しておかないといかんな~。誰にしよう?
「あ、タカト。おはよー」
すっかりホームにも慣れて明るくなった雷牙。しばらく放っておいたし、リハルの町に連れてってみるか。
「ああ、おはようさん」
ラダリオンやミリエルもやってきたので、久しぶりに全員でテーブルを囲み、朝飯をいただいた。
……ああ。なんだか家族が揃ったみたいだな……。
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