第581話 巨人の町

 城を出てまたミランド峠に向かった。


 マッゴたちに領主代理からの許可を得たことや巨人の町にいったことを伝えた。


「家族を呼んでもいいだろうか? なんだかここに住みたくなったんだよな」


「それはローグンさんと決めてください。ここだと食料を調達しなくちゃならないでしょうしね。オレはその辺のことをなにも知らないので」


 巨人が住むとなれば人間も住まなくちゃならないはず。さすがにオレの判断ではどうにもできないよ。


「報酬はどうする? 今から町に戻るなら払えるぞ。あとでとなると数日後になるだろうからな」


 リハルの町にもいってみたいし、ミロイド砦の様子も知っておきたい。請負員の状況もどうなっているかも気になる。一つのことに集中してらんないんだよ。


「わかった。戻るとしよう」


 ってことで、マッゴと他二人で街に戻ることになった。


 隊商の往来もないので昼前には街に到着。こっから地下に向かうんだ? て思っていたら南にある倉庫街らしきところ向かうと、地下に下る穴があった。


 巨人サイズなので巨大ロボットの世界に入ったかのようだ。


 パイオニアでも下りれる坂なので、そのまま下りていくと、巨人の町に出た。


 距離は六百メートルちょっと。よく掘ったものである。巨人の技術、どんだけだよ? 石だけでよくこれだけのものを造ったもんだわ。スゲーよ。


「……ジャックと豆の木の世界だな……」


 いや、あの世界よりは発展しているか。大きいだけで裕福な町って感じであった。


「ん? 風があるな」


 どこからか空気を取り入れているのか? 


 マッゴたちは大通り的な道を進み、途中で横道に入った。


「なんだ?」


 なにか金属を叩く音が聞こえる。鍛冶でもやってんのかな?

 

 地下で火を使って大丈夫なのか? いや、風が吹いているから大丈夫か。てか、巨人も鍛冶とかするんだな。なにを作ってんだ?


「タカト。ここだ」


 巨大すぎて一般的な家なのかよくわからんが、木造の家で年期のある家なのはわかった。


 段差が一メートルくらいあるので、仲間の巨人に運んでもらった。


「帰ったぞ~」


 マッゴが呼びかけると、奥から白髪の男と三十歳くらいの女が出てきた。父親と奥さんかな?


「やっと帰ってきたか。連絡くらい入れんか」


「悪い悪い。いい仕事をさせてもらったから帰るのを忘れていたんだよ。報酬もよかったしな。親父もゴブリン殺しのウワサは聞いているだろう? その男から仕事を依頼されたんだよ」


 仲間の巨人の手のひらに立つオレに目を向けられた。


「初めまして。一ノ瀬孝人です」


「ロンダン一家を預かるラッガだ。息子が世話になった」


 五十代の父親も人間相手に頭も下げているか。共存の歴史がどれほどのものかよくわかるな。


「こちらこそ息子さんや仲間の方々には助けられました。また仕事をひきうけていただけると助かります」


「もちろんだ。仕事が空いているときは声をかけてくれ」


「それは、巨人部に声をかければいいんですかね?」


「そうだな。大仕事なら巨人部に声をかけたほうがいいな。個人的な仕事なら構わないはずだ」


 まあ、公共事業を請け負っているようなもの。個人でやるなら好きにしろ、って感じなんだろうか?


「わかりました。マッゴ。報酬はどうする? 布ならすぐに用意できるぞ」


 一応、ガレージには巨人用の生地は保管してある。管理はミサロやラダリオンに任せてあるからなにがあるか知らんけど。


「いや、金床をもらえないだろうか?」


 金床? って、鉄を打つときに使う台のことか? なんでまた?


「巨人が使える金床は希少だ。町でも二つしかないんだ。作ろうとしたらとんでもない金がかかる。是非、ロンダン一家でも欲しいんだ。可能だろうか?」


「……ど、どうだろう? さすがにそこまでは想定してなかったよ」


 可能かと言えば可能だと思う。だが、サイズはそう大きな物は無理のような気がする。完全武装状態で巨人になるとエネルギーをたくさん持っていかれる感じがするからな。


「そもそも金床って、どこで売っているんだ? てか、買えるものなのか?」


「買える。金貨五枚はするが」


 結構するものなんだな。馬車一台くらいするじゃないか。


「まあ、そう大きな物じゃなければ可能だろう。用意してくれるならすぐにやってみるぞ」


「わかった。巨人部から買ってくる」


 と、マッゴが家を飛び出していき、十分くらいで戻ってきた。縦三十センチ。横十五センチの金床を持って。


 まあ、金床と言えば金床だが、イメージしていたものとは違った。ただ、四角い鉄だった。


 一応、持てるようになっているのでつかんでみて、持ち上げた。


「……四十キロか……?」


 踏ん張ればやっと持てる感じの重さだった。ふー。


「どうだ?」


「ギリギリってところだな」


 巨人になれる指輪を嵌めると、満杯近くはあると思うからエネルギー切れにはならないはずだ。


 念のため、栄養剤を用意してから金床をつかみ、持ち上げて巨人になった。


 凄まじい勢いでエネルギーが消費されていくのがわかる。だが、七割くらいで巨人になれた感じだ。


 金床から手を離し、元のサイズに戻り、栄養剤を一粒出して飲み込んだ。


 ふー。一気に七割も使うと体に負担がかかる。やはり二十キロくらいが安全圏だな。


「だ、大丈夫か?」


「ああ。だが、二度とやりたくないな。これはかなりキツいよ」


 二リットルのペットボトルを取り寄せ、水を一気に飲み干した。

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