第580話 巨人部

 バケモノにバケモノと言われるの、ほんと理不尽だよな。


 一升瓶を二つ開けて、芋焼酎やらなんやら飲んだのに、朝には平然と起きてくる。これをバケモノと言わずなにをバケモノと言う。なんでこんな人からバケモノ認定されなきゃいかんのだろうな?


「美味い酒を飲んだ次の日は気持ちよく目覚められるよ」


 普通の人は死んだような顔で地獄を見ている時間だよ。爽やかな顔なんてできるヤツは希だよ。どんな体質だよ?


 巨人になれる指輪はしているので朝飯もたっぷりいただいた。


 さすが城の料理人。ファンタジーな料理を出すことはなく、貴族が食べそうなものばかり。写真に収めておくんだったよ。


 朝飯が終わると、領主代理は食堂を出ていってしまい、しばらくして役人っぽい男がやってきた。


「巨人部を任されているバイサカと申しましす」


 巨人部? そんなのがあんの?


「一ノ瀬孝人です。よろしくお願いします」


 なんか偉い人っぽいので席から立って挨拶をした。


「代理よりタカト様を案内するよう指示されました。すぐ参りますか?」


 時刻は八時三十分。巨人たちは働き出している時間か。


「はい。お願いします」


 ってことでバイサカさんのあとに続いた。


 巨人の町は地下にあるので、階段を下っていく。五階分くらい下りたら倉庫みたいなところに出た。


 荷物が積み上げられ、その間を通っていくと、なんか町が現れた。ふぁ?


「こ、ここは?」


「巨人を補佐する者の町です」


 補佐する者の町? なんや?


「ラザニア村にも人間の村があるはずです。あれと同じです」


 あー。そういや、料理の下拵えや野菜を作ってもらうとかなんとか言ってたっけ。巨人と人間の共存関係が凄いな。


 なんで明るいんだと天井を見たらなんか光るものが埋め込まれていた。魔石か?


「一日中明るいんですか?」


「ええ。魔力を吸って光る石だそうで、わたしが任官してからずっと光っていますね」


 魔力を吸う石なんてあるんだ。ファンタジ~。


 人間の町は百人規模の町で、子供までいた。よくこんな壁に囲まれたところで生きてられるよな? たまに地上に出てんのかな?


 町を通り端までいくと、巨人の町が一望できた。ス、スゲー!


 よく地下にこんな大空間を造れたものである。天井を支える柱とかないぞ? どうやって支えてんだ? ファンタジーにもほどがあんだろう。ここに建築法はないのか?


「タカト様。こちらです」


 と、バイサカさんが階段を下りていった。


 五十段ほど下りると、そこはいろんな作業場で、右側では食材を切っていたりパンを焼いたりして、左側では人間と巨人が書類仕事をしていた。


 ……なんか違う世界に連れてこられた気分だな……。


 バイサカさんが左側に向かうと、ここの役人に声をかけ、身なりのよい巨人に伝達。頷くと町のほうに向かっていった。


「タカト様。巨人の代表を呼びにいったのでお待ちください」


 代表? 町長とかではないのか? 


「巨人って何人くらいいるんですか?」


「百八十三人ですね」


「結構いるんですね」


 巨人が二百人近く住んでるとかスゲーな! 食料、とんでもないことになるだろう! 飢饉になったら一発アウトだろう! よく滅びずにいられるな! それが一番のファンタジーだよ!


 しばらくして白くなった髭を生やした五十くらいの男と、若い女がやってきた。


「巨人の代表でローグンです。隣のは娘のマイヤーです」


 ちょうど首くらいの高さになるよう造られているので、大声を出さなくて済みそうだ。


「初めまして。オレは一ノ瀬孝人。ラザニア村で世話になっている」


「あんたがタカトさんかい。話は聞いているよ。あんたのお陰で暮らしが楽になったよ」


 オレ、二百人規模を豊かにするようなことしたっけ?


「主に布と道具だな。我々が着る服となると人間の十倍は布を使う。費用はそれ以上で手間は三十倍だ。服など五年に一回新調できたらいいほうだ。それが毎日のように届けられる。女たちは喜んでいるよ」


 娘さんを見たら確かに真新しい服を着ていた。布を巨大化させるのにそんな省エネなのか? ラダリオンに任せているからよくわからんわ。


「マッゴ・ロンダンって橋職人たちがミランド峠にいっていることは知っていますか?」


 まさか今日くるとは思ってなかったので報酬をどうするか聞いてないんだよな。


「ああ。聞いておるよ。なかなか帰ってこんから心配しておったよ」


「実は、ミランド峠の広場にあなたたち巨人に住んでもらうことにしました。いざと言うときに備えて。これは領主代理の許可も得ています。マッゴと話し合って移れる方を決めてください。急ぎではないので」


「名前は聞いたことあるが、外に住むか……」


「もし、仕事を引き受けていただけるなら人間が使う物を巨人に合う大きさにしますよ。マッゴたちにも同じことを言いましたから」


「どんなものでもできるのか?」


「生物は無理ですし、人間の家を巨人の家にするのも無理です。オレが持てる物が精々ですね。一日でできる量も決まってきます」


 オレの力では五十キロが精々だし、エネルギー量からしたら二十キロが精々じゃなかろうか? ラダリオンなら百キロくらいいけそうだけど。


「……少し、話し合う時間をもらえるか?」


「構いませんよ。またきますんで」


 マッゴたちに報酬を払わなくちゃならない。近いうちにまたくるだろうよ。


 用は終わったので地上に戻った。

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