第579話 バケモノ同士

 広場を発ってそのまま城に向かった。


 もう完全に顔パスである。第三城門を潜ってから領主代理に会うまで二十分もかからなかったよ。


 まあ、コラウスでのオレの価値が上がっているってこと。これまでのがんばりが実ったってことだ。


 オレにずば抜けた力がないのなら力のある者に取り入るしかない。利用される恐れがあるが、こちらも利用してやればいいだけのこと。組織なら中核の位置に立てばいいのだ。それで他の者もオレに手を出すことは難しくなるからな。


 まあ、そんなオレの考えを見抜いてか、領主代理はオレを手元に置こうとしたり利用しすぎないようにして、絶妙な距離感を保っている。優秀な人ほどオレを遠ざけるんだよな。まったく嫌になる。オレは誰かの下で働くのが性に合ってるってのによ。


 今日も今日とて書類仕事をしている領主代理。エコノミー症候群にならないんだろうか?

 

「またなにかやったのか?」


「オレは自ら問題を起こしたことはありませんよ。問題があちらからやってくるだけです」


「お前が動くと問題に当たるな」


「…………」

 

 なんか他人から言われるとなんか凹むな……。


「まあ、よい。どうした?」


 許可をもらうことも忘れて長椅子に座り、ライダンド伯爵領でのことや巨人のこと、広場を勝手に開拓したことを伝えた。


 領主代理も途中から書類仕事を止め、オレが取り寄せたワインをつかんでラッパ飲みしながら聞いていた。


「罰ならオレが負います」


「そんなことされないと理解しているから勝手をしたんだろうが」


 だからこの人は怖いんだよな。完全にオレの行動を見抜いているんだもんな~。


「気に入らないなら処分してくれても構いませんよ」


「それをしたら残りの駆除員に城を破壊されるわ。わたしを脅すならもっと優しく言え」


「別に脅しているわけではありませんよ。コラウスに取ってオレが害となるなら構わず言ってください。今日中に立ち去りますから」


 その覚悟はラダリオンを仲間にしたときから持っている。いらないと言われたら速やかに動くまでだ。


「言うわけないだろう。もうお前はコラウスに取って欠かせない存在になっている。巨人の待遇もよくなったし、ゴブリンも減った。魔物災害も何度となく退け、街道の流れもよくなった。商人たちもお前の存在を無視できなくなっている。すべてお前が望んだ結果になっている」


「……オレとしては家族が生きれる場所が欲しかっただけなんですけどね……」


 ゴブリンを探して西に東に旅から旅の生活はしたくないし、絶対、体を悪くする。二年もしないで死んでしまうだろうよ。


「欲しいだけでこれだけのことをするからお前は怖いのだ」


 怖いって。領主代理のほうが怖いから利を出したり、利用されもしたんだがな。


「目的のためなら無害を装い、愚者を演じる。見る者が見ればお前の恐ろしさ、不気味さはわかるものだ。お前は普通の皮を被ったバケモノなんだよ」


「バケモノは酷いな~」


 オレは身も心も普通オブ普通。だから知恵を絞り、プライドを捨ててまで生き抜いているだけなのに。


「これでも遠慮して言っているくらいだ。だが、辺境にはそんなバケモノくらいがちょうどいい。そうでなければ辺境は治められんからな」


 どっちがバケモノなんだか。そんなバケモノを懐に置くほうがバケモノじゃんかよ。


「前も言ったが、お前が必要と思ったことは事後承諾で構わん。それはコラウスのためにもなる。ただ、バデット、マガルスク王国が気になるな。なにかが起こっているのは確かだろう」


「マガルスク王国と国交はないんですか?」


「ないな。先の戦争で国交を絶たれた。大使も追い返されたよ」


 この王国が原因っぽいな。寄生する先、間違えたかな?


「兵士は増やせないんですか?」


「少しずつではあるが増やしてはいる。だが、元々兵士が少ない。育てるのに人を割けないのだ」


「巨人は兵士にできないんですか?」


「体はデカいが、基本、穏やかな種族だ。血の気が多いのは希だ」


 確かにラザニア村に血の気が多いのはいなかったな。ゴルグもゴブリン駆除にも消極的だったしな。


「あ、巨人の町に入っても大丈夫ですか? 広場の報酬を払う約束したので」


「まあ、問題なかろう。ただ、踏まれないようにしろよ」


「そうですね。気をつけます」


 念のため、巨人になって入るとしよう。食い溜めしたら四十分はいけるはずだ。


「どこから入るんです?」


「城からも入れるが、明日にしろ。巨人の町は夕食時だろうからな」


 懐中時計を見たら十八時前になっていた。一時間以上しゃべっていたか。まあ、報告することが多かったしな。無理ないか。


「今日は泊まっていけ。流通がよくなったお陰で王都からいろんな調味料や香辛料が届いた。ゴブリンの被害も抑えられたから肉もある。たくさん食うといい」


「では、酒はこちらで用意しますよ。なにかお望みはありますか?」


「そうだな。ニホンシュを飲んでみたいな。第二城壁内ではニホンシュが人気そうだからな。ちょっと飲みたくなった」


 あーそう言えば日本酒の消費が増えたとかなんとか言っていた記憶がある。


「たくさん種類があるので小瓶で用意しますね」


 ホームの酒棚には日本酒も置いてある。シエイラがフルーティーな日本酒──貴醸酒が好みだ。領主代理も甘めな酒が好きだし、その辺を取り寄せてみるか。


「そう言えば、サイルスさんはどうしたんです?」


「ミロイド砦にいってもらっているよ」


 サイルスさんも忙しくしているようだ。ご苦労様です。


「よし! 今日は飲むぞ!」


 すぐに巨人になれる指輪を嵌めた。このバケモノに素で付き合ったら死んでしまうからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る