第584話 巨人の狩人

 なんだかんだと出発は十五時になってしまった。なぜかは訊かぬように。


 雷牙を連れていこうかと思ったが、ビシャたちとの駆除が楽しそうで、話を持ちかける前に出かけてしまったんだよ。


 仕方がないのでオレだけでいくことにした。


 一人ならとKLX230を出してきて、のんびりリハルの町に向かうとした。


 バイクはこの世界にきてから乗ったが、なにもなければ気持ちいい乗り物だよな。もうちょっと排気量の大きいバイクを買おうかな~。


 なんて走ってたら道を間違えてしまった。あれ? この道じゃなかったっけ?


 うーん。リハルの町にいったとき、カインゼルさんの運転だったから記憶が曖昧なのかな~? やっぱカーナビが欲しいよ、


 オートマップを取り寄せ、道を確認する。


「いつの間にかリハルの町をとおりすぎてムバンド村のほうまできちゃったよ」


 どこかで道を曲がるんだったのか。標識くらい立てておけよな。


「ん? 地震か?」


 なにか微かに揺れている。なんだ? 


 KLX230から降り、タボール7を取り寄せて構えた。


 揺れは徐々に大きくなり、なにか動物の悲鳴? みたいなものが聞こえた。


 すぐに大きな木の陰に隠れ──たら、二トントラックくらいの猪が現れた。乙事主か!?


 驚きながらも連射に切り換えてケツに向かって撃ってやった。


 あっと言う間に全弾を撃ち尽くし、乙事主は転がるように木々の間に消えていった。


 マガジンを交換した──ら、横から巨人が現れた。もしかして、狩りをしていたのか?


 こちらに気づかなかったのか、巨人はそのまま木々の間に消えていった。


 悪いことしたかな? と思いながらマガジンを交換。タボール7を背中に回して乙事主と巨人のあとを追った。


 デカいのが通っただけに追うのも楽だ。百メートル先に巨人の後ろ姿が見えた。


 エネルギーが満ちているので、巨人になって近づいた。


「すまない。あんたの獲物と知らず攻撃してしまった」


 こちらから声をかけると、巨人が振り向いた──ら、女だった。


 ……女の狩人か……?


 巨人の女も男並みに働くが、狩りに出るほど勇ましくはない。女は家を守るって感じだった。槍を持って狩りをするなんて珍しいんじゃないか?


「どこの者だ?」


「オレは一ノ瀬孝人。巨人ではなく人間だ。魔法で巨人になっている」


 論より証拠と、巨人化を解いた。


「ラザニア村にいるゴブリン殺しか?」


 オレ、ゴブリン殺しで浸透しているようです。


「そうだ! ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのギルドマスターだ!」


 てか、話し辛いな。ラザニア村の巨人は気を使ってくれてしゃがんでくれる。立ったままだと叫ばなくちゃならんのよ。


 仕方がないと、また巨人になった。


「凄いな。魔法で巨人になれるんだ」


「そう長いこと巨人になっていられないがな」


 巨人になったときのエネルギーは消えてしまうから、ちょこちょこ巨人にはなれない。まったく、融通の利かん指輪だよ。


「本当に邪魔して悪かった。オレはいくよ」


 謝罪したかっただけなので、他に用はない。巨人化を解いた。


「どこにいくんだ?」


「リハルの町だよ! ちょっと用があるんでな!」


 そう叫んでKLX230のところに向かい、今度は間違えないようリハルの町に向かった。


 曲がらないといけなかったところを曲がると、すぐにリハルの町が見えてきた。


 時間的に夕方なので露店は閉められており、人の往来も少なくなっていた。


 KLX230をホームに戻し、なにもないだろうがMP9装備に換えてきた。


 確か、南通りと呼ばれた道を通り、町館ちょうかんに通じる橋に立つ男性に声をかけて通らしてもらった。


 冒険者ギルド支部に入ると、依頼を受けて帰ってきただろう冒険者で混雑していた。


 こりゃ無理だなと判断してすぐに出た。


「ん? カインゼルさんの気配?」


 どーすっかなー? って考えていたらカインゼルさんの気配を感じ取れた。


 今の感じからしてリハルの町に入ってきたみたいだな。


 カインゼルさんの気配を辿っていくと、町の端にある見た目からして安酒場だった。


 ……雰囲気を楽しみにきているのかな……?


 カインゼルさんの気配は中にあるので入ってみると、酒場と言うより場末のバーって雰囲気だった。


「タカト」


「どうも。時間が空いたので様子を見にきました」


 店にはカインゼルさんと冒険者風の男、町の男の三人だけ。あとは、この店の女将だろう五十前後の女性だった。


 場末感は凄いが、馴染みの店があって羨ましい。オレも仕事終わりに通える店が欲しいもんだ。


「またいろいろ起きているみたいだな」


「我が不運を呪うばかりですよ。落ち着いて酒を飲む暇もありません」


 最近は飲んでもすぐ記憶をなくしている。ゆっくり酒の味を楽しみながら飲みたいものだ。


「不運で片付けられるお前も凄いけどな。他のヤツなら五、六回は死んでおるよ」


「死んでないのは周りに恵まれたからですよ」


 一人だったら半年も生きられなかっただろうよ。人に恵まれた人生と言ってもいいくらいだ。


「ふふ。まあ、一杯飲め。ローシ。酒を頼むよ」


「はいはい」


 女将さんとはなんだか親しい関係のようだ。深く尋ねようとは思わないけど。


 出された酒はビールだった。


「ちょくちょくリハルの町にいっていたのはこのためでしたか」


 なにしにいっているのかと思ったら配達か。アシッカにいっているときは職員にでも頼んでいたのかな?


「まーな」


 短く答え、とりあえず乾杯をした。

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