第573話 福音 *58000匹突破*

 集まるように作戦を立ててもそれに従ってくれるわけでもない。こちはも人数が人数なのですべてを撃ち殺せるわけでもない。銃弾の雨から逃れる者が出てきた。


 まあ、それは想定済み。左右にわかれたときの用意はしてあるさ。


 片方はイチゴに任せ、催涙弾を放ってもらい、なるべく村にいかないようにしてもらい、なるべくオレのほうにくるようにしてもらう。


「お、きたきた」


 催涙ガスの壁に阻まれ、撃ち漏らしがこちらに流れてきた。


 X95を使いたいところだが、数が数なので魔法のほうがいい。殲滅できる用意は完璧である。


 ビニールプールにたっひぷりの水を溜めており、集めるための魔力を使わず、溜めもなく、ウォータージェットを放って一文字斬り。五十匹以上のゴブリンを天に召してやった。ザマー!


 とは言え、かなり大技すぎて手持ちの魔力が大分持っていかれたよ。


 水の魔石をつかみ、魔力を補充する。


 つかんで魔力を吸うイメージをすると、多少の違和感はあるが、水の魔力が体の中に流れてきた。


 個人により魔石からの魔力補充できる回数は違ってくるが、初心者なら二回くらいで止めておけとのことだ。


 なんとなく溜まったと感じたらホーム連動型水筒を傾け、ビニールプールに水を溜めていく。


 ──ピローン。


 ハイハイ、五万八千匹突破ね。了解了解。


 ──やん。わたしの出番を取らないで!


 うっせーよ。報告と同時に不吉なこと言うのが悪いんやろがい。たまには福音でも奏でやがれ。


 ──でしたらリハルの町にいくことをお勧めします。露店を見て回ってください。元の世界の野菜に似たものがあります。夏の終わりから畑に植えたら冬の前に収穫できますよ。


 野菜? なんの野菜だよ?


 ──それは探してみてのお楽しみ。あと、残り八百匹弱です。がんばって~。


 ん? 二千匹いなかったのかよ。なんかがっかりだよ。


 ダメ女神からの福音(仮)からはとりあえず無視し、こちらに流れてきたゴブリンをウォーターレーザーで撃ち殺していった。


 が、五十発も撃てず、二回の魔力補充でなんだか体がダルくなってきた。


「……た、確かに二回で止めておいたほうがいいな、これは……」


 魔力補充は体に負担が多すぎる。しかも、ウォータージェットやウォーターレーザーは魔力を結構使う。体に負担をかけるのも無理ないわ。


 補充した分がもったいないが、これ以上撃つのは止めておこう。これからが大変なんだからな。


 大量駆除の場合、残敵掃討が本番みたいなもんだからな。


 こちらに流れてくるのは少なくなったので、X95で撃ち殺すことにした。


 なんかアサルトライフルを使わないでいたら腕が落ちたな。連射で撃たないと当たらないよ。


「なにかを練習するとなにかが下手になるな」


 まったく、ただでさえアラサーの成長力は遅くなっているのに、やっと覚えたことまで下手になるとかやってられんぜ。


「──タカトさん。首長を眠らせました。配下は倒しても構いませんか?」


 お、あっちも順調のようだな。


「構わない。殺せ」


「わかりました」


 躊躇いのない娘でなによりだ。


「ローガ! 残敵掃討に移るぞ!」


 ゴブリンをほとんど倒したと判断したようで、撃ち方を止めていた。


「イチゴ。村に入ったゴブリンはいるか?」


「いません」


「わかった。入らないよう見張っててくれ。侵入したら殺していい」


「ラー」


 ホームに入ると、ラダリオンが玄関にいた。


「どうした?」


 もう夕飯は食ってゆっくりしている時間だろうに。


「いざってときに備えていた」


「そっか。ありがとな。今回は二千匹もいなかったから大丈夫だったよ。これから残敵掃討に入る。女神も不吉なこと言わなかったから休んでいいぞ」


「わかった。でも、朝までここにいる。なにかあったら呼んで」


「了解。なにかあればすぐ呼ぶよ。お前はオレの槍だしな」


 なんで槍かは未だにわからんが、オレの最終兵器はラダリオン。助けを求めることに恥も躊躇いもないさ。


「風邪引くなよ、相棒」


 ラダリオンの頭をわしゃわしゃしてやり、パイオニア五号に乗り込んで外に出た。


「ローガ。EARのバッテリー交換だ。充填したら残敵掃討だ。ダリ。新しいVHS−2を使え。かなり撃っただろう?」


「はい。三百発近くは撃ちました」


 結構撃ったな。煤も溜まっただろうよ。


「代えもやる。使っていいぞ」


 これからX95を使っていこうと思うし、VHS−2はダリに譲るとしよう。


「ありがとうございます! 大事に使います!」


「大事にしなくていい。少しでも異常を感じたら使うな。新しい銃を取れ。それはお前の命を守るものなんだから」


「は、はい。すみません……」


「いいよ。気に入ったら自分の部屋にでも飾っておけ。さあ、朝までにはゴブリンに止めを刺すぞ。これからは早いものだ。ちんたらしてたら他の者に報酬をかっさらわれるぞ」


 最後に止めを刺した者が総取りだ。


「よし、やるぞ!」


 ローガのかけ声で残敵掃討を開始した。


「タカト。わしも銃を貸してくれ。もっと撃ちたいのだ」


 なんかスッゲーいい顔をしている。銃に目覚めたのか?


 腰のベルトを外してご隠居様の腰につけてやり、グロック19の扱いを教えた。

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