第571話 選べ

 ブラックリンを最速で飛ばした。


 時速にしたら百五十キロだろうか? 元々限られた空間で飛ぶことを考えて造られたもの。戦闘型のブラックリンでもこの速度が限界なのだ。


 それでも半径百キロ内に素早く移動できるなら貴重な乗り物。大事に乗るとしよう。


 すぐに東の山の麓にある村が見えてきた。


 この村も馬を育てているようで、プランデットにたくさんの熱反応が映し出された。


 馬の多さからゴブリンの襲撃はないようだが、山に目線を向けたらあちらこちらで真っ赤に染められていた。


「もうカウントダウンが始まってそうだな!」


 限界はもう突破しており、今から溢れ出しまーす! って言われても納得できる状況だった。


 不味いな。石を落としただけでも爆発しそうだ。


 これ以上近づくと危険と理解し、村に降下した。


 いきなり現れたオレに驚く村の者たち。オレもいきなり空からUFOが降りてきたら腰を抜かすわ。


「冒険者だ! 村長に会いたい!」


 見た目は完全に怪しいヤツだが、そんなこと気にしていられない。急を要する事態になってんだからな。


 遠巻きにされながら待つことしばし。五十前後の男と村の勇士たちがやってきた。


「何事です?」


「マシェル・ライダンド様の依頼によりゴブリンの調査をしている。山に異変があることは気づいていましたか?」


 と、村の者たちがざわめいた。つまり異変に気づいていたってことだ。


「山に大量のゴブリンを確認した。およそ二千。山から溢れ出しそうな勢いだ。死にたくないなら逃げるか村に閉じ籠るか選べ。強制はしない」


「そ、それは本当なのか!?」


「信じられないなら確認にいけばいい。逃げるも逃げないもこの村の自由だ。こちらはマシャル様の依頼を行うだけだ」


「……と、突然言われても……」


 そりゃそうだ。すぐ動けるヤツなんてそうはいないさ。


「冒険者と言ったが、オレはゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのギルドマスターだ。今、仲間とマシャル様がこちらに向かっている。オレらは十人で千匹のゴブリンと戦った経験は何度もある。そして、勝利してきた。逃げるのも嫌。閉じ籠るのも嫌。なら、戦え! 自分と家族を守るために武器を取れ! オレらに協力するなら全滅にならないことだけは約束してやる。選べ!」


「な、なんとかなるのか?」


「なんとかできる実力も方法も持っている。必要なのは防衛できる拠点だ。外にいる馬を村に集めろ。女子供を隠せ。戦うのはオレたちがやる。村の男は侵入してきたゴブリンを三人一組で殴りつけろ。戦うときに戦え! 守るべきを守れ! 大切な故郷を失わせるな! 後悔するな!」


 それができないなら滅びるしかない。受け入れろ、だ。


 オレは死にたくないので精一杯足掻いてやる。必ず老衰で死んでやる。


「……わ、わかった。外の馬を村に入れろ! 女子供は地下の倉庫に隠せ!

男は武器を取れ! 戦うぞ!」


 村長の言葉で村の男たちが動き出した。


「他になにをしたらいい?」


 真剣な顔の村長が尋ねきた。


「煽動しておいてなんですが、随分と協力的ですね」


 どこの誰とも知らない男の言葉なんて。


「後悔するな。それがよくわかるからだ」


 この人もアルズライズのように大切な人を失ったみたいだな。


「安心してください。拠点防衛なら五千匹に囲まれたこともありますから。二千匹なら問題ありませんよ。あいつらは狂乱化──我を忘れたら動きは単純になります。遠距離攻撃手段を持っていれば嬲り殺しですよ」


 ニヤリと笑ってみせた。


「作戦は出来ています」


 地面に描いて作戦を伝えた。


「わざと引き寄せるのか?」


「山に隠れられていたら探すのが大変じゃないですか。山も荒れますしね。ここなら拓けていますし、死体を埋める人手もいる。ご協力いただいた際は、報酬を払わせていただきます。金貨三枚でどうでしょうか?」


 なんて言ったら呆れられてしまった。


「……ハァー。構わんよ。命が助かるんならな」


「オレたちはゴブリンを殺して収入を得てます。殺せば殺すほど懐が潤う。一匹たりとも逃しませんよ。こんな美味しい状況、なかなかやってきませんからね」


 地道に駆除するのが一番の儲けとなるが、職員たちを稼がせてやるにはこんな状況にならないと無理だ。しっかり稼がせてやって、セフティーブレットのためにがんばってもらいましょう、だ。


「イチノセ。ミリエルたちが到着します」


 上空にいるイチゴから連絡が入った。


「わかった。山側にきてくれと伝えてくれ」

 

 上空からのほうが通信がよく通るんだよ。


「ラー」


「村長は村をお願いします。決して外に出ないように」


「あ、ああ、わかった」


 村長が下がったらブラックリンに跨がり、空に飛んだ。


「こりゃ、夜には溢れるな」


 誰に取ってのタイミングだろうな? まあ、なんでもいっか。オレらは駆除に励み、懐を潤すだけだ。


 ミリエルたちがやってきたので、迎え撃てる場所に降下した。


「用意しろ! 夜にはゴブリンが溢れるぞ! ミリエル。ホームから銃を運んできてくれ。オレたちは陣を築くぞ!」


 暗くなるまであと三時間はある。陣を築くには充分な時間だ。

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