第13章

第570話 殲滅者

 これは、ダメ女神からゴブリンを駆除しろと命令されて異世界に転移させられたアラサーなオレ、がんばって生きていく! 1 の続きです。


 ─────────────────────────


 東の山の地図、と言うか、概略図を見せてもらった。


 ゴブリンがいるとされる山は領都から馬で半日。朝に出れば昼には到着できるそうだ。ってことは約四十キロと言ったところかな? 道がどうなっているかわからんからなんとも言えんが。


 山はそれほど高くはなく、山頂まで木は生えているとか。この地域では可もなく不可もなくな山なようだ。


 猪や鹿と言った草食獣が多いところらしいが、ライダンドでは羊を飼っているから狩りにいくことはないとか。ただ、春と秋になる木の実を採りにはいくそうだ。


「木の実採取にいった冒険者が戻ってこないのだ」


 うん。確実にゴブリンに食われているな。


 ミシニーも数で襲われ、仲間が生きたまま食われたと言っていたし。


「今はまだ山にある食い物が足りているからいいですが、それがなくなったらライダンドかムルートに流れるでしょうね」


 ゴッズのことがあるからムルート側に流れる確率は高そうだがな。


「そんなにいるのか?」


 ご隠居様が尋ねてきた。


「いますね。あいつらはすぐ増えますから」


 なにも見てないが、状況証拠からでも、これまでの経験からも、ゴブリンは増えていると断言できる。


「首長、オレは千から二千のゴブリンを率いる群れの長を首長と呼んでます。王と呼べるのは一万以上を率いる者です」


 女王や騎士の存在はまだ黙っておこう。言ったところで理解できるとは思えないからな。一万以上になる前に間引きしていけばいいだけだ。


 ……まあ、それに苦労しているのが現状なんだけどな……。


「一万匹など国が傾く数だぞ」


「ええ、そうです。だから、そんな数に一集団で挑めなんて言わないでくださいね」


 用意ができているから千匹でも二千匹でも相手できるが、いきなり一万匹も現れたらダッシュで逃げるわ。それはもう駆除員の役目ではない。国のお仕事だわ。


「ふふ。言い訳が上手いな」


「そうしないと無茶な上司に潰されるだけですからね。まずは上司が潰れてからこちらに渡してください」


 仕事の計画や配分ができない上司など、部下からしたらいらない上司。さっさと潰れて有能なヤツに譲ってやれ、だ。


「そんな厳しい部下を持った上司は大変そうだ」


「部下としたら優秀な上司につきたいものですよ」


 その点、領主代理は高得点を叩き出している。これでオレを配下にしてくれるなら満点なんだがな。優秀なせいで、外に置いて使うほうが得と見抜いている。


「タカトを部下にしたら大変そうだな」


「オレ、優秀な上司のためなら身を粉にして働きますよ」


「優秀どころかバケモノのような部下を持つとかわしなら絶対に嫌だな。逆に身を粉にされる未来が見えるよ……」


 ……オレはただ、尊敬できる上司を支えてあげたいだけなんだがな……。


「まあ、とにかく、今ならまだ間に合います。コラウスから連れてきた人数で対処出来るでしょう」


 銃も弾も十二分に用意してある。EARのバッテリーも山崎さんのところで定期的に充填してもらっている。ゴブリンならそれで充分だ。いざとなればミリエルの眠りの魔法を放てばいいし、オレが巨人になってAA−12をぶっ放してもいい。二千匹までなら問題はない。油断しなければ、だけど。


「ゴブリン殺しじゃなく殲滅者だな」


 何か呆れ果てるギルドマスター。変なあだ名をつけないでください。


「つけるならもっとカッコいいのをつけてください」


 まだゴブリン殺しのほうが過大評価されなくていいよ。


「では、さっそく開始します。あ、マドット村で馬を買ったので口添えお願いします」


 ダインさんとミレット商会にお願いしてあるが、ご隠居様とギルドマスターの名前を出してくれたらちゃんと預かってくれるだろうよ。


「わしも同行させてもらえないか?」


 さあ、いこうとしたらご隠居様がそんなことを口にした。


 ギルドマスターを見たら静かに首を振った。説得は無理だと。


「何があっても自己責任ですよ」


「ああ。これでも戦争に参加した身だ。己の身は己で守るさ」


 この世界の老人は強い人が多いからな、守れると言うなら守ってもらうまでだ。それに、現場を知ってくれる者がいたら心強いしな。


「わかりました。すぐ動けますか?」


「問題ない。領地は息子に任せているからな」


 ではと、ギルドマスターに挨拶し、ミレット商会に向かった。


「タカトさん!」


 タイミングよくダインさんが出てきたので、ご隠居様のことを話し、店で豪華な部屋を用意してもらった。さすがに身分のある人を蔑ろにはできんからな。


 飲み物なんかは断り、東の山にいるゴブリンを駆除することを説明し、戻ってくるまで馬の世話を再度お願いした。


「お任せください。町には馬を世話する者は何人もいますので」


「四日くらいで戻ってきます。遅れた場合は連絡を出します」


 マンダリンを使えば一時間もかからない。状況説明も兼ねれば大した手間ではない。ミリエルも操縦できるしな。


「一晩くらい休んでは?」


「まだ時間がありますからね、山の麓まで移動したら野営を張ってそこで休みますよ」


 マドット村で羽目を外したんだ、働くときにはしっかり働いてもらいます。うちのギルドはゴブリンを駆除してナンボなんだからな。


「パイオニア二号はミリエル。五号はダリだ。オレはイチゴとブラックリンで先行する。ゴブリンの気配を確認する」


 そう指示したらゴブリン駆除開始だ。

 

 ───────────


 2023年6月13日

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る