第3話 ツインアイは無双フラグ

 

「きゃあああああああー!?」


 俺は背中のバーニアを噴かし、一気に飛び上がった。そのまま天井に空いた大穴から基地の外に出ると、あたりは市街地だった。

 あちこちから煙が上がってるんで、あちゃーこりゃ大分やられちまってんなと思いながら着地したら、六機のロボット兵器と目が合った。

 

『――地球連合の新型か!? ツインアイで機体色が白……? なんでだろう、俺負ける気がする』

『馬鹿、縁起でもないこと言うんじゃねえよ』


 なにやら敵部隊の通信がざわついてらっしゃる。

 えーと解析したデータによると……敵の機体名はゾールというらしい。顔にモノアイを採用していて、いかにもやられメカといった感じの風貌だ。機体カラーも緑だしな。

 もうこの時点で勝敗が決してるようなもんだけど、これがデビュー戦のミホはすっかりパニック状態に陥っていた。


「ぶ、武器! 武器はどこ!?」


 見かねたカスガ博士が叫ぶ。


『頭部に愛国忠勇砲があるだろう! それを使って牽制するのだ!』


 ネーミングセンスが極右なせいでわかりづらいが、要するにバルカン砲を撃てと言いたいらしい。


「どうやって発射すればいいの?」


 しょうがない、分かりづらいから俺が音声で説明してやるか。


「ほら、ちょうど右手のところにぶっといレバーがあるだろう? それを優しく握ってごらん」

「こ、こう?」


 美少女中学生のひんやりとした指が、震えながら俺の操縦桿を包み込む。


「ああ……凄くいいよ。じゃあ次は、握ったまま手を上下に動かしてみようか」

「……こんな感じ?」

「うっ! ……そうだよ、君凄く素質あるね。そのままシコシコって言いながら擦り続けてくれる?」

「それは本当に必要な作業なの?」

「あ、当たり前だろ! 迷ってる暇なんかあるのか⁉ 俺がバルカン撃たなきゃ皆死んじゃうんだぞ!」

「そ、そうだよね。ごめんねガイアース、疑ったりして。……シコシコ」

「ああっ」


 シコシコ。

 シコシコ。

 無知な表情で囁きながら、ミホは俺のレバーをしごき続ける。

 敵が二機もこちらに向かって突っ込んでくるが、俺の心はもうミホの指使いに夢中だった。


「……その力加減を維持したまま、先っぽのスイッチを押するんだ。優しくだぞ!」

「ねえなんか敵が近付いてくるよ⁉」

「手を止めないで! あんな雑魚メカ、バルカンが出たら一発なんだからさ!」

「ほんとに? 信じていいんだよね?」

「ほらもっとしごいて!」

「……シコシコ」

「うっ」

「シコシコ。シコシコ」

「ああっ、出るっ、バルカン出ちゃう! もうそこまで上ってきてる!」

「手が疲れてきたよ……」

「じゃあ口使って!」

「え?」

「舌を使ってスイッチを押すんだよ! あくしろよ!」


 ミホはさすがに迷っていたが、背に腹は代えられないと理解したのだろう。

 短い舌を使って、ねっとりとレバーの先端を圧迫した。

 

「あ~~~~~~! 出る出る出る! 弾頭出ちゃう!」


 ブルルルルルルルルルル!

 とても健全な射出音を伴って、俺のこめかみから勢いよくバルカン砲が発射された。


『――なっ⁉ メインカメラに固定武装!?』


 動揺して動きの止まった敵機に、次々と穴が開いていく。モノアイは吹き飛び、コクピット付近はハチの巣と化していた。ミンチよりひでえや。


「うっすい装甲だなぁ」

「嘘……あのゾールを撃墜したの、貴方……」


 ん? 

 戦力解析の時点で大した相手じゃないと判断できたんだが、なんでミホはそんなに驚いてんだろ。

 俺の学習チップは体の操作法やこの世界の大体の一般常識を教えてくれたが、それでも知識には穴がある状態だ。なんたって開発途中の試作機だからな俺。

 特に敵軍の細かい戦力はよくわからなかったりする。


「ゾールってもしかして強い機体なの?」

「宇宙移民軍の主力兵器。地球連合の兵器はアレに手も足も出ないんだよ」

「マジかよ、あんな柔らかいのに」


 俺の最弱武装であるバルカンでポコポコ穴が開いてたあいつらが、敵軍のスタンダード?

 あれ?

 じゃあもしかして俺ってメチャクチャ強い?

 カタログスペックでなんとなくそんな気はしてたが、悪い気分はしなかった。


『た、隊長、連合の新型は化け物です! 一撃でジョンとエドワードがやられました!』

『うろたえるな! 数ではこちらが上だ』


 俺が一人でイキってると、残る四機が遠巻きに俺を取り囲んだ。両手に携えたマシンガンの銃口は、きっちり俺に向けられている。

 うーん?

 俺は即座にカメラアイを向けて脅威度を解析するが、どうやら一万発食らっても装甲を射抜かれることはないらしい。


『撃てー!』


 ババババババ! と猛烈な銃声と共に俺に向かって一斉射撃が慣行されたが、弾丸はカンカンと音を立てて弾かれていく。

 すげーな全然痛くねえや。


「装甲材に差がありすぎなんだよなー。鉄壁をかけたスーパー系を相手してるようなもんだぞあいつら」

「直撃だよね⁉ 今攻撃食らってるよね⁉」


 初陣のミホにはちょっと刺激が強かったらしく、被弾にビビりまくっている。かわいいなあ。


「当たってるっちゃ当たってるけど気にしなくてよくね? 先に向こうが弾切れ起こしそうだし」

「死にたくない……私死にたくないよ……」

「いや、だから俺の強度ならこれくらい」

「助けてガイアース……何でもするから」


 ん? 今なんでもって言った?

 俺はミホの正面にあるレバーを伸ばすと、そそり立つそれを彼女の胸の位置に持っていった。

 

「……え、これって」

「そのレバーを的確に刺激するとビームブレードが使えるんだ。そいつを使えばあいつらを簡単に始末できる」

「どう刺激すればいいの? また右手?」

「いや……位置的には胸でしょ」

「胸で何をするの?」

「そりゃ……挟むしかないでしょ」

「……本当にその操作法で合ってる?」

「あー痛い痛い、俺の装甲に穴が開いちゃう。このままじゃ爆発しちゃうかも」

「わ、わかった! すぐに挟むね!」


 もちろんゾールの豆鉄砲など痛くも痒くもないのだが、純粋なミホは容易く信じ込んでくれた。

 

「こ、こんな感じ?」


 ミホは制服をたくし上げると、ブラジャーに包まれた白い胸の谷間に俺のレバーを差し込み、むにゅ……っと挟み込んだ。

 たわわに実った二つの果実が、敏感なスティックを淫らに刺激する。


「よいしょ。よいしょ。どう?」

「あーたまんね。生きててよかった。いや生きてないのか俺。機械だし」

「ねえまだ武器は出ないの?」

「うっ、ビームブレード出るっ」


 辛抱たまらん。

 我慢の限界を迎えた俺が右手を伸ばすと、前腕部の装甲がカパリと持ち上がり、中から筒状の物体が顔を覗かせた。

 それはヴゥン! と鈍い音を放ち、光の刃を形成する。

 腕から直接刃が出てくるタイプの剣だ。

 

『馬鹿な……ビーム兵器だと⁉ 実用化されていたのか⁉』

『それより隊長、向こうのパイロットって女の子ですかね? さっきから可愛らしい声が通信越しに聞こえるんですが……だとしたらやり辛くないですかね』

『俺もそれは気になっていた。未成年かもしれないし、降参させる方向でいくか?』

『コックピットを狙うのは避けた方がいいですかね……条約もあることですし』


 敵部隊に迷いが生じたその時、カスガ博士が威勢よく叫んだ。


『いいぞミホ! そのまま報国英霊刀で賊軍をなで斬りにするのだ! 一族郎党さらし首にしてやれ!』


 ……すっげえ声量。空気がビリビリ震えてるのがわかるし、内容は相変わらずイカれてるし、あとこの通信って敵軍にも聞こえてるんだけど。

 当然ゾールのパイロット達も反応し、


『おい、向こうのパイロットおっさんじゃね? それも右翼軍人っぽいぞ』

『なで斬りとか一族郎党さらし首とか言ってたな。殺すか』

『時々聞こえてた女の子の声は何だ?』

『戦闘中にAVでも観てたんだろ』

『外道軍人の上に色狂魔か……生かしちゃおけねえ』


 おい、敵部隊の戦意に火を点けてんじゃねえよ。

 何やってんだよ糞親父。

 対話の道は(強制的に)絶たれた。 

 文字通りここからは死闘だ。

 六機のゾールはマシンガンでは効果が薄いと判断したらしく、腰にマウントしていた実体剣を構えている。

 格闘戦を挑んでくるつもりなようだ。


「勝てるよね?」

「ミホは俺をなんだと思ってるんだ?」

「変態AI」

「……」


 客観的に見た俺の評価って確かにそれだよな、と自分でも反省しつつゾールの群れに躍りかかる。 


「でいやああああああー!」


 気合一閃、叫びながらの一撃。

 右手を振り被りながら突撃し、正面にいたゾールを右肩からばっさり袈裟斬りで仕留める。

 そいつは青いスパークを放ちながら固まっていたが、俺が走り抜けた直後に切断された胴体が地面に落ち、爆発した。

 

『速い⁉』


 うん、我ながらめちゃくちゃ速い。

 運動制御プログラムのおかげで、人間だった頃より体が良く動く。

 前世の俺は運動オンチだったのに、この体ならバク宙もできそうな勢いだ。


「まずは一機。次!」


 なにやら角を生やした機体が呆然と固まってるけど、これたぶん隊長機だよな?

 俺は上半身をひねり、半円を描くようにしてビームブレードを当てた。

 

『……なっ⁉』


 刀身が撫でた瞬間、鉄機の装甲は赤く光り、溶解されていった。

 剥き出しになったコクピットから青年の顔が見える。

 えーと、さすがに顔を見ちゃった相手を殺すのは気分悪いや。


「お前は寝とけっ」


 俺は隊長機の胴体に中段蹴りを放つ。

 すると奴は水平にそのまま数十メートルほど吹き飛び、瓦礫の山に衝突して停止した。

 おいおいマジかよ、そんなに力入れたつもりはなかったんだが。

 

『き、機体性能に差がありすぎる……!』


 同感。

 俺とこいつらじゃ大人と赤子だ。 

 これ素手でも勝てるんじゃないの?


『うわあああ! 来るな! 来るなー!』


 半狂乱になって実体剣を振り回している機体に、のしのしと接近してパンチを繰り出す。

 俺の拳はメシャッと敵の右胸に食い込み、中の重要機関を粉砕した手応えがあった。


『馬鹿な……!』

「ふんっ!」


 腕を引き抜く際、いくつかの部品をもぎ取ったところモノアイの光が消えた。今ので動力部を壊せたようだ。人間で言えば心臓の血管をえぐり取ったようなもんかね?

 大分エグイことやってんな俺。

 やがて胸をえぐられたゾールは見てて不安になるような動きで震え始め、


『宇宙移民軍に栄光あれ!』


 あっぱれな叫びを残して、内部から爆発した。

 

「すごい……ガイアースってこんなに強かったんだ」

「なんかもうモビルファイターって感じだよな」

「なにそれ?」


 どっちかというと俺はアナザーより宇宙世紀派なんだけどなぁ、とロボットオタクな感想を抱きながら、残存機体をスクラップに変えていく。


『ひいいいいい!』

『嫌だ……おっさんに殺されるのは嫌だ―!』


 それに要した時間は三分。

 こちらの損害はゼロ。

 圧勝と言っていい戦果に、カスガ博士が勝鬨の声を上げる。


『三分で六機のゾールを壊滅だと……!? 勝てる! この戦争勝てるぞ! 地球連合万歳! 大統領閣下万歳! 欲しがりません勝つまでは! ばんざああああああい!』


 


 


 


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転生したら最強のロボット兵器だった件 ~美少女パイロットのおっぱいが当たるたび、チートモードに移行して無双する~ 高橋弘 @takahashi166

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