目覚めるラキウス

<X68k ASHURA SYSTEM 起動します>

<テスト動作モード起動正常。正式動作モードに移行しますか?:Yes/No>

(って、ここは一択だろ!)

 俺は迷わず<Yes>を選択する。入力に応じて再び計器類が目まぐるしく点滅し、モニターの表示も次々と変化していった。

<指紋認証…完了>

<静脈認証…完了>

<網膜認証…完了>

<分泌物のDNA認証…完了>

<次回以降の起動プロセスは生体認証により行われます>

 表示が止まると同時に、無機質なコックピットの壁面が全周オールレンジディスプレイに切り替わる。

 これは俺、意味が分かる。この機体はもう俺専用に認識されたってことだ。

(じゃあこいつ、もう動くってことだよな)

 俺は恐る恐る足もとに力をこめた。

 思考制御システムではきっかけトリガーでしかないフットペダルの踏み込みに反応して、金属と高分子でできた巨人が眠りから目覚め立ち上がった。起き上がりながら試作機はとにかく周囲の状況を確認する。

 全周ディスプレイに映る光景では、白いほうの機体にも火が入って起き上がる様子が映し出されていた。

 同型ながら対照的な色に塗り分けられた二機の最新鋭人型機動兵器セイバーがひとときにらみ合う。

(……来るかっ?)

 こっちは候補生、向こうはたぶん正規軍。機体が互角なら練度ではちとかなわない。しかもバレてはいないだろうがこっちはチキンビビリだ。

 しかし僅かな後には、白い機体は視線を上方に向けてスラスターを吹かし、混乱極まるX68kハンガーから飛び立っていった。

 続けてウロボロスの機影が溶けるように消えていく。光学探知もレーダーも効かないステルスモードを発動させたな。

 ここに至ってようやく俺は合点が行った。

(そうか! この試作機の奪取が連中の目的か!)

 道理で逃げても逃げても追いかけられたわけだ。そもそも敵はここを目指して侵攻して来たんだから。

 残ったのはノービス二機。そろってこちらに銃口を向ける。お互いの意思が一致する。こいつらの受けた命令は、

「奪取できないのなら、破壊しろってか!?」

 二条のビームを皮切りに、人生初の掛け値なしの実戦の火ぶたが切って落とされた。

 とりあえず向こうとの距離は開いているのでビーム・ライフルでの射撃戦になる。うかつに距離を詰めて鹵獲されちゃ元も子もないしな。ていうか機体を傷付けたくない個人的感情も少なからずある。

 一対二なら単純計算でこっちの負け。しかし試作機こいつの操作性はすこぶる良好だ。こっち実技には正直自信がないんだが、黒い試作機は旧型とはいえ二機の人型機動兵器セイバーを相手取ってもむしろ押し気味に戦いを繰り広げてくれる。

 この機体は俺の脳内を読んだかのようにギリで敵の攻撃をかわしてくれる。訓練機での模擬戦闘で散々味わった歯がゆい思い、よける動作が大きすぎて体制が崩れ、攻撃に移れないということがほとんどない。

 先ほどちらりと心配したジェネレーター出力も余裕十分。スラスターもマニピュレーターも規格外のパワーを発揮し、多彩かつ軒並み高出力な武装にエネルギーを供給しても、まだまだ余力を残している。

「この出力! 訓練機の5倍はあるぜ!」

 しかし敵もさすが正規軍、こっちの射撃を的確にかわし抜け目なく撃ち返してくる。

 こっちの流れ弾がコロニーの床面をえぐり、大爆発を起こしてどてっ腹に大穴を空けた。

「だーっ! これじゃコロニーを壊してるだけだ! 後で何言われるか分からん!」

 俺は腹を決めて、腰部装備のレイ・ブレードを抜くと、スラスターを吹かして一気に敵との間合いを詰めた。

(射撃が駄目なら、白兵戦なら周りに迷惑はかからんだろ!)

 接近戦でもこの機体の操作性は良好そのもの。ノービス二機がかりを相手に一歩も引かない戦いを演じてくれる。やべえ、俺実はすげえ腕なのかもって錯覚しちまう。

 じり貧の展開を嫌ったのか、ノービス共は白兵戦から離脱して遠くからパカスカとビームを撃ちこんできた。出力に明らかにやる気がない。こっちの射撃を誘ってまたぞろコロニーにご迷惑をかけさせようって腹だな。

 向こうがその気なら……こちらのやることはひとつ!

 この機体、安全なところまで持ち帰る! 三十六計逃げるに如かず!

(しかし逃げるとして、どこへ?)

 俺の脳内にしばしの迷いが生じたその時、敵との間の空間が揺らいで唐突に巨大な人工物が穴から顔を出すように現れた。

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