行き着く先にあったもの
目の前に広がる空間には、
「これは……
見覚えのない白と黒にカラーリングされた二機の
見慣れぬ試作機を前にしばし呆気に取られていると、着地したウロボロスのコックピット・ハッチが開いて、パイロットスーツに身を包んだ人影が弱重力の空間をゆっくりと落ちてきた。体の曲線を見るに、女か?
その女性兵士は白いほうの試作機のコックピット・ハッチ付近に着地して……そこで俺の存在に気が付いたようだった。ヘルメットがこちらを見て、全身に緊張が走ったのが見て取れた。
その時、偶然が金コーティングのバイザーを透過させた。ヘルメット越しの面影がオレの幼少期の記憶と一致する。
「人はもっと、遠くに行ける」
――幼いころのおぼろげな記憶がフラッシュバックする、
あいつはよく星空を見上げては、そう言っていた。
「……お前?」
我知らず声が漏れる。しかし思い出に浸っている時間は、ほんのわずかしか続かなかった。
一瞬の逡巡ののち、女兵士はレーザー・ガンを頭上に向けて発砲した。こんな時でも人体への直接攻撃は一切禁止。戦時条約の一文が今はありがたく思われる。
「だあっ!」
成り行きで黒いほうの
各種ステータス・ランプが
<ASM-X68k-2 ”ラキウス” テスト動作モード>
まったく覚えのない型番。何より”X”の記号。間違いない、こいつ試作機だ。
(こいつ、もしかして動くのか?)
まったくもって喜んでいられる状況ではないにもかかわらず、ひそかな期待感に胸を高鳴らせていると、ステータス・モニターに状況をいまいち理解していないようなプロンプトが表示された。
<起動仮パスワードを入力してください: >
………………だよなー。
昔のアニメじゃあるまいし、整備中とはいえこんな機動兵器がなんのプロテクトもなく放置されてるなんてありえないよなー。
「チャンスは残り三回です」どこか楽しげに中性的な機械音声は告げた。
(ええい、どうせこのままここにこもっててもジリ貧だ! やってみるしか!)
半分ヤケになった俺は、思いつくままキーボードに指を躍らせた。
<Храбрые воины Вагнера, ваш настоящий враг в Кремле.>
エンター・キーを叩くなり、あんまり愉快ではないビープ音が響いて表示類がイエローに変化した。
<エラー:仮起動パスワードを入力してください: >
「チャンスは残り二回です」どこか皮肉交じりに中性的な機械音声は告げた。
……まあ予想はしていた。予想はしていたよ。俺は気を取り直して、再びキーボードをこねくり回した。
<富嶽三十六計逃げるに如かず>
またも不快なビープ音とともに、ステータス・モニターが無味乾燥なプロンプトを吐き出した。
<エラー:仮起動パスワードを入力してください: >
「次にパスワードを間違えると本機および1号機は機密保持のため自爆します」冷徹に中性的な機械音声は告げた。
おいこら穏やかじゃねえなこいつ。そこまでして守りたい機密ってことか?
ええい、こうなりゃどうなとなれ!
<POWER TO MAKE YOUR DREAM COME TRUE>
――エンター・キーを強く叩いた刹那。
入力に対して今までと違う手ごたえがあって、計器類が
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