学舎

識織しの木

学舎

時計塔そびえる横にすよすよと風に揺れてるナガミヒナゲシ


日光に焦がされ地面これまでに幾度踏まれた文句も言わず


異世界はすぐそこにある喧騒を渡り廊下で隔てた別棟


空っぽの教室あいつは知っている放課後の声部室の時計


校舎内隅から隅へ気まぐれに巡るまだ見ぬ場所に着きたい


深呼吸繰り返しても求めているものはここにはない昼休み


教室はこんなに狭いぎゅうぎゅうの生徒それぞれ異界を生きる


教室の騒がしさには加わらず大学ノート黒鉛に染まり


いつだって似ている空気を探してた終に言葉は殻を破らず


良し悪しは通す目により変化する理解のできない大海がある


帰り際聞こえてくるは吹奏楽マーチのリズム刻みて止まず


自販機の缶ジュースたちうずたかく机の主は歳を重ねた


飛行機は飛んだスクールメイトたち知らぬ地を踏み何を見るのか


制服のボタンを留める手が止まる当たり前とは恐ろしいもの


白勝利アナウンス響く図書室のぽつり窓辺で繰る愛読書


背で受けるリュックの重さ半分は選び抜かれた紙のお守り


3年間我を守りしシェルターは種々の鎧を着た活字たち


縁のない場所も指折り多かれど姿を見れば母校と感ずる


生きてきた場所だけ心に収めれば一度も開かぬ卒業アルバム


いつまでもチャイムの音を耳元に残したままで桜は散った

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