終:サムライダンジョン!

「ダンジョン深層……そこへの配信か」


「ついにこの領域にまで人の手が伸びるとはな」


 アクセルコーポ本社にある会議室。ネットワークを通じて世界各国のアクセルコーポ代表が会議を行っていた。


 議題はもうすぐ行われる、花鶏チャンネルの深層エリアの配信だ。


「時間軸へのズレも、斯様な方法で修正するとはな」


「同時の認識による修正。見事と言わざるを得まい」


 一定の意見は、アトリの配信に肯定的だ。ただ肯定的なだけで、その行動に同意しているかは別の話である。


「『ワンスアポンアタイム』のようにそのまま突き進んでくれればいいものを。そうすれば時間の流れの違いでしばらく戻れぬというのに」


「あのアトリとか言う配信者は、姉同様に戦いを求めて突き進むと思っていたのにな。剣鬼としての素質は姉よりも高いとみていたのに」


「アトリという者が想像以上に冷静だったか、あるいは現世に強力な絆があるか。


 どちらにせよ。この流れはもう止まるまい。我々が秘していた神秘。これらもいずれ人類に流布されるだろう」


「神域の存在。妖精卿。天国と地獄。神話と呼ばれる世界が公になるのか」


 会議に出ている者達は、伝統的な服装をしていた。里亜のコスプレのように各国の神の様だったり、鬼のように巨躯で頭部に角が生えたり。世界各国の神や妖精や悪鬼が集ったようだ。


 


「あの時、インフィニティックとエクシオンの若造共の召喚を止めれれば……」


「今更だな。それにエクシオンの輩は世界をここまでするつもりはなかっただろう。


 インフィニティックの様なダンジョン融合派ではなく、あくまで神秘を我が物にしたいだけの欲深かっただけだ」


「最終的にはダンジョンの浸食を止める側に回ったしな。エクシオンの連中が欲したのはあくまで未知の物質だ。世界を壊しては元も子もない」


「どちらにせよ。こうなるのは目に見えていた。むしろ80年間も隠しきれたことに感謝すべきか」


「人の時代の終わり。神秘の崩壊。深層と呼ばれる神の領域」


「我々の遠い祖先の故郷。そこに足を踏み入れた人類は、どのような方向に進むのか」


 会議の内容は表に出ない。ログも残らず、会議そのものが隠蔽されている。


 遠い昔、神や妖精と言った人間を超越し、或いは支配していた存在。この会議に出ている者達は、そう言った存在が人と交わった一族の末裔。


 彼らは神の領域と代々守っていた。そしてその領域は今、ダンジョン深層として存在している。神の末裔たちはそれを守っていたが、しかし人類を見捨てることはできなかった。


 人類を滅ぼさぬようにダンジョンから身を守るすべを開発し、同時に神の領域である深層に至らせぬように試みていた。しかし、それももはやこれまで。


「人類の行く末を見守るしかあるまい。


 だが深層の……神の力が悪用されるか、或いは深層に住まう存在かみが許さぬのならその時は――」


 神という血族の末裔。スキルではない神秘を宿した者が統べる組織。それがアクセルコーポ。多くの社員はそれを知らない。魔術師であるTNGKさえも知り得なかった事実。


 もはや人と変わらぬ定命の存在だが、それでも彼らは人類を守護してきた誇りがあった。だがその守護は、あくまで神を優先とした守護。神の怒りに触れる者を許すわけにはいかない。


 たとえ、深層配信を可能としたアトリ達であったとしても――



……………………


…………


……


「うむ。では配信を始めようか」


「どこにでも足出すD-TAKOチャンネルや!」


「こんに里亜リア! ぷら~なチャンネルの里亜です!」


 花鶏チャンネルの配信が開始され、同時にD-TAKOチャンネルとぷら~なチャンネルの配信も始まる。


『待ってましたあああああああ!』

『またもやコラボ配信!』

『超楽しみにしてました!』

『イヤアアアアアアアアアホオオオオオオオオオ!』


 三人が配信している場所はダンジョンに入る転送門の前だ。他の配信者もいるが、アトリ達の配信に写らないように移動している。


「前のコラボ配信時に深層へのマーキングを行った。


 その時は深層部分を配信することができなかったが、今回その目途が立った……立ったという事でいいよな?」


「せやで! 深層まで電波が届く基地局の設置と深層環境に耐えうる特殊カメラの完成や! ホンマコイツの開発には苦労したで」


「主に里亜がですけどね! トークン使って深層に潜らされて、色々測定とか設置とか実験とかさせられて!


 いや本当に酷いんですよタコやん! 失敗した時のリスクとか説明せずに深層行ってこいっていうんですから! 深層でトークン里亜が死んだら、流れる時間速度の問題でこっちの時間軸里亜は死んだ痛みがずっと続くんですよ!」


『タコやんひでぇw』

『さすがのアトリ様も困り顔』

『こいつら仲悪いのか?』


 開幕トークで叫ぶ里亜にコメントもタコやんを責めたりしていたが、


「致命傷の痛みが長時間続いてるのに死ねないとか、もう思い出すだけでふひひひひひ……。時間軸が違うってめったにできない体験で、ちょっと新感覚でした!」


「里亜。戻ってきてくれ」


『里亜ちゃんが壊れた』

『新たな死に様に目覚めただけだ。つまり通常運行』

『里亜ひでぇw』

『さすがのアトリ様も困り顔』

『こいつら仲いいなwwwwww』


 里亜がそれほど怒っていない……というか、いろんな意味でパワーアップしているので、責める空気は一瞬で吹き飛んだ。


「話を戻すけど、深層探索の目途は立ったで。深層とこっちの世界で同時に自分を観測できればOKや。


 難しい話はさておくけど、コイツ自身が自分の配信を認識している限りは、深層の時間軸もこっちの世界基準になるって感じや」


 深層にいるアトリ。それを現実世界に向けて配信し、それをアトリ自身が認識して観測する。深層の世界観測と、現実世界の世界観測。それを同時に行えば、時間軸のずれは解消されるのだ。


『どういうこと?』

『異なる時空間を同時に観測して、観測点を統一することで時空間の差を解消したってことか』

『時間の流れって重力ポテンシャルによるモノだぞ。観測点の統一でどうにかなるのか?』

『トークンを使って証明したんだよな。でも納得いかねぇ』

『今更ダンジョンにまっとうな物理法則を期待してもなぁ……』


 コメントもタコやんの手法を考察したり、疑問に思ったりと様々だ。


「おお、皆頭がいいのだなぁ。某、とんと理解できん」


「大丈夫です、アトリ大先輩。里亜も全然わかりません」


 これからその法則の恩恵にあずかるアトリと、それまでその法則の実験台にされていた里亜が流れるコメントに理解できないと難しい顔をした。


「ともあれ深層の配信だ。ここまで来るのに多くの苦労があった。タコやんや里亜にも世話になったし、同接者の皆にも昨今のトラブルで要らぬ心配をかけたな。


 そのうっ積を張らせるような配信になればいいと思っている。某も知らぬ場所故、想像外のトラブルが待っているだろう。そして身震いするほどの強敵もいるだろうな。楽しみだ」


『ヒィ』

『アトリ様の笑顔がwwww』

『まだ深層入ってないのにこの笑顔』

『この戦闘狂が!』


 アトリの挨拶にコメントが沸く。


「ぎゃあああああああ! アトリ大先輩のバトルエンジンフルスロット! まだダンジョンに入ってないのに抜刀モード!


 そのまま里亜を斬ってください!」


『おちつけwwwwww』

『トークンで死なないからって、それはないww』

『だがここまでくるとそう言うのもありかと思う不思議』

『性癖は自由でなければならぬ』


 里亜のセリフにコメントが沸く。


「あーあー。もうアカンタレばっかやな。まともなのはウチだけや。ホンマ、こいつらに付き合ってるうちの懐の大きさに感謝しいや。


 感謝の気持ちは現金でええで。深層アイテムとか魔石とかがっぽり稼いでな」


『頷きかけたけどマテヤw』

『(二人に比べて)まとも』

『さりげなく言ってるけど、どんだけの額になるのかわからんからな……』

『深層アイテム独占して売るつもりかよwww』


 タコやんのセリフにコメントが沸く。


 ダンジョンに潜り、魔石やアイテムを狩ってくる。それを配信し、娯楽として楽しむ。


 ダンジョンという世界の危機を楽しめる強さ。世界崩壊ともいえる時空嵐を受け入れ、それでも楽しく生きていく人間達。


 もうダンジョンのない状態には戻れない。それでも人は生きていく。


「ではでは深層に向かおうぞ」


「解説は里亜が!」


「技術担当はウチや!」


『待ってました!』

『歴史的一歩だ!』

『姉上が見つかるといいな!』

『里亜の面白トーク待ってるぞ!』

『深層用カメラのスペックキボンヌ!』

『レッツゴー! サムライガール!』


 多くのサポートと期待を受けて、アトリは転送門を潜る。眩暈に似た奇妙な感覚の後に、深層に転移した。


「カメラチェックOK! 時間軸のズレもなし! ばっちり深層配信いけるで!」


「多くの配信者の期待を受けて、今アトリ大先輩の深層配信が始まります!


 どうやら木造の学校を思わせる廊下ですが……なんか、なんか赤いのが天井にいる!? 蜘蛛!? しかもこっち見てる!」


「いい殺気だ。どうやら開始早々楽しめそうだな!」


『いきなり戦闘!』

『普通はビビるんですけどね、ああいうの見たら!』

『流石アトリ様。そこに痺れる憧れるぅ!』

『ちょ、足伸びた! しかも足先分裂した!』

『なんであれに反応できるの、このサムライは!』


 深層に入っていきなり戦闘するアトリ。抜刀し、クモのような魔物が繰り出す槍のような足を切り裂きながら突き進む。


「なんという鋭さ! なんという重さ! 姉上はこのような場所で戦っているということか!」


 この先にいるだろう姉のことを思いながら、刃を振るう。あの姉が死ぬはずがない。深層で戦い続け、強くなっているに違いない。


「某も突き進むぞ!」


 正義などない。理想などない。ただ姉と戦いたいというだけが目的のアトリ。ダンジョンなき世界では――いや、ダンジョンのある世界でも異質のサムライ。


 異質で戦闘に狂いながら、それでも多くの人を魅了する。その一刀を、その戦いを、時代が求めているのだ。


 古き正義を斬り払い、新たな時代を進むサムライガール。


 その刃が作る物語は、まだまだ終わらない――


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サムライダンジョン!

第二幕『サムライガールは正義と戦う!』


 <終劇!>


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 あとがき!


「サムライダンジョン!」を最後までお読みいただきありがとうございました!


 第二幕のテーマは『正義』『ネットでの攻撃』あたりです。配信ということでこういうテーマも混ぜてみました。


 第三幕も構成中です。カクヨムコン期間中に出せればいいな、ぐらいのペースで書いてますので、読んでいただければ幸いです。


 それでは改めて、お読みいただきありがとうございました!

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