拾漆:サムライガールはタコパをする

「痒いところに足届く! アンタらのDーTAKOチャンネルが来たったで!


 今日はなんとスペシャル企画第二弾! 今をときめく侍ガール、七海アトリちゃんとの雑談タコパや! おー!」


「お、おー。今日はダンジョン配信ではなく、タコやん殿との雑談ということになった。ダンジョン探索を期待してもらった者にはすまない事だ」


 D-TAKOチャンネルと花鶏チャンネルのコラボ配信第二弾は、たこ焼きパーティとなった。場所はエクシオンが所有するビルの一室を借りている。


「ホンマは企業の息かかった場所は避けたかったんやけど、実家でやると個人情報とかがうるさいからなぁ」


 とはタコやんの言葉だ。配信者の個人情報は絶対死守。急遽会議室に壁紙やらテーブルやらを用意し、空調なども整えてタコ焼き用プレートと食材を用意したのだ。


「ま、細かいことは気にせんといて。企業ビルやけど貸し借りなしってことで話ついてるから。あくまでウチらの身バレ防止ってだけや」


「色々大変なのだなぁ」


「……主な原因はアンタの活躍が大きすぎるからやで」


 タコやんが気にかけるのは、『アトリはエクシオン寄りなのではないか?』といううわさが流れることだ。アトリ自身が企業に属するつもりはないと明言しているが、それでもそれを『匂わす』だけでも噂が流れ、それを利用悪用する者が出てくる。


「繰り返しになるが、某はどこかの企業に属するつもりはない。今回の雑談コラボはあくまでタコやん殿個人と勝利の宴をするにすぎない。


 ……こんなことは言わずともいいとは思うのだがなぁ」


「迷宮災害で現れた下層ボスをソロでぶった切ったモンが、どこかの企業につくかもしれへんて匂わせるだけで株価が激変するんや。アンタその辺わからんのやろうし、黙っていっとおき」


『そうそう、アトリ様が三大企業に属するとかになったら一大ニュース』

『下層探索チームの力関係が大きく変わる』

『正直、学生で一時間だけのダンジョン探索だから影響はないけど、企業付きになってがっつり探索されたら下層突破も夢じゃない』

『個人的にはアクセルコーポに入ってアイドルしてほしい』

『↑ 士道不覚悟ぉ!』


 タコやんの言葉に反応するようにコメントが飛ぶ。確かにアトリにはよくわからない世界だ。企業所属も大変なのだな、と軽く覆って流しておこう。ところでアイドルしてほしいとはなんぞや?


「とにかく今日はタコパや! みんな、盃持ったか? うちらは未成年やからジュースやけどな! ほな、音頭とるで!


 ムカデアシュラソロ撃破! そして迷宮災害から地上を守ったアトリちゃんに! 乾杯!」


『乾杯!』

『かんぱ―い!』

『この一杯の為に生きている!』

『ぶはー!』


 タコやんの音頭とともに、コメントも乾杯と飲み干した言葉で埋め尽くされる。アトリも慌ててジュースを飲む。


「うむ。皆の者、感謝だ」


「それじゃ焼くで!


 D-TAKO! ガジェット! チェェェェンジ! これがタコパモードや!」


 軽快な音楽と共にタコやんの機械足が展開される。たこ焼き生地を入れた粉つぎ、プレートに油を塗る油引き、そしてたこ焼きを回転させるピックが6本。合計8本の機械足が慣れた動きでたこ焼きを作っていく。


「ふとした疑問なのだが、その何とかチェンジとやらは言わねばならぬのか?」


「様式美や! 配信やるならお約束ぐらいは知っときや!」


『せやせや』

『無駄であることをあえて行う。これが様式美』

『相手を立てる意味も含めて、大事な礼儀』

『命に危険がない限りは守ったほうがいい』


 ガジェットチェンジのポーズを疑問に思うアトリに、タコやんとコメントが一斉に答える。そういうものなのか、と納得するアトリ。


 8本の機械足は無駄のない動きでたこ焼きを作っていく。具もタコやツナマヨやエビにチーズといった定番のモノから、トマトや納豆やキュウリにタクワンと変わり種もある。生地を焼いて具をのせ、焼きあがったら回転。そして互いのお皿に写したらすぐに新たな生地をプレートに注ぐ。


「さあ食いや! はよ食わへんとタコヤキが皿に溜まっていくで!」


「まさかのわんこそば形式!? いや待て、熱いのはあまり得意ではないのだが」


「ふははははは。アトリちゃんの弱点見つけたりや!」


 次々運ばれるたこ焼きに慌てるアトリ。食事速度はタコやんに軍配が上がるようだ。


『ふーふーやってる侍がカワイイ』

『サラマンダーの炎熱は絶えられても、タコ焼きはだめか』

『むしろ焼きたてを食えるタコやんが異常』

『大阪の女やサカイ』

『タコヤキ耐性はオーサカ人のパッシブスキル』

『あながち噓とも言い切れない』

『機械足にたこ焼きモードをプログラミングするぐらいに、オーサカ人にたこ焼きは身近な存在』

『体はタコで出来ている』

『Ia! Ia! TAKOYAKI Fhtagn!』


 コメントもノリノリである。


「しかしまあ、ホンマ大したもんやわ。ウチ、マジで死ぬかと思ったしな」


 話題は先日の生配信の事になる。ムカデアシュラが現れたときの話だ。


「あんだけおっきな武器を刀で受け止めて、しかも空間の孔の向こう側にいるムカデを斬ったとか。直で見てたけど今でも信じられんわ」


『うんうん』

『解析する人もいまだに首傾げてるし』

『あの近距離で雷撃を避けたのも驚きだわ。見て避けてたら間に合わん』

『前衛がタンクで防御特化、後衛が攻撃特化。ダンジョン攻略の常識をあっさり覆してくれました』

『っていうか、空間の向こう側ってなんなの? アクセルコーポでも移動門の原理は完璧に理解していないって聞くし』


 タコやんとコメントの疑問に対し、アトリは何と説明したらいいかを考えて、


「いやまあ、そこにのだから斬れるとしか。


 魔物も斬れて、水も斬れて、風も斬れて。その延長みたいなものだぞ」


「いやわからんわ。水斬れるのも大概やけど、その延長で空間切れるとかどんだけやねん」


『わからん』

『わかるか』

『さりげなく空気も斬れるとか言ってるんですけど……』

『あるから斬れるとか、どんな問答ですか』

『これが日本のダンジョン配信者ですか。恐ろしい……』

『↑ 待って。アトリ様を基準にするのやめて』


 ずびし、と即座にツッコミを入れるタコやん。コメントも同じようなツッコミを返した。


「一意専心に刀を振るったから、出来たとしか。


 刀を握って意識を広げると、波というか呼吸みたいなものを感じて、それに合わせて刀を振るえば――」


「あー、もうええわ。よく分らんということが分かった」


『意識を広げるとか、何?』

『呼吸……? 空間が息するの?』

『あかん。理解できない感覚を説明されてもわからん』

『軽くホラー。事実は明白なのに、何が起きてるのか理解できない』

『なんだかんだでタコやんは科学的に考えるから、オカルトサムライは理解の外か』

『これが日本のダンジョン配信者ですか。恐ろしい……』

『↑ アトリ様を基準にされたくないけど、これは同意するわ』


 説明するアトリに手を振って理解を放棄するタコやん。コメントも似たようなことを返す。


「確かにオカルトやな。今の科学で証明できへんことをやってのけたんやから」


「某の説明する能力が不足しているという事だが、オカルト扱いは解せぬぞ。ただ刀を振っているだけなのに」


「その刀振るってるだけ、ってのがありえへんのやけどな。アンタの刀がレアアイテムとか、名のある妖刀とかならまだ説得力もあるんやけど」


「レアとか妖刀はわからぬが、これは姉上からもらった刀だぞ。某の訓練のために渡してくれたものだ」


 言いながら刀の鞘を撫でるアトリ。相応に使い込まれているはずだが、メンテナンスが十分なのかほつれや汚れは見られない。新品同様とまではいかないが、奇麗な形状を保っている。


「お姉ちゃんからのプレゼントか。そら大事にせなあかんな」


「うむ、長く愛用している刀だ。いずれ姉上に戦いを挑むためにも、手入れは欠かさぬぞ」


「戦い挑むって物騒やろ自分!? 目もマジ斬るモードになっとるし!」


『斬るんかい!?』

『姉想いのサムライガールと思いきや物騒で草』

『これがジャパニーズサムライか』

『理解が深い』

『姉に斬りかかるために探すとか、さすがアトリ様』

『ラスボスは姉でござる』

『何で納得してるのこのサムライ側コメント!?』

『これが日本のダンジョン配信者ですか。恐ろしい……』

『↑ もうそれでいいです』


 何気なく言ったアトリの言葉に荒れるコメント。


「おおっと、すまぬすまぬ。姉上と戦うことを想像したらつい滾ってしまった。今の敵はタコ焼きだな。モチが想像以上に歯ごたえがあって難儀だ」


「そのままの意味での歯ごたえやろうけど、会話の流れ的に怖いなぁ……」


「某が姉上を探す目的は強くなった自分を見てもらいたいということでな。それを証明するためには戦うのが一番であろう? 命のやり取りほど、強さを示せるものはなかろう」


「お姉ちゃん、ホンマは人斬り妹から逃げて深層から帰らへんのとちゃうか……?」


 平坦な声で『探索する目的』を語るアトリ。半眼になって言葉を返すタコやんは、もうこの会話を終わらせたいという顔をしていた。


「まあええわ。姉妹喧嘩に付き合うつもりはないし。明日から下層潜るんやろ?」


「うむ。下層へのマーキングもしたしな。タコやんも一緒に来ないか?」


「遠慮するわ。ウチはゴーレムコアをゲットして、この足を強化するやからな」


 下層に向かうアトリの誘いを断るタコやん。元々アトリに近づいたのは人気にあやかることもあるが、ゴーレムコアが欲しかったこともある。


「っていうか、下層なんか軽々しく行けるか! ウチはアンタみたいなバケモンちゃうねん!」


「むぅ、タコやんならいけると思うのだがなあ」


「なんでやねん。ウチ、アンタみたいにつよないで」


「そうか? 剣の腕はともかく、状況判断能力の高さと手数の多さは見事なものだ。動画も拝見したが、見事な機械の動きとトーク能力だと感心したぞ」


「……まあ、当然やわな。ウチは天才やから、何してもうまくいけんねん」


『不意打ちの誉め言葉にデレた!』

『デレだこ!』

『顔真っ赤ですよ。タコだけに!』

『タコだけに!』


「うっさい! 誰がゆでダコや! 誰も言うてへん? もっとうるさいわ!」


 コメントに突っ込んだ後、アトリに向かって機械足ではないタコやん自身の手を差し出す。


「ま、一緒にはいけへんけど、アンタの事は応援しとるわ。また気ぃ向いたら足向けさせてもらうで、タコだけに!」


「うむ。こちらも勉強になった。互いに頑張ろう」


 感謝の笑みを浮かべ、タコやんの手を握るアトリ。


『おおおおおおお!』

『おれ、ちょっと感動した!』

『いいなぁ。こういう友情!』

『戦闘シーンも好きだけど、こういうのもイイ!』

『だから早く収益化してくれ! いくらでも赤スパ投げるから!』


 握手シーンに沸きあがるコメント達。


 これが後に深層を突破し、『奈落』と呼ばれる領域に初めて足を踏み入れることになる『一八イチハツ』誕生の兆しになるのであった――



……………………


…………


……


「なるほど、そういう事か」


 そしてこの配信を見ていたしろふぁんは、ニヤリと笑みを浮かべていた。

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