拾参:サムライガールはコラボ配信でトラブルに遭う

『アトリ様がD-TAKOとコラボ!?』

『エクシオンに所属か!?』

『あの守銭奴関西人に捕まるとは……』

『薄い本が滾るぜ!』

『↑ 貴様ぁ、士道不覚悟、切腹だ!』


 アトリの脳内に展開されるさまざまなコメント。そして、


『は? タコやんとサムライガールがコラボ!』

『さすがタコやん。時代を先どるナイスセンス!』

『あのサムライが何故タコやんなんかに……金しかないよなぁ』

『信頼がなくて草』

『ある意味、信頼ある言葉』


 コラボしているタコやん事DーTAKOチャンネルのコメントも同時に流れてきた。脳の処理が追い付かなくなり、軽いめまいを起こすアトリ。


「ちょ、っと待ってくれ。おおおお、コラボするとはこういう感覚なのか」


「ああ、脳内コメントの同時展開は慣れへんとそうなるよな。すぐに慣れるわ」


「う、うむ。もう大丈夫だ。情報の洪水とはよく言ったモノだな。気を抜くと飲み込まれそうだ」


 そういうモノだと意識すれば、脳内に送られるコメントも受け入れられる。アトリは頭を軽くたたいて、平常心を取り戻した。


「あー。ええと、とりあえずタコやん殿とコラボすることになった。某の目的は下層入り口へのマーキングだ。タコやん殿が中層までの移動代金を払ってくれるということだそうだ」


「当然タダやないで。そんなことしたら足が出るわ。タコだけに!」


『タコだけに!』

『タコだけに!』

『タコだけに足が出る!』

『出たらあかんやつや!』


 足が出る、に反応してタコやん側のコメントが沸く。どうやら定番のネタのようだ。


「うちの目的は今日の中層ボスのトルマルンゴーレムや! 動く電気石と言われた雷撃系ゴーレム! そいつを倒してゴーレムコアゲットや! コアが手に入らんでもゴーレムの魔石貰って採算は取れるで」


『さすがタコやん、抜かりない』

『いやまて。ナチュラルにトルマリンゴーレムをたおせる前提なのはおかしいから』

『離れれば雷撃。近づいても放電でダメージ。電子機器は乱される。金属系武装は雷を通して使用者にダメージ。結構厳しいからな』

『アトリ様の日本刀もやばいよな』

『タコやんの機械腕もヤバくね?』


 アトリの同接者コメントがそう流れれば、


『腕ではない足だ!』

『タコやんのアレは足と呼ぶ。これがD-TAKOチャンネルのルール!』

『タコだけに足なのだ!』

『りょ』

『でもまじでどうなの? あの電撃に難儀して避けてたんじゃなかったっけ?』


 タコやん側の同接者コメントが反応してそう返す。これがコラボかと、アトリは納得していた。


「心配せんでもええ! 電撃対策はばっちりや!


 D-TAKO! ガジェット! チェェェェンジ! これが新ガジェット! 避雷針や!」


 タコやんの言葉と共に軽快な音楽が流れ、共に機械の四本が新たに展開される。その先には稲光を纏った細長い針があった。


「説明や! 電気は抵抗が低い通り道を作ればそちらに誘導できる。その性質を利用してトルマリンゴーレムの周囲に電気を誘導する針を設置し、雷撃系攻撃を全てそちらに流すんや!」


「おお、よくわからぬがそういう事だな」


「ウチはゴーレムの周囲に針を打ち込み、そこから逃さんように弾幕で動きを封じる。アンタはその間にゴーレムをばっさりと斬る!


 見事な役割分担や!」


『そっかぁ……?』

『電撃封じてアトリ様にゴーレムの相手を任せて、自分は高みの見物っぽくね?』

『確かにトルマリンゴーレムの電撃を封じれれば攻撃の6割はなくなるんだけど』

『すまん。うちのタコやんがすまん』

『悪い子じゃないんだ。ただちょっと楽して儲けたい欲が大きいだけで』

『ガジェット自体はきっちり検証して作っているんで。さすがにぶっつけ本番はやらないから』


 お互いのコメントが交差し、そんなことを言いあっている。


「むぅ。雷様を避けながらあの剛腕を対処するのが電気石人形の醍醐味なのだが。


 まあこれもこらぼれーしょんという縁。しかとその役割果たさせてもらおう」


『何言ってるのこのサムライ!?』

『近接距離で雷撃避けるとかどんな反射神経してるの!』

『ワシ、遠距離でも避けられる自信ないんですけど!』

『スマン。うちのバーサーカーがホントスマン』

『変態じゃないんだ。ただちょっと修羅道なだけで』


「ま、まあウチもあの配信を見てイケる思ったから誘ったんやが……あの雷避けて攻撃とかは予想外やったわぁ……」


 アトリのセリフと流れるコメントに頬を掻くタコやん。


「うん? タコやん殿はできないのか?」


「できるか! 放電で機械関係が全部イカれるから、電気系モンスターは相性悪いねん! 上層に出てくる電気ネズミとかにやられそうになるからな、ウチ!」


『自ら弱点を晒していくスタイル。さすがタコやん』

『ガジェットに全振りしてるもんな』

『そこに痺れるぅ! 電気だけに!』

『誰が美味いことを言えとwwwwwww』


 ボケとツッコミ。同接者との適度な距離。こういう配信もあるのだな、とアトリは納得した。


「やはり配信にはトーク能力があったほうがいいかのぅ? タコやん殿に弟子入りでもするか?」


『やめて! マジでやめて!』

『いいえ、アトリ様はそのままでいてください』

『関西弁を喋るアトリ様……アリナシのアリか?』

『ない。草も生えないぐらいにない!』


「おお? おう、わかった。この話はなしだ」


 何とはなしに言った言葉にコメントが猛反対したので、アトリは気おされるように頷いた。


「挨拶はこんぐらいでええやろ。


 ほしたら行くで! タコやんアトリのコラボ配信『トルマリンゴーレムを倒してみた!』や!」


「うむ、では参ろうか」


 その言葉と共に二人はダンジョンの移動門をくぐる。浮遊感が収まると、天井まで樹木が浸食している部屋だった。


「何と……某の知る中層とは趣が違うのぅ」


「アンタがゴーレムを倒した通路からはちょい離れてる場所やな。いうても迷宮災害が起きたら空間ぐちゃぐちゃになって道も様変わりするけど」


『怖いよな、迷宮災害』

『空間そのものがねじれるんだっけ?』

『もともと複数の空間が重なっているようなもんだからな。ダンジョンは』

『その空間が戻ろうとして起こるのが迷宮災害だっけ?』

『地震みたいなもんだな。プレートのずれが戻るとかそんな感じらしい』


「こっちやで。ショートカットすればすぐや」


 タコやんは展開した足の一つにライトをつけて光源とし、道を進む。障害らしい障害もなく、巨大な門がある空間にたどり着く。下層に続く移動門だ。今はただのオブジェだが、移動門を守るボスを倒せば下層に移動できる空間転移門が作動するのだ。


 そしてそのボスは――


「……あれ? おかしいな。ボスがおらへん」


「ん? そういう事があるのか? 某、門番がいないのは初めてなのだが」


「ウチもこんなん初めてやで。サービス出来てへんのちゃうか、これ。


 ……なんや、地震!?」


 突然揺れる地面に身をかがめるタコやん。


 しかしそれが地震ではないことはすぐにわかった。


 地面に連動するように壁や天井が揺れるのはわかる。だけど周囲の空気までビリビリと振動するのは明らかにおかしい。これは――



「なんやて!? っておわぁ!?」


 アトリはタコやんの服を摑んで思いっきり後ろに投げた。同時に日本刀を抜き、受けの形にして構える。


 ガキィン!


 アトリの刀が稲妻の剣を受け止める。続いて迫る炎の槍を横に飛んで回避し、水の鞭を後ろに下がって距離を取る。


 それは、空間に空いた穴から現れていた。


 フォルムを一言で言えば、ムカデだ。その長さは見えているだけでも20mを超え、時空の孔の向こうにまだまだ体が存在している。頭部近辺の20本の腕には様々な武器が握られている。


『は? え?』

『なんだコイツ……。いきなり目の前に現れたぞ!』

『マジか……こいつ、下層ボスだ!』

『ムカデアシュラだ!』

『それってインフィニテックの『ワルキューレ騎士団』を全滅させた……』


 ムカデアシュラ。


 そう命名されたムカデ型モンスター。下層から深層に繋がる移動門を守るボスモンスターだ。その全容をカメラがとらえたことはなく、またその戦闘スタイルも一度しか晒されていない。わかっているのは、


「冗談キツイわ。トルマリンゴーレムを、喰っとるで……」


 ムカデの頭部。その顎には稲光を放つゴーレムが囚われていた。6mもあるトルマリンの石人形。その重量を顎で咥えていた。


 ゴーレムは雷撃を放って抵抗するが、そのムカデは意に介さず顎に力を加え、ゴーレムを嚙み砕く。そしてその魔石を飲み込んだ。


 ジギャアアアアアアアアアア!」


 その瞬間、ムカデアシュラそのものが雷撃を纏う。トルマリンゴーレムの持つスキル【轟雷一身】を食らって我が物としたのだ。


『あれだ。ワルキューレ騎士団が全滅したスキル奪取!』

『食らったモンスターのスキルを使えるとか、チートだろうが!』

『インフィニティックの開発した武器やスキルシステムも使いこなしてるっぽいぞ。剣や鞭の動きが段違いだ。ムカデの動きじゃねえ!』

『槍も弓も銃も同様に使えるんだろうな……』

『なんで下層モンスターがこんなところにいるんだよ!』

『もしかして……迷宮災害か!?』


 荒れに荒れるコメント。


 召喚石などを用いて下層のモンスターを中層に召喚するという技術はある。実際、アトリはそれを目の当たりにした。


 しかしモンスターそのものが意思をもって中層にやってくることなど初めてだ。偶然時空の孔が開いて、そこを通ってきたのか。はたまた別の何かの思惑があるのか。どちらにせよ、想定外だ。


「こらあかんわ! 通報かけて撤退や! こんなんどうしようもあらへん!」


 驚きながらも緊急用の連絡をするタコやん。連絡が行き届き、中層にいる配信者がうまく逃げられればいいがそうもいくまい。中層にいる者達が逃げるより早く、ムカデアシュラは中層を蹂躙するだろう。


「いや。こ奴を此処で放置するわけにはいかぬよ。


 自主的に中層に移動したということは、そのまま上層にまで行ける可能性もある。最悪、地上に出ることもな」


 地上にダンジョンのモンスターが現れる。それはダンジョン顕現時に地上を混乱に貶めた大事件の再来だ。多くの人が死に、そして生活が破壊されるだろう。


「そんなん、あくまで可能性や! そんな事より――」


 こっちも逃げなあかん、と言おうとしたタコやんは、


「それにな」


 アトリの言葉とその表情を見て凍り付いた。


「強者がそこにいて、殺意をぶつけているのだ。応じてやらねば失礼ではないか」


 薄く微笑む、サムライの笑み。


(リアルで見ると、マジで背筋冷えるわ!)


 強きモノとの戦いを前に喜ぶ戦狂い。その笑みを画面越しではなく間近で見て、タコやんは言葉を失った。




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