雨の日、洗濯を待ちながら(5)
「どう、わからないわけ?」
「あれ、胸に
「ああ」
いま千枝美が考えた「立ち
「むしろ、こう、立ったまま、血を空に飛び散らせて、空を自分の血の色に染めてやる、って、女神さまにでもなったような感覚? それが、夕焼けほど美しくはならない、って、かえってよくわからなくて。でも、成り立ってるよね。女神さまでも夕焼けに勝てない、って」
朝穂。
やっぱり自分は女神さまのつもり。
そんな自意識なんだろうな。
「で、
いいのかなぁ?
「でも、それが伝わるようにできてないよね。ただ
「ま、だからそこは、朝穂の勝ちでいいんだよ」
……なんか。
はぐらかされたような感じだが?
「で、さ。
さっきは「とろとろとろとろ」と言っていた。
「うん」
と千枝美は答える。
「想像できないよ、樹理がもごもごとか」
少しでもルールからはずれたらアウト!
それを杓子定規に適用して何ごともきっぱり決めてきっぱり言うのが、まじめ意地悪
「そんなの違う! ぜんぜん違う!」と言ってから、あの
「でも、あれ」
と、愛が思わせぶりに言う。
「わたしが、
その愛の考えはわかった。
「もしかすると、ね」
千枝美自身だって、その昭和のだれかの短歌をもとにした、って指摘された猿渡先輩が、「ほくそ笑む」という感じで自信たっぷりに笑ったのを見ていなければ、猿渡先輩に入れていた。
「でも、やっぱり違うんだよね」
愛が言う。
「寺山修司のばあい、自分が、その昭和の戦争って経験してるわけ。子ども時代だけど。しかも、マッチを
愛の自己主張だ。
授業以外で、こういう強い自己主張をするのは、珍しいと思う。
「で?」
千枝美はマグカップを置いて、顔を上げる。
「言ったの? 樹理に」
「言った」
愛らしくなく、きっぱりと言う。
「そしたら、優が怒った」
だから、どうして愛され妹が怒る?
いちど、この妹には、愛という名の姉の愛を、こんこんと教えたほうがいいのかも知れない。
姉の愛 こんこんこんと 教えたい
いや。
それとは違う!
こんこんの意味が違う。
たぶん。
理系がさがさ女子にはよくわからないけど。
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