雨の日、洗濯を待ちながら(4)
「
「はあ」
そういうもの?
この
「だから、あのじめじめ短歌に、青白く
と、愛が、軽く含み笑いする。
頬の血色がいい。
「
優。
自分の部よりも、八重垣会の味方をしたいのだろうか?
「いや、でも、それは、朝穂はそうかも知れないけど、こっちを勝たせて、ほかの子が自分の体をナイフで傷つける事件とか起こしたらどうするの、って優に言って。そしたら、樹理も黙っちゃって」
「でも」
と、千枝美はアップルティーを少し飲んで、反論する。
「だったら、胸に
刃物で胸を突いて自殺とか起こったら、どうするの?
「でも、愛はそっち、勝たせたでしょ?」
愛が説明する。
「
つまり、泣いてしまった八重垣会の部長ではなく、だ。
「泰子ちゃん二連勝になるかわりに朝穂三連敗はさすがになしだと思ったし。ここで朝穂に勝たせるためにヘモグロビンの話をしたりしたんだよ」
「はあ」
「でもさあ」
愛が言う。
「あのナイフで切り刻むほう、ほんとは、違うんだよね。あとで気づいた」
「はいっ?」
こんどは、ことばに出して言う。
「何が違うって?」
たしかに
あの朝穂って子の堂々とした「美女」ぶりと、自分を傷つけたいという願望の組み合わせが。
でも……。
愛はどう答えるだろう?
「あの朝穂って子、ナイフで自分の体を切り刻んでみたい、って短歌で。もし、樹理が言うように、自分でそんなことする気がないのにそう歌ったとしたら、気もち的に、うそじゃない?」
「まあ、それは」
相づちを打って、アップルティーを飲み、愛の目を見上げる。
背は愛のほうが低いけど、千枝美が低いベッドに腰掛けているので、見上げることになる。
じゃあ、愛は、あの大人っぽい朝穂の自殺願望、ぜんぜんそうは見えないところにもろさが潜んでる、みたいな話をしたいのだろうか?
「あれは、そうじゃなくて」
と、愛はおっとりと話し始めた。
「青白くて緻密なナイフで切り刻んでみたい、切り刻んでも自分にはぜんぜん傷がつかないから、どんなするどいナイフでもわたしはずたずたにできないから、っていう、自信の表現。傷もつかない
言って、愛もアップルティーを飲んだ。
「はあ」
千枝美は、長くため息をついた。
よくそこまで考えるものだ。
考えるものだ、が。
たしかに、あの子は、青くするどいナイフの刃で切り刻まれても、胸をはってやや斜め上に視線を向けて、自信たっぷりの微笑を見せているに違いない。
それで死ななくてはならなくなっても、「
そう思うと、愛の説には納得できた。
「だから、血の色の短歌のほうが、ほんとは、わからない」
愛は、口調はとろんとろんが抜けてないけど。
でも、いまは、自然に自分の主張を表に出している。
そんな感じがする。
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