雨の日、洗濯を待ちながら(2)

 あいは、自分の洗濯物を入れた洗濯かごを置くと、アップルティーを入れてくれた。

 この汗をかく季節に熱いアップルティーというのもどうなの、と思うけど。

 粉をといて作るインスタントらしいけど、香りはいい。

 このりんごっぽいにおいが、愛には染みついている。そういう感じがする。

 たしかに、この温かさと香りで、緊張は解けていった。

 愛はピンクのTシャツを着ている。少し大きめなので体の線はわからない。

 千枝美ちえみは薄いピンクのシャツにいつも着ている濃いピンクのオーバーオールだ。

 おそろい。

 お揃いではないけど、お揃い感がある。

 愛が自分の椅子に座る。千枝美は、ベッドの頭のほうに座って、ベッドの横の小テーブルにマグカップを置いた。

 ちゃんとベッドメイクしてあるところが愛らしい。

 そういえば、ゆうが、あったかいレモネードって歌にしていたのは、こんな感じなのかな。

 ほとんど造りがかわらないこの寮の部屋の窓際に、レモネードのマグカップを抱いて立つ優。

 まじめで気の強そうな優の、そのメランコリックな表情までが、千枝美の頭に浮かぶ。

 「優、だれのことか、言ってくれないんだよね」

 愛も同じことを考えていたらしい。

 「いつの話かも言ってくれないし」

 ふっ、と笑う。

 「もっとも、こんな姉が応援する、とか言ったら、ほっといて、と思うだろうしね」

と愛は言った。

 まあ、わからないではないが。

 「で」

と、千枝美はきく。

 「優、対決については、なんて?」

 「歌合うたあわせ?」

 いや。

 カリオストロ伯爵じゃないんだから、べつに、より優雅に言わなくてもいいんだが。

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