雨の日、洗濯を待ちながら(1)

 マルシェの日の夜から雨になった。

 八重やえがきかいの涙雨。

 気が早いのか、順当なのか、気象庁は「梅雨入りしたと見られる」と発表した。

 雨は、次の日も、その次の日も続いた。

 下校して寮の洗濯室に行くと、あいがいた。

 愛は先に学校から帰っていて、洗濯が終わったところらしい。

 千枝美ちえみはこれからだ。

 最初は、湿気が多くて洗濯物乾かないよね、とかいう話をしていた。そのあと、愛がいきなり

「あれから、千枝美のところにはだれか来た?」

ときいた。

 「だれか、って?」

 「だから、八重垣会か、古典文芸部かの、だれか」

 「いいや」

と千枝美は言う。

 「あれから、樹理じゅりはずっとわたしと会うの避けてるし」

 「あれから」ではないな。

 前からだ。

 「わたしのところには、樹理、来た」

 この雨の天気がもたらすしっとりさをさらに上回る湿り気の愛の声!

 「この雨の 天気がもたらす 湿気しっけより さらに湿れる 愛の声かな」

 ダメだ。

 あの判定役を担当した日から、なんか、なんでも短歌に落とし込むくせがついてしまった。

 だいたい、成功しないで投げ出すのだけど。

 「ゆうも来た」

 まあ。

 樹理が寮委員長で愛が副委員長、それに、愛は性格が柔らかいから、圧力をかけやすい。

 それに、優は愛の妹だから、愛のところに来るのだろうけど。

 愛は、中途半端に口をとがらせている。

 「じゃ」

と、洗濯物を洗濯機に入れた千枝美は、愛に言う。

 「これが洗えるまで、愛の部屋、行っていい」

 「うん」

 これがはっきりした「うん」ではなく、どこかに空気が抜けているようなはかなげな「うん」なので。

 とても萌えるっ!

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