第九番 道村泰子 対 猿渡総乃
かわりに
こういう体型に、この
白いだけに、ぜんぜん体が締まって見えない。
しかも、
でも、眉をきりっとさせて、黒い目で相手をしっかり見
その目で見つめられた古典文芸部の
八重垣会の先輩が、きびきびと礼をする。
これは……。
ことば遊びクラブ、押されてるな。
資料を見ると、八重垣会の先輩は
* * *
【古典文芸部】
君のかげ見たくもないとこぶし
ひろ子(道村泰子)
* * *
【八重垣会】
霧
いと(猿渡総乃)
* * *
もう、今回は
「古典文芸部は、やっぱり恋の歌、ですかね」
「こぶしを握って、息を切らせる、ってことは、走って逃げたってことだよね。わりと激しい恋だね」
と
やっと、へんな科学問答にならずにすんだ!
「かげ、っていうのは、古語らしい言いかたで、君の姿、だよね」
おっとりおっとりの
「走って逃げて、でも、君が好きだ、って、相手がそこにいなくなって」
そこで、突然、愛がことばを止めた。
愛が、ちらっ、と、古典文芸部の席を見る。
千枝美もつられてそっちを見ると、そこに座っている道村泰子が、
「あ」
と、愛は、急いでその泰子から目を
話をしてはいけない、ということは、アイコンタクトもだめ、ということで。
まじめだなぁ、そんなの気にするとか。
愛は、うつむき気味になって、言う。
「き……み……こ……い……し?」
千枝美は愛ほどまじめではないので、道村泰子のほうを見ると、謎めいた笑いがはっきりした笑いに変わって、うん、とうなずいている。
「つまり、五七五七七の、最初の字をつなげると」
と、今度は愛は顔を上げてはっきりと言う。
この子にしては、声に力が入っている。
「「き」みのかげ、「み」たくもないと、「こ」ぶしにぎり、「い」きをきらせて、「し」るわがこころ、で、君恋し、になるんだよ」
「おおっ!」
千英が大げさに感心する。
「さすが古典文芸部!」
千枝美も感心してみせる。
それはなー。
ことば遊びクラブだもんね。
この子、見てくれ清楚だから、他校の男子といい仲になったのかと、本気でジェラシーを向けようとしたよ。
愛の発見、すごい……。
しかし、愛の底力はそれだけではなかった。
「それで、いとさんの短歌ですけど、これは「マッチ
「はいっ?」
ステージ上から客席まで、反応は二分された。
「うんうん」と目を細めてうなずくのと、ぜんぜんわからない、というのと。
ステージ上では、千枝美と千英がわからない派で、道村泰子はわかるらしい。
客席では、先生方三人はわかるらしいけど、後ろの、瑞城の子を含む四人連れをはじめとして、わからない、って感じのほうが多い。
底力を示した愛が、解説する。
「
千枝美は、義理で、その猿渡総乃という先輩の顔を見た。
目を細めて笑っていた。
嫌悪感!
いや。
さっき、道村泰子も、自分の短歌のネタを明かされると笑っていた。
だから、この先輩も笑うのは当然だし、笑いかたも同じような感じだ。
口角を引いて、にんまり、にっこりと。
なのに、どうしてこの先輩の笑いからは、いやらしさを感じてしまったのだろう。
「そうなんだ」
千英が感心している。
「わたしは、異世界ファンタジーとかで、霧のなかを歩いてたら異世界に入ってしまって、そういうのを繰り返して、いつになったら自分の国っていうのに転移できるんだろう、みたいな歌だと思っちゃっちよ」
いや、自然な発想だと思うよ、千英。
でも、八重垣会のまじめな先輩がゲームネタ短歌なんか作るわけないでしょ?
千枝美は言った。
「どちらも、終盤にふさわしい、凝った作りの短歌でしたけど、そろそろ、判定、行きましょうか」
* * *
【判定】
愛 ひろ子(古典文芸部)
千英 ひろ子(古典文芸部)
千枝美 ひろ子(古典文芸部)
うわっ!
やってしまった。
自分が古典文芸部に入れた以上、もしかして古典文芸部が勝つかな、ということは考えていた。
さっきの、その昭和のだれかの短歌をもとにしてると見破られたときの、この先輩の笑いがどうもいやらしく感じてしまって、千枝美はそちらに入れる気にならなかったのだけど。
でも、三対〇で、完勝?
千英や愛は、何を考えたのだろう?
千枝美がその猿渡総乃という先輩の顔を見ると、先輩はわざとらしく顔をそむけてしまった。
ことば遊び短歌に負けるとは思っていなかったのだろう。
八重垣会の指導者の
恵理先生は、気の毒そうに猿渡先輩を見ていた。
でも、千枝美が自分を見ているのがわかると、にこっ、と笑って見せる。
かえって、ぞっとする感じ?
今回は、道村泰子も猿渡総乃先輩も、お
最後は、部長対決らしい。
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