第四番 城島由己 対 穂積晶
相変わらずきょろきょろしている。
実力あるんだから、もっと堂々としていればいいのに。
古典文芸部のほうは、ふつうに制服を着ているだけで派手な光を発散しているような娘が登場した。
これが、あのパンダ短歌事件の主犯、
言うことはまちがってないことが多いけど、ともかく、派手なんだよね。
そして、気が強い。
まだおどおどしている感じの城島由己に、きっぱりと礼をして、席に座る。
今度は八重垣会が先攻だ。
* * *
【八重垣会】
雨の日は君の手のひら恋しいと声届けたい曇り空の日
ゆうこ(城島由己)
* * *
【古典文芸部】
白いクマ 黒いクマより パンダだよ ついに来たんだ クマよりパンダ
晶(穂積晶)
* * *
これは……。
やっぱり、こいつが主犯だ。
パンダ短歌事件の。
さっきの
晶は、クマということばを使って、そこをはっきり突いている。
攻撃している、と言ってもいい。
「ついに来たんだ、っていうのは」
と、
「動物園か何かに、こう、みんな待ってたパンダが到着した、ってこと?」
わざとパンダ短歌事件から話をずらそうとしてるな?
まあ、いいけど。
「いやあ」
と
「パンダも貴重だけど、シロクマも貴重でしょ? 最近、気候変動で北極の氷が
……いいけど。
いや、気候変動はよくないのかも知れないけど、とりあえずここでは関係がない。
みんな「パンダ」の意味をはぐらかそうとしているな?
それに、話が派手な晶のほうに集まって、さっきからおどおどしてる城島由己のほうが無視されている。
しようがない。
「「雨の日は」で始まって、「曇り空の日」で終わってる、ってことは、まだ雨降ってない、ってことだよね?」
「うん」
と応じたのは愛らしい愛。
「雨降ったら、手を握って、って思ってるんだよね」
いいねえ。
青春らしくて。
そこに、幽霊部員志願の千英が。
「でも、片手で傘もって、もう片方の手を握ったら、
……。
作った由己は、目をぱちぱちっとさせて、うつむきかけたけど、顔は伏せずに客席のほうを見た。
フォローしなきゃ。
「はい。科学部なんかに判定を任せるから、こういう
言うと、科学部に判定を委ねたメイ先生が、いちばん前の席で笑った。
体をのけぞらせて、大笑いした!
それを。
つまり、メイ先生が笑っているのを、隣の
しようがないなぁ……。
「珍しい動物の到着を迎える高揚感」
……だれもそんな歌だと思ってないかな?
「それと、メランコリックな曇りの日の思い、どっちを取りますか」
と千枝美はまとめた。
* * *
【判定】
愛 ゆうこ(八重垣会)
千英 ゆうこ(八重垣会)
千枝美 ゆうこ(八重垣会)
またも八重垣会の完勝だ。
でも、完敗した穂積晶も、堂々と、笑みをたたえて座っている。
その大きな目の輝き、塗らなくても自然にピンクの頬……。
なんかなぁ、こいつも、なんか自然と腹立つ存在だよなぁ。
自然と目立ち、自然と腹が立つ、そんなやつだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます