第10話 異界入り

「蒼井空太、神宮寺焔、両名の異界入りを確認しました。いかがなさいますか? 局長」


 局長。そう呼ばれた白衣を着た女性は無数のモニターが表示された、家具も何もない、あるのは大量のパソコンがある空間で、片手にコーヒーマグを持ちながら職員に命令する。

「現状を維持せよ。まずは様子見だ」

「かしこまりました。」

 命令された職員はパソコンに向かうとカタカタとキーボードを鳴らし始めた。局長と呼ばれた女性はコーヒーマグを傍にあった机に置くと、険しい顔でモニターを凝視する。

「蒼井空太・・・・・・悪いが貴様にはここで退場してもらう」


――ヒュウウウウウー


 生ぬるい風が頬をなでる。不気味な夕焼けはまるでこの世の終わりを表しているかのようだ。空太と焔は異様な空間にしばらく言葉が出なかった。

「ここは・・・・・・学校か?」

 最初に声を発したのは焔だ。

「そう・・・・・・みたいだね」

 空太もやっとの思いで声を出す。周りを見渡してみると確かに空太達の通う学校であることは間違いない。しかし、エレベーターは上昇していたはずなのに、何故か1階のグラウンドに出てきていた。

「とにかく、情報を集めるぞ。他にも誰かいるかもしれないからな」

 焔はそういうと昇降口の方へと歩き出した。空太も後に続く。

「それにしても、デカい犬、デカい鶏の次は異界か。わけがわからないな」

 焔はため息を吐きながら言った。

「そうだね、最近変なことに巻き込まれることが多すぎるね」

 空太も焔に同意する。確かにここ最近モンスターに遭遇したり襲われることが多くなっていた。いくら異世界の日本に転生したからといって、モンスターが出てくるのは何かおかしい。こちらの日本はスマホがないだけなのだ、ファンタジーの世界ではない。

「問題は、どうやって元の世界に戻るかだ。空太は心当たりはあるか?」

「いや、異界に来たのは初めてだから分からない」

「そうか、ならばアンノウンに聞いてみるのはどうだ? なんでもできるヤツなんだろう?」

 そうか、その手があったか。確かに今まで遭遇した出来事は全てアンノウンが解決してくれていた。今回も聞いてみれば、元の世界に戻る方法を教えてくれるかもしれない。空太はスマホを取り出すと、メッセージアプリを起動する。アンノウンに現状を送信する。


『アンノウン、いるか?』


『いかがなさいましたか? 空太様』

 良かった。アンノウンに繋がった。


『実は今、異界とやらに迷い込んでしまったらしい。脱出方法を知らないか?』


『申し訳ございません。異界の脱出方法は私でも解明致しかねます』


『やっぱりか』


『ですが、校内を回ればなにかしらのヒントがあるかもしれません』


『そうなのか?』


『はい。なにか怪しい所があれば写真を撮ってください。お手伝いできるかもしれません』


『分かった。任せたぞ』


 アンノウンに返信を送るとメッセージアプリを閉じ、スマホをポケットにしまう。焔にも報告しておこう。

「焔! 報告したいことが・・・・・・」

「しっ! 静かに・・・・・・」

 焔は急に姿勢を低くすると、傍に来るようにジェスチャーをした。音をたてないように、焔の隣に近づく。空太は声を抑えて焔に聞く。

「どうしたの焔?」

「空太、あれを見ろ」

 そういって焔が指をさした先に見えるのは、一年生の教室だ。よ~く目を凝らして見てみると、中に誰かいる。

――良かった。他にも人がいる。そう思った空太だったがすぐに異変に気づく。

「あ・・・・・・・あ・・・・・・」

 おかしい。教室の中にいる人らしきものは体を左右にフラフラと揺らしていた。

しかも、呻き声のような声を発している。

「空太、残念だが、アレは人ではないようだ」

「じゃ、じゃあアレは何なの?」

「写真を撮ってアンノウンに送ってみろ。そうすればわかる」

「そ、そうだね、やってみる」

 空太はスマホを取り出しカメラモードにすると人らしきものにレンズを向ける。


 カシャ!


 カメラのシャッター音が鳴り響いた。これでよし。そう思ったその時。

「空太逃げるぞ!」

「え?」

 焔が叫ぶと同時に人らしきなにかは、空太達に向かって襲い掛かってきた!空太と焔は急いで近くの教室に逃げ込んだ。


 ドン!ドン!


 人らしきなにかはドアに頭を打ちつけて、ドアを破壊しようとしている。幸い、鍵をすぐにロックしたので入ってくることはなさそうだ。教室に入ったと同時に、アンノウンから写真の解析結果が届いていた。スマホの画面を見てみると、そこに表示されていたのは――


『ゾンビ』


 架空の存在だと思っていたゾンビが今まさに二人の目の前にいるのだった・・・・・・

 



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