五章 不忘蔵王と蒼極天の神 6
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戦争をテーマにした映画を映画館で見たとき、耳が痛くなる思いをした事がある。
大砲とかロケットランチャーとか荷電粒子砲だとか、そんな感じの武器が発射されたときの音。
その音は、そんな映画の中に出てくるフィクションの記憶を呼び起こすには、少しばかり大きすぎた。
「……あそこ」
初めて聴いた間近に落ちる巨大な雷鳴音。
イルカが示した場所は、駅近くに建設中の巨大なマンションだった。
距離にして約一キロ。走れば五分とかからない。
水奈はここには居ない。
あいつには町の様子を監視して貰わなければならない。あたし達が第一に注視しなければならないのは、ユイガの居場所なのだから。
あたしとイルカは顔を合わせると足を向けた。
暗い雷雲立ち込める空の下で、赤い警告灯を明滅させ現実にありながら現実感を感じさせない現代の神殿――人間を見下ろす為に作られたと錯覚させられるような、巨大な高層マンションへと足を向けた。
走るの苦手なんだけどなぁ……。なんて、思っている余裕は無い。思ってしまったけど。
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「……蔵王」
工事中を表す白いシートをくぐる直前、マンションの敷地へと入る前に、イルカは急に足を止めるとあたしを呼び止めた。
「……覚悟する」
覚悟? そんなものとっくの昔に出来てますよって!
「……蔵王は人の痛みに敏感。でも自分の痛みなら我慢できる。それは昔から。だけど――」
そりゃ買い被りすぎだ。
あたしは残念だけど飽きっぽい上に苦手な物には蓋をするタイプだよ。
部活に勤しむ学友を見ては賞賛を覚え尊敬をする一方で、自分には真似出来ないなといつも思っているさ。
だが。
《だけど》か。
それはつまり。
「……おーけー。ちょっと深呼吸させて」
スーハースーハー。
酸素を取り込む事は頭を落ち着かせる事にも非常に役立つそうだ。
ここまで全速力で走ってきたお陰で、目前に広がる世界を正常に認識できず、チカチカしていた頭が、少しずつまるで霧が晴れるように明確になる。
よしよし。万全完全準備万端。鬼でも蛇でも出やがれってんだ!
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