五章 不忘蔵王と蒼極天の神 4
「はぁ~……」
どっと疲れが出た。
差し出された麦茶に手を付ける。
キンキンに冷え切ったそれが喉を通っても、あたしの気分は全くもって晴れなかった。
「お疲れ様です」
「……名演技」
「ごめん。ちょっと辛い。泣くかも」
両手で目を抑えるあたし。人の存在を否定して、罵倒する事がこんなにキツイとは思わなかった。いじめっ子ってすごいわ。あたしにゃ耐えらんない。
「僕の胸でよければいくらでもお貸ししますげふぅぅっっ! もうしわけなるどぉぅぶっっっ!」
「……クズ。冗談は場所を選べゴミカス」
あたしの手が出る前に、水奈の悲鳴と椅子かなんかが壊れる音とイルカの的確な評価が下ったので、しばしの間あたしは気を落ち着ける事に専念していた。
「はぁ~……」
そしてあたしは、二度目のため息を吐きながら天井を仰ぎ見る。
「お疲れ様でひゅ」
「……ご苦労様」
水奈の部屋の柔らかそうなソファに座ったあたしの前の椅子には、イルカと水奈……お前顎外れてないか? が座っていた。
「お話はイルカさんから全てお聞きしました」
「……こんなクズ。ゴミカスに話をする理由が解らない」
それ言い換える意味無いよな? いや、どっちも当たってるけど。
「こいつはそれなりに使えるからさ。ゴミカスだけど仲間に引き込んでおいた方が色々と都合が効くんだゴミカスだけど」
「ああ……。美しい女性に囲まれてあらん限りの罵倒の嵐をこの身に受ける事が出来る空間……。気持ちいい、ではまだ表現が足りません……」
何故か恍惚とした表情を浮かべる水奈。変態は一度死んだほうがいい。
「それで、ユイガは?」
「先ほど出て行かれました。……あんなユイガさんを見るのは初めてですよ」
「……ユイガ、泣いてた」
……そっか。
いや、いいんだこれで。
「……姉さんも居ない。ユイガの後を追って出て行った」
イルカの姉さん。エイピスもユイガの後を追っていったようだ。
ユイガが正義を強く望むことで現れる悪。これまでは三日から四日の間を空けて現れていたが、今回は昨日のシマウマから続いて連日である。
やはり先ほどの一件がユイガの精神に大きな影響を与えたためだろう。
そう、とりあえずは予想通りだ。だが、それでもやはり。
「ごめんな。ユイガ」
知らずあたしは言葉を漏らしていた。
「……」
「……」
あたしの呟きが聞こえてしまったのか、二人が押し黙る。
「わるい。そうじゃないよな」
そうじゃない。これは必要な事で、彼女を助けるためなのだから。
そう言い訳しないと、あたしの精神は罪悪感で押しつぶされそうだった。
「よっし! 行くよ!」
こんな所でヘコんでなんていられない。
だって。きっと、あの子はもっと辛いはずだから。
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