三章 不忘蔵王と黒い獣 3


 

『さて。どこがあたった? まさか悪魔じゃないだろうな? ……それなら最低だよ。何一つ面白くない。お前は一度地獄に落ちた方がいい』

 

 そして妹の不幸を望む姉ちゃんは一度病院にご厄介になって頭の検査をした方がいい。

 

『いい度胸だ。まだ調教が足りていないと見える』

 

「誰よりも尊敬するお姉さまに対して畏怖と羨望以外の感情を持ち合わせた事などありませんです。ハイ」

 

 姉ちゃんのさとり能力は水奈の比ではないのだった! んな大事な事を忘れるなんて、あたしのバカバカオマヌケさん、でもそう言うところも可愛いぞ☆

 

『さて。寮に鏡は無かったか。今度送ってやる、ついでに頭の中身も見つめ直せる機能をつけてな』

 

「全力でご遠慮いたします」

 

 姉ちゃんの事だ、了承してしまったが最後、中身を見つめ直すどころか人格矯正機能まで持った変なロボットとかを送り込んできかねない。

 

『……まあいい。遠隔調教機能はもう少し見直す余地もあるしな』

 

 もう作ってるんだ! そして調教かよ! あんたはあたしをどれだけマゾにしたいんだ!

 

『さて。次の予言、と言いたいところだが、これはどちらかと言うと既言なんだが』

 

 勝手に変な言葉を作らないで欲しい。

 

『風と鯨と犬には気をつけな。お前の頭どころか、全身使ってもあまる』

 

 そこまで解ってたのなら、三日前に教えてくれ。

 

『まあ嫌がらせだが』

 

 ですよねー。知ってますよ。もう。

 

『だが気をつけろ。これは姉なりの親切心だ』

 

 これ以上何があるって? 神様も怪物も出てきたし死にそうな思いだってしたじゃないか。

 

『敬語』

 

 ええい! いいだろ! 姉ちゃんなんだし!

 

『目上の人間には敬語を使え。先に生まれたというだけでも、どのような知識にしろ、お前より持てるものは多い。知識は力だぞ、蔵王。もっとも、心の中でどう思ってようとそれは勝手だが』

 

「心の中でなんですが」

 

『私相手には全身全霊全人生を使って敬意を払ってもまだ足りん。四〇〇万光年程な』

 

 光の国より遠いじゃねーか! そもそも単位がわけわかんないし!

 

『神様が来た。怪物が出た。それでも死人は居ない。倒壊した建物はあってもな』

 

 ええ、はい。よくご存知で。

 もう特に驚きもしない。

 

『だがな、これは親切心だが。お前は殺されるぞ。蔵王』

 

 ……何?

 

『お前は死ぬぞと言ったんだ』

 

 あたしが死ぬ? いつ? どこで?

 夕方のアレでもあたしのキャパシティ的には十分オーバーキルなんですが?

 

『あれはフリだ。次は死ぬ』

 

 フリってなんだよ。次は死ぬって、それじゃあどうしようもないじゃないか。

 

『出会ってしまうのは確定事項だ』

 

 出会う? 何と?

 

『さて。あたしはウソもつくし冗談も言う、信じたくなければ信じなくてもいい』

 

 姉ちゃんの声は……弾んでいた。あたしが死ぬと、あたしが殺されると言っているのに。

 

『さて。選ぶのはお前だ。蔵王』

 

 何をどう選べというのか。信じる事を選ぶのか、死ぬ事を選ぶのか。

 

『もう一度言おう。これは親切心だ』

 

「……姉ちゃんの親切心なんて信じられないんですが」

 

『何を言う。お前は可愛い可愛い私の妹だぞ』

 

 それがそもそもウソくさい。

 

『誰だって、お気に入りのオモチャが他人に壊されるのを喜ぶまい?』


 

 ……ああ、納得。

 

 

『さて。それでは、良き日を過ごせ、妹よ』と言うだけ言って、携帯電話は沈黙した。



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