二章 不忘蔵王と必要なもの 1

 

 

《あなたが思う正義の味方とは?》


『正義はせいぎだよーー!!』


 


● recollect


 

「ざおーはどうしていつもここに来るのー?」

 

 あたしと彼女が遊ぶのは、いつも決まって彼女と出会ったあの公園だった。

 二つしかないブランコの隣に背の低い滑り台が設置され、滑り台から降りる先にはやはり申し訳程度の狭い砂場が据えられただけの、小さな町の片隅に、忘れられたように置かれた小さな公園。

 

 リスやウサギを連想させるような、青くて大きな瞳の少女は、よくあたしの顔を見つめてはそのセリフを言っていた。

 

「友達でしょ?」

「ともだちー?」

 

 このやり取りも、もう何度目になるだろう。

 あの出会い以来、あたしは学校の帰り、おつかいの帰り、家に帰ってからなど、暇を見つけてはこの公園へと訪れ、そこに必ずといっていい程居る彼女とよく遊ぶようになった。

 

「そ。友達」

「そっかー。ともだちー!」

 

 彼女は友達と言う言葉が大層お気に入りなようだ。お気に入りなようなのだが、何故だかその言葉をいつも忘れる。

 もしかしたら彼女にとって《友達》という言葉自体知らない言葉で、そして彼女にとって《友達》と呼べる人間は、あたしが初めてだったのかもしれない。

 

「ともだちだからここに来るのー?」

 

 綺麗な金髪の髪が、彼女が傾げる首の動きに対応してゆらゆらと揺れる。

 

「違う違う。友達だからここに来るんじゃなくて、友達だから一緒に遊びに来るの!」

「ブランコとあそぶのー? すなばー?」

 

 ちょっぴり切なくなってしまうような返答だが、彼女にはまったくもって悪気がないのだ。

 

「キミと! あなたと! あたしが友達! 友達だから! ミガサキが居るからミガサキと遊びに来るの!」

 

 こう言うと、彼女はやはりいつも少し考えるように唸った後。

 

「そっかー! わたしのともだちー! いっしょにあそぶー!」

 

 両手を挙げて喜びを表現し

 

「えへへー」

 

 そして決まってあたしの両手を覆うように自分の両手で掴むと

 

「うれしいなー」

 

 顔を赤くして本当に嬉しそうに笑うのだった。

 そんなあたしの対応はと言うと。

 

「……」

 

 あたしは決まって、惚けた様に彼女を見つめてしまうのだった。

 

 友達が居なくて、寂しそうで、つまらなそうだった彼女。

 あたしが助けてあげなくちゃと、そんな自分勝手な正義感で手を差し伸べたあたし。

 

 だけどあたしは、そんな寂しそうで可哀想な彼女にきっと。

 

「ざおー? どうしたのー?」

 

 金髪の少女が可愛らしく首を傾ける。

 

「……い、いや。なんでもない」

 

 我に帰ったあたしは、必死でその視線から逃れるように顔を背けるのだった。

 

 その時のあたしはまだ幼い子供だった。だから気づいていなかったのだろう。

 きっとあれは、あたしの初恋だったのだ。


 

● ……recollect end



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