一章 不忘蔵王と正義のミカタ 1-1
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《あなたが思う正義の味方とは?》
『子供の妄想。不可能な現実。誰だって一度は考えた事がある夢。……なんて、あたしも年食ったのかねこりゃ』
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『さて。明日の天気は晴れでしょう』
『神の降り立つ地。始まりは絶望から。絶望ところにより歓喜と無力』
『訪れは唐突にして必然。お出かけの際には友人の助力を是とし、他人への助力を是としましょう』
『――もっとも、お前はただの傍観者でしかないから今はそれなりに楽しむがいいさ』
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「うちの姉ちゃんさ。実は神災(しんさい)なんだ」
朝、授業の始まる前のここ、九王ノ宮高等学校一年F組の教室に、あたし――不忘 蔵王を含めた四人の少年少女が顔を並べていた。
教室にはあたし達の他にもちらほらと人が入ってきているが、並べられた椅子にはまだいくつかの空きがある。それもそのはず。朝礼までは少しばかり時間があるのだ。
……まあそれも仕方がないのだろう。学生にとって、朝の起床は何よりも苦痛なものなんだ。あたしも大っ嫌いだしね。
「理解した。フワ。どこか悪いのか頭だよ頭が悪いんだな。可愛そうにしかしもはや手遅れです!」
「恋の悩みは時に人生ばかりかそののーみそまでピンク色にしてしまうんだね~。よしよし、玉兎ちゃんに洗いざらい話してごらん~」
と、そんなあたしの言葉に対してなんとも失礼な返答を返してくれる両名は、あたしがこの学校に入ってから最初に出来た友人の二人であり、目下それなりな友人関係をと言うか、既にいい感じに悪態をついてくれるぐらいにまでなった悪友達だ。
体格のイイ短髪青年が蘭堂 大(らんどう だい)、ウェーブがかった赤毛が愛らしい少女が月峰 玉兎(つきみね ぎょくと)である。
二人のリアクションにあたしはやっぱりねと思いつつも、とりあえず否定の言葉で返す。
というか、あたしが既に手遅れな頭だったり脳みそピンクに染まってるように見えるのか? ちょっぴし切なかった。
「いや、うんまあそうだよねそういう反応するよね。一つ誤解のないように言っておくと、あたしは別に頭が可愛そうでも恋にフォーリンしてる訳でもないので勘違いしないよーに」
言いながら、でもそれも仕方が無いかなと思う。あたしの姉ちゃんが神災だと言って、普通の人がそういったリアクションを返すのは当然といえば当然なのだ。
神災とは人を超えた知識と人を超えた能力を持つ《神》に愛された人間。
神の力を扱うその神災の数は少なく、はっきりとした数字は出ていないが、全世界で一〇〇〇人前後と言われている。
社会的にその存在が認められたのもここ数年の間で、テレビのニュースや新聞等でも取り上げられ知名度ばかりが先行しているが、実際に存在する確立は約五〇〇万人に一人。日本の人口と考えれば、この国に三〇人居るかどうかと言ったところだ。
当然、本物の神災を目にした事のある人間は少ない。――というか殆ど居ないだろう。
そんな割合なのだから、あたしの姉ちゃんがはぐれメ○ルよりも出現率の低いその神災であると言ったとして、冗談だと思われるのも無理はないのである。
それでも他の場所ならともかく、《この学校でなら》通るかと思っていたが、やはりそうは行かないようだ。
――当たり前か、まだあたし達も入学したばっかだし。ここがその神災を歓迎する学校だからと言って、それでも、やっぱり珍しい事には変わりないのだから。
「なんだよ。そんな露骨捏造極まりないウソでフワが二乙した罪は帳消しに出来ないんだぜ」
「この為に朝早く登校して四六分間のしとーを繰り広げたのに~。私はフワ君のはずかしー秘密とかを聞けないと納得できないよ~?」
二乙して(二乙とは、あたし達が頭を突き合わせてプレイしている携帯ゲームでのやられカウントのようなものだ。二乙で二ミス。 ちなみに、乙はお疲れ様の略なのか落ちてやんのバーカバーカの略なのかは多分二人も知らないだろう。あたしも知らんし)それなりにヘコんでいるあたしに対して、さらに追い討ちをかけてくる二人の戦闘民族っぷりにとてつもない優しさを感じる。
……こういうタイミングの二人の息の合ったコンビネーションは、『キミタチ兄弟でしたっけ?』と時折疑問にすら思える。逆に彼氏彼女には全然見えないんだけどな!
「あれあれ? フワ君なんかぼ~っとしてるよ?」
「はいはい! 自分の世界に陶酔するよりも聞くも無残言うも無残な暴露話デスヨ!」
ぽやんとした感想を漏らす玉兎と無駄に騒がしい蘭堂。
こいつら……。本当に息の合ったコンビネーションであたしを苛めやがって。
あとね玉兎。君付けは男性に対する呼び方ですよ? あたしの名前が男らしいのはあたしの母さんが苗字に合う名前をスキー場からとってきたせい(愛する娘に対してこの適当さは如何なものかと思う!)であって、あたし自身とは全然関係ないんだからね!
あたしが悪態をつきつつも、さてこの事態をどうやって切り抜けようかとそれなりに焦りだした所に。
「では、僭越ながら僕が助け舟を」
と、それまでパッと見なんとも害のなさそうなニコニコとした笑みを浮かべていた、あたしたちのグループの最後の一人が声を上げた。
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