第9話地区大会前編

弓道部員19人と顧問の小園先生を乗せた、マイクロバスは市内の地区大会会場に向かっていた。

皆、車窓を眺め刻一刻と迫る試合のプレッシャーと緊張で車内は静まりかえっているのだが、バカ3人は違った。

『おかっをこ~え~ゆこうよ~♪口笛~ふき、ツーツー!』

3人は遠足気分であった。

女子は既に、道着を着ていて森田はオペラグラスで女の子を眺めていた。

久保塚はポテトのお菓子をガリガリ食べている。


ブッ!


「あっ、いけね」

園山は車内で屁をこいた。エアコンが効いてる車内は、メタンガスが充満し、1年男子や女子はバスの窓を少し開いた。

キャプテンの藤岡はこの3人を団体戦のメンバーにしたことを非常に悔やんでいた。

途中、トイレ休憩をした。

女子は道着を着ているので、1人のトイレ時間が長く、苦労していた。

その苦悶の顔をバカ3人はオペラグラスで観察し、股間がモッコリしていた。

すると、森田は非常に強い便意を感じた。

トイレに立とうとすると、マイクロバスは動き出した。


はぁはぁはぁ、グゥ~ッ!も、漏れそうだ!

森田はオペラグラスで女子を眺めて、自分のトイレを見過ごしていた。

「せ、先生。止めてもらえますか?腹が痛くて」

と、顧問の小園先生に言うと、

「高速道路だから、止まらんぞ。次のサービスエリアまで待て!30分で着くから。何で、さっきしなかったんだ?」

「あれこれと、試合の事を考えていました」

「森田君、ウソはいかんよ!ウソは」

と、園山が言った。

「先生、森田君は覗きしてました」

顧問は知らん顔して、前をむいていた。


グワッハァ~。こりゃ、すげぇ大物だ!

バスの中でウンコ漏らしたら、一生、久保塚と園山に語り継げられる。

はぁはぁ、後25分だ!


プスプス~。

い、いかん!走り屁だ!これが、出始めたら脱糞は近い。冷静になれ森田。僕は立派な高校生。幼稚園児じゃないんだ。

よし、自己催眠だ。

あなたは、段々楽になるぅ~。ウンコなんてしたくない~。

そうだ、いいぞ!ウンコなんか、忘れちまえ!


プスッ!ブリブリ!


……も、もはやこれまでか?漏れるっ!


「森田、よ~し、着いたぞ!トイレ行け!」

と、顧問が言うと、自分自身に打ち勝った男が立ち上がり、マイクロバスの通路を歩きだした。


ブリッ!ブリブリ!


し、しまった!

そう、森田は一瞬の気の緩みで、人前で思いっきり脱糞した。

「も、森田君、あんた……」

久保塚がにやけている。

「森田がウンコもらしたぁ~、高校生なのに!」

園山が鬼の首を獲ったかのように声を上げた。

森田はバッグを持ち、無言でトイレに向かった。

バス車内は、肥溜めの臭いが漂う。

みんな、トイレに向かう森田を見守った。森田はがに股で歩いていた。

頬には涙がキラリと輝いていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る