第27話  葉隠れには、慎ましいと思われる武士道と違い

 葉隠れには、慎ましいと思われる武士道と違い、出世は大いに望みなさいと書かれている。ただし、その立身出世の目的は主君を正すために望むものだと書かれている、


 武士の誉である「一番槍」よりも難しいのは諫言を手柄にすることらしい。主君の面目を失くし、主君に非があるあることをおおっぴらにするのは忠義ではなく不忠である。


 主君への忠義は忍ぶ恋に似ているらしい。主君や周りの気付かれることなく慕い続ける。影日向となり主君を助けるのが武士としての美徳。それに反して周りに気付かれるようにおおっぴらにするのは己の為にしているのと同義である。


「なるほど、出世の目的は主君に諫言するためですか……」

「主君に媚びへつらい、耳障りのいいことばかり並べる。そんな奴が出世するようになると世の末だからな。だから、葉隠れでは自分がそうならないように4つの誓いを立てろという。知恵を出すのに必要な心構えがここにある」

町田はマウスをクリックして印刷を打ち出した。


 その紙を側近に取らせると、全員に配るように指示した。

 さて、その紙には次のように書かれていた。


1.自分なりのモノサシを持つこと

2.世の中のできごとをそのまま映し出す鏡を心に持つこと

3.鏡を曇らさないために。できごとから距離を置き客観的に眺めること

4.公平性を保つため、利害に関係ない人から話を聞いたり、故人の言行から学ぶこと


「これが四つの近いですか?」

「そうだ。まずモノサシっていうのは判断基準のことだ。最近は、相手毎に合わせて、訳わからん奴が多い。歪んだ鏡で自分のことを客観的に見れない者も多い。


 葉隠れでは世の中で「してはいけないこと」と「しなければならないこと」のけじめを付けなければならない。このけじめをつけるために心によく磨いた鏡を持つ必要がある。


 人は自分の私利私欲などに縛られて、できごとの判断基準を誤ってしまう。

 鏡を曇らせないためには、常に目の前で起こっていること、対応しなければならない事柄に対して距離を置くことで、客観的にその物事を眺めることが必要である。


 そうなることで、公平性を保てるようになる。完全な公平性を保たなければ、良い知恵は浮かばない。利害を思う欲心が湧いたら、絶対にいい知恵はでない。出たとしても、それは悪知恵である。

 

 じゃあその4つの誓いを立て、常に危機を想定し、それに備え、いざ非常時にどうやってその知恵を示すのか?


 武士の忠義は忍ぶ恋と同じである。目立ったり押しのけたりして自分の意見を述べてはいけない。という葉隠れの主張に違和感と矛盾を感じないか?


 なぜなら、主君に忠義を捧げよというが、その主君が名君であることが前提なのだ。というかそうでないとこの理論は成り立たない。


 名君だとちょっとした機会にも、いわゆるヒラにさえ「これこれについてはどう思うとか、あれはどうすべきだ?」と意見を求めるというのだ。その僅かな機会に、諫言を申し上げることができるように常に自分を磨け。このときこそ「ただいまがそのとき」「常在戦場」だと言うことだ。


 確かに織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の三傑のほか、名君と云われた戦国武将は部下によく意見を求めたというが……」


 町田の話を黙って聞いていた側近たちは自分の中に感じていたモヤモヤの正体に気付き、胸のつかえが取れた気がした。


「さて、君たちにとって、俺は忠義を捧げる価値があるのか? そもそも君たちにとって俺は主君なのか? 都民の代表って主君なのか? 主君ってマスコミが作り上げていないか? そのマスコミだってスポンサーの意向に逆らえないだろう……。


 マスコミやネットが力を持ち過ぎたこの状況だと、いつでも俺の足を引っ張り引きずり降ろすことも可能だろう。


 公正なマスコミなどいない。報道する権利と称して、見せたい部分だけを切り取って報道する。まさに報道しない権利を握っているわけだ。


 いまでこそ連日連夜報道しているが、あの自殺した人はマスコミにも文章を配布していたはずで、マスコミは報道しない自由を振りかざし沈黙していたんだ……。マスコミがもっと早く動いていれば告発者の死はなかったはずだ」


「兵庫県知事の話ですか?」

「ああっ、知事は批判を事実無根の誹謗中傷としてうそぶいていたが、マスコミだって、自分たちの誹謗中傷記事を、批判・批評の自由と振り回さないとも限らない。マスコミに社会的に抹消された人は多数いる。

 さて、俺も名君を気取って、ここにいる人たちに諫言を求めてみようか?

 最近は、日本にやってくる外国人の行動には目に余るものがある。マナー問題に不法滞在、そして不法就労問題に外国人の土地購入問題などなど、じわじわと日本の文化と経済を浸食してる感がする。これらにどのように対応すべきか知恵を出してもらいたいのだが」


 町田は側近たちを見回すが、誰一人このことについて答えようとしない。


「「常に戦場に在り」、そして「そのときがただいま」、なのに君たちはなんの危機感もないのか? それとも問題の先送りか?


 葉隠れには、家臣になったらまずしなければならないことを上げているんだが……、これは俺が君たちに最後に告げたいことなんだ」


「そのことと外国人との対応となにか関係があるんですか?」


「政治の指針を決めるために大事なことだよ。今の公務員や政治家の大部分が実は知らないことさ。いや、知ろうとしないことだ。葉隠れ曰く「国の歴史を知れ」佐賀藩の成り立ちから歴代の君主そして政治的出来事、どのように対処したのか? そのこと深く知ることで、知恵がより正解に近づく。


 さしずめ東京なら、平将門の時代に遡って歴史を勉強する必要があるかもな? だだし、さっきの四つの誓いの曇りなき鏡に写された歴史をみること。

 戦後GHQが日本を骨抜きにしようとした創作した教科書に載っている勝者が創った歴史なんかを参考にするんじゃないぞ。


 そうすれば何が国益かあの戦争で何を守ろうとしたか分かるはずだ。国益重視よりイデオロギー重視とばかりに、外国人に税金がザブザブと使われる現状に、嘆き悲しんでいる英霊たちの怨唆が聞こえるようだ……」


 ここで町田都知事の話は終わる。パソコンに向かって報告や決裁文章を閲覧しだした。

 知事の態度から、どうやらさっきの質問は課題としてだされたようだ。

 側近たちは知事室から出ていくしかなかった。

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