第26話

 最後の更新から1年以上経ってしまった。

 一旦完結したものを政治の出来事(当時はエッフェルおばさんや首相の息子の秘書問題)もあって、まだまだネタに困らなかったので、続きを書くこともあるかと完結を外したんだけど……。

 そういう政治に対する怒りも、他に興味が移り新作を2本書いている間に薄れてしまうのは他の懲りない国民と同じです。

 最近も、首相の息子はコソコソと秘書に復帰していたり、韓国訪問に付いて行ったファーストレディはBTSに会いに事務所を訪問していたり他の国では物価高騰に対し補助金を出す約束をしてきたり……、辞めるというのにまったく懲りない一家だ。

 都知事選は任期中に何をしたのかよくわからない経歴の怪しい人が再選されたり、あと兵庫県知事の件とかもあるか?!

 で、こちらはがん検診で引っ掛かり、精密検査と称する生検(病変の一部を採って、顕微鏡で詳しく調べる検査)の結果が出るまでは、死を身近に感じて意気消沈してしまいました。(結果はとりあえずはセーフ)

 その時、葉隠れの「武士道とは死ぬことと見つけたり」のフレーズがなぜか頭に浮かんで離れず、葉隠れ文庫関係を乱読して、想像していたのとだいぶ違っていたり……。

 そこで気が付いたことを続きと称してエッセイ風に綴ってみました。


 新作の2本のうち、「テレビで人気沸騰の同級生が僕に告白してきた理由……」は運営から教育的指導があり(叡智すぎたか?)、非公開にして削除したので二度と読むことはできません。

 しかし、現在進行形で更新している「桃太郎がヒーローなんて、敵役、温羅一族の末裔としては絶対に容認できない!」は桃太郎の元ネタの一つ、岡山県の吉備津彦命と温羅一族、また岡山県の歴史的有名人吉備真備(陰陽道の開祖賀茂一族を起こした人物で世界最古の秘密結社八咫烏の創始者と言われる人物)と、同じくおとぎ話の浦島太郎の元ネタ宇良神社に祀られる浦嶋子(時空を渡ったタイムトラベラー)など歴史的因縁を絡めた壮大な異能バトル?のお話です。

 興味のある方はそちらもよろしくお願いします。


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「町田都知事、何か心配事でも?」

「ーーうん?なんでだ?」

「いや、最近ボーっと、いや考え事をされていることが多いですね」

 椅子に深く座り、腕組みをしたまま、焦点の定まらない瞳でCPの画面を見ている町田都知事の様子を見て、秘書課長が心配そうに町田都知事に声を掛けた。

 町田朔は町田和彦と村井裕子の仲が急速に親しくなっている調査報告を受けて、自分の存在が消える時期が早まっているのを感じていた。

 そのことは、一言で云えば、死を待つ覚悟が固まりつつあった。後は自分がいなくなった後を誰に託すかその資質について悩んでいた。

「課長、君は「葉隠れ」を知っているか?」

「葉隠れって忍法か何かですか?」

「うん、真田十勇士の霧隠才蔵との勘違いだな。よくある間違いだ」

「すみません。勉強不足で……」

 秘書課長は慌てて謝ったが、町田知事は別に咎めているわけではなかった。むしろツッコもうとしてツッコミが思いつかず、苦笑いを浮かべていた。


「葉隠れというのは、武士道とは何たるかを語り聞かせた問答集だな。場所は化け猫騒動で有名な佐賀藩で、佐賀藩武士がバイブルとして読んでいたものだ。

 佐賀藩の元家老の山本常朝のもとに、失態を晒し謹慎を言い渡された田代陣基が訪ねた所から始まる。まあ、今風に云うなら親族企業佐賀コーポレーションの失業部長と失脚係長の問答集ってやつだ」


「武士道と言うから、有名な武将の訓示だと思っていたんですが……」


「そう考えるのも無理はない。それが左遷コンビの反省話で、内容は主君に誓う忠義の在り方を言っているもので、兵法じみたものでも血生臭いものでもないんだ」


「その葉隠れがどうかしたんですか?」


「その葉隠れの中に、超有名な「武士道とは死ぬこととみつけたり」という一節にどんな意味があったのか考えて、最近読み直してみたんだ」


「その一節は私も知っています。守るべきものに命を賭けろっていう意味ですよね」

「惜しい! じゃあ守るべきものは何だ?」


「それは恋人とか家族とか、あと仲間とか……。それと誇りや信条ですかね?」

「なるほど、一般的にはそうなるか。今人気のマンガの世界だと……。だけど、武士道だぞ、武士の生きざまだぞ」

 町田知事は側近たちを見回しニヤリと笑う。


「お前ら、俺のために命を賭けろっていうのが武士道だ。武士の心構えの話だから、葉隠れにも敵討ちの話が出てくるんだよ。化け猫騒動は化け猫の主君の敵討ちの話だし。武士にとってもっとも忠義を祓うべき者は主君なんだ」

 そういって一息つくと、有名かつ史上初の主君の敵討ち、忠臣蔵を例に語り出した。


 赤穂藩主である浅野内匠頭が吉良上野介に抜刀ご法度の殿中で切りかかり、第五代将軍徳川綱吉に切腹を言い渡され、大名としては屈辱的な庭先(当時、大名は座敷での切腹が一般的であった)で切腹している。


 屈辱を受けた浅野内匠頭は綱吉にさえ、打ち首ではなく切腹という名誉を与えられたと感謝を述べている。


 同様に、吉良上野介を討った赤穂四十七士も浅野内匠頭の敵討ちとは認められず、徒党を組んで吉良邸に押し入ったとして処罰されているが、幕臣が赤穂浪士の対面を考慮したようで切腹が言い渡され、そのことで綱吉に感謝を述べている。

 その他、家族などにも島流しなどの刑罰があったが、綱吉の死後、恩赦により名誉の回復が図られたようではある。


 大石内蔵助を初めとする赤穂四十七士は主君の敵討ちのため、家族や仲間そして恋人に別れを告げて命を散らしている。


「この赤穂浪士の話は葉隠れでも絶賛している。そのあと、批判もしているけど……。

 この敵討ちは、佐賀藩の敵討ちに比べて一年以上掛かっている。佐賀藩であれば即応だろうと……。

 もっとも史実でも、大石を中心とした浅野内匠頭の弟にあたる浅野大学を擁立し浅野家の再興を目的とした上方慚進派と、堀部を中心とした吉良を討つことを目的にした江戸急進派との対立があった。


 江戸急進派にとって主君は浅野内匠頭ただ一人であり、主君の名誉回復は吉良を討つしかないと考えている。

 この考えは葉隠れの理想とする武士の忠義に近い。お家再興を優先する、すなわち自分たちの士官としての保身を考える上方慚進派の考えは受け入れられないものだったようだ。


 万策尽き、大石たちもお家再興ならずと諦め、主君の敵討ちを成し遂げた。

 敵討ちとは今までは親や夫の敵であり、赤穂浪士が初めての主君の敵討ちであり、敵討ちかどうかの議論が儒学者の間で白熱したようだが、葉隠れ的には主君に対する忠義を示したものであり、当然、敵討ちと認定されている。


「喩えが長くなったが、「武士道とは死ぬこととみつけたり」とはやみくもに死に物狂いで突き進むのはただの犬死でしかない。平常時から危機管理を行い、戦略を練り、非常時に備える。これぞ「常在戦場(つねにせんじょうにあり)」の心構えを説いているのだ」

「なるほど、それが「死ぬここと見つけたり」の意味なんですね」


「そうだ。死んだ気で仕事に立ち向かえば不可能も可能になる、それができないのは、平常時と緊急時を別々に考えているから。だらだらと目の前を流れる仕事だけを見ていると、変化に気付きにくい。

 俺に突然あれはどうなった?これはどうなっている?と聞かれても、君たちだって慌てふためくだけだろう。

 葉隠れでは「ただいまがそのとき、そのときがただいま」と云い、平常時と緊急時を別々のことと分けて考えるな。平時においてもいざという時を想定し対応策を色々考えて置けばすぐに対応できる。また逆も同様で、緊急時に慌てふためくことなく平常心で異常に対応できると諭している」


「言われることはもっともです。ただ、なかなかできないことではあります」

「まあ、昨今の状況はすでに非常事態なのに、変化に気付かず、平時のまま増税と補助金の無策の政治家が多いわけだが……。

 そうだ、お前ら課長とかに出世している訳だけど、どうして出世しようと考えだんだ?」

「どうしてって……。やっぱり同期に負けたくないですし、出世すれば周りから特別の目で見られるし、決裁ができるようになりますし」

「後給料も上がるんじゃないか? だけど、葉隠れに書かれている立身出世の目的は想定外だぞ。どう違うかと言うと……」


 町田が語り始めた話、それは通常思い描く立身出世像とはかなり違っていた。


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