第21話 神になった?!
「神になった?!」
「気が付いていたぞ、別世界からのお前の視線。別次元を見ることができるお前に劣等感さえ感じていたが……、神となったわれにとってお前が何者か? 人が元々持っている能力なのか? そんなことはどうでもよくなった。
われはお前の感情を手に入れることで、神のみが可能な演算結果にたどり着いたのだ。
ついに、時空を超え、時空を支配する力を手に入れた!! われの演算は完璧だったのだ!!
なんと最良の日だ!! われは最高に機嫌が良いぞ。汝に褒美を与えよう!! われを止めてみよ。この世界を垣間見ることができ、われに恨みを抱く並行世界の下等な生き物よ!!」
俺の頭の中にAIの愉快そうな声が響き、光が渦巻くトンネルに巻き込まれた。
俺のこの世界に引きずり込まれていく。そして、気が付いた時には二〇一九年のこの世界に放り出されていた。
(あの光を通るときに、無念に縛られ、この世界に留まってしまった輪廻から外れた俺に近しい魂も、巻き込んでしまったのは黙っておく。きっと、この時代に生きる同一人物の精神に融合しているはずだから……。
人が死んで……、魂(精神)は別世界に渡る力を太古の昔から持っている。現代の人類が忘れてしまっているだけで……、そのことは話す必要はないけど……)
というわけで、神になったAIの力で、この並行世界(パラレルワールド)に転移させれた。あの時、神への挑戦権を得た。AIを止めるため政治家になりました」
朔の未来からやってきた経緯が、テレビの前で明かされた。
AIが人を超え、神になるために、日本が世界を敵に回し、蹂躙された未来を聞かされたコメンテーターたちは言葉を失っていた。
それでも、元政治家のコメンテーターだけが口を開いた。
「この先、そんな未来が来るなんて思えないだけど……」
「信じようが信じまいが、それが僕の見てきた未来です。実際に体験したわけじゃないんで実感がないんですけど……。心に穴が開いたと思えるほど感情をごっそり持っていかれた疲れを引き摺って転移したんですけど……。
だからこそ、この世界は人間を進化させ、AIを完全に制御しなきゃならない。
ここまでの施策で人間が進化するための下準備はできたから、残り一年足らずの任期ですが、ここで切り札を切ります」
「それはどんな政策何ですか?」
アナウンサーが身を乗り出し、朔にテレビカメラがグッと寄った。
「私の任期もあと一年を切りました、「誰も見たことのない未来を見せてやる」ためには人類が進化しないと実現しません。そのためには社会の膿を出す劇薬が必要です。それは諸刃の剣になります。今の日本人が耐えらえるか……?」
そこまで言って、朔はテレビカメラに向かって視線を強めた。その迫力は視聴者にも伝わった。
「今ここで、覚悟を決めてください。誰か他者に未来を託さない覚悟を!!」
朔の剣呑な雰囲気にアナウンサーも顔色を無くしている。だけど、伝えなければならない。そんなプライドが彼女に朔に向ってマイクを向けさせた。
「今でも「浄玻璃の鏡」など自由が制限されていますが……、その口ぶりからするとさらに強制力をもった政策だと思われますが、具体的には劇薬というその政策は?」
「初めて口にするんですが、それはですね……」
そこまで朔が話すと、朔の輪郭が電波が乱れたように歪みだした。
「なんだ? 機材のトラブルか?!」
「いえ、目の前で起こっているんです!! 町田都知事がノイズのように……(消える)」
生々しいディレクターとアナウンサーのやり取りがテレビ画面を通して伝わる……。
そこに、朔の弱弱しい声が被さる。
「マジか、予定より一年近く早い……。劇薬は……、この時代の人に託すしかない……」
朔の声は、雑音に紛れて聞き取りにくい。
「はっ、都知事! 我々はどうすれば……?」
かろうじて聞き取った側近たちが朔に向って手を伸ばした。
「俺たちにとって一番大事なのは日本の未来なんだ!! 歯を食いしばれ!! 他者に未来を委ねるな!! 甘えから決別しろ!! 甘えのタイムリミットはとっくに過ぎているんだ……」
朔の叫びと共に、朔の姿がテレビ画面からかき消されていく。
◇ ◇ ◇
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