第18話 マスコミの朔への批判が収まり

 マスコミの朔への批判が収まり、町田朔が東京都知事になって二年が過ぎた。

 朔は側近の調査報告に目を通していた。


 特に気にかけていた職業訓練生第一期生、町田和彦は1年間の訓練学校卒業後、都庁と厚生労働省とが立ち上げたマイナンバーカードの保険証への利用とビックデータである医療データを活用する研究所に就職していた。


 将来、医療費が上がること、そのために自己負担が上がり、社会保障制度が破綻しそうなのに、自分が医療機関を転々とした挙句、いい加減な儲け主義の医療機関が多いことに憤りを感じていて、大学でもそのことを研究したのだ。


 1年間の研究の末、マイナンバーカードに医療機関のカルテを紐づけて、二重診療や薬の重複支給など防止し、無駄な医療費を削減するとともに、受診記録と健康改善状況をデータベース化してAIに各医療機関をランク付けさせるとともに、セカンドオピニオンをどこにするかをリストアップさせるシステムを開発していた。


 このことは医療機関から反発を受けたが、医者の報酬が社会保険料という名の税が元になっていることを理由に強引に、朔は支持率の高さの力技で押し切った。


 結果、藪医者を排除し、医者の報酬を正当なものにすることに貢献した。


「これこそが平等、公平な法の運用ってやつだよ。このことについて、俺は何もやっていないよ。彼たちが医者の対応に疑問を持って、医療データを活用するにはどうすればいいかを学ぼうとした技術訓練校の卒業生の手柄だよ。

 彼はこの社会で無用と烙印を押された失業者だったんです。

同じような境遇の人にも、チャンスは必ず訪れます」とテレビの取材に応じてピースサインをする朔に、素直に賞賛するマスコミがいた。


 朔はその取材場面を思い出して、口元がゆるんだ。

 

 村井裕子も同じだった。

彼女も町田和彦と同じ職業訓練を受け、ネット通販を手掛けるシステム会社に就職を果たした。


 村井裕子はアプリ開発会社に就職。その会社で街中を歩いてる人やテレビに出ているアイドルやタレントをスマホで取って、アプリで検索すると、その着ている服のメーカーや似たようなデザインの服を即座に抽出して、アプリから購入できるアプリを開発した。


 その技術を大手アパレルメーカーや新進気鋭のデザイナーの協力を得て、売上金の一部を広告料として得ることでそのアプリ開発会社も躍進した。


 最近では、衣料品だけでなく雑貨やアクセサリー部門までエリアを広げている。


 側近は、なぜ二人を町田都知事が気にするかわからなかったが、指示通り二年間の調査内容を報告した。


「町田和彦および村井裕子は、職業訓練学校在学中に知り合い、意気投合して付き合い始めたようです。それぞれ、今は高収入を得て、二人は婚約したようです。今年の秋に式を挙げるようです」


「そうか……」

「都知事、なぜ二人を調査対象に?」


「たまたま、履歴書が目に付いただけだ。今の失業者の典型だろ? それにコンピューター技術もまったく習ったこともなかったから……。いわゆるプロトタイプだろ。

データベースをどのように構築して、そこから何を検索して何を抽出するか?

 

 これはコンピューターを研究している人より、実際社会で生活している人の方が良いアイデアが出るんじゃないかと思って……。コンピューターのプログラムに関しては初心者でも、目的が明確であれば、それに向って学ぶ方が効率が良いはずなんだ。ことプログラムに関していうと」


「確かにその通りでした。コンピューターの専門家でもない他の職業訓練性たちも新たなビジネスモデルやシステムを開発しています。

 都知事が入学式で言ったように、人物金の流れをITで変えろと言ったとおり、多くの人が人や物そしてお金の流れを大きく変えるシステムなり、ビジネスモデルなりで経済が活性化させています」


「まあ、期待通りだ。技術的には、どちらかと言うとコンピューターの専門家の方が怖いよ。科学者ってやつは好奇心で踏み込んじゃいけないところまで突き進んじまう……。


 そんなことより、コロナのお陰で、在宅ワーク、在宅申請にネットバンキングそれにキャッシュレス、経済の未来形が垣間見えるようになりつつある。


 その流れを推し進めるだけで良かったし、各国の利用状況や実証実験の結果を調査して、それに追いつき応用するだけだか

ら、社会で挫折経験した人間の方が、やってくれると信じていた。


 それにしても、二人が結婚するのが秋って、予定より1年近く早いんだけど……。できちゃった婚か?」


「はっ? そこまでは……(予定ってなに? 調査するわけがないだろ)」

「いや、思わす口から出ただけで……。気にするな。調査の必要もない」


 そんな会話が朔と側近たちの間で交わされた。


 それから一年余りは、東京再生モデルが国全体に広がっていくのを調整するのが主な仕事になっていった。


 朔が知らない技術も芽吹いていた。


 朔は確信した。これは俺の知らない未来だ。いや本来の未来だ。シナリオ通りなら俺の消滅も近いらしい……。


◇ ◇ ◇

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