第17話 失業者対策として、
失業者対策として、職業訓練校を開校したかと思えば、その第一期生が半年後卒業して、その卒業生たちが就職先で頭角を現し、さらに職業訓練生が数を増やし、大学経営も軌道に乗り出したところまでは、マスコミはそろって町田朔を賞賛した。
しかし、その直後にぶち上げられた「サービスの有料化」とコンセンサスを得ないままに走り出した「都営バスや都営地下鉄の無人化と自動運転車両と首都高無料化」
なにより、治安維持を守るために必要だと、開発されたWEB監視システム「浄玻璃の鏡」は、AIにプライベートや人権が侵される冒涜だと騒ぎが起こった。
「化けの皮が剥がれた独裁者」だとマスコミメディアは一斉に町田朔をたたき出した。
もちろん、大手を振ってではないが、一人親、そして犯罪に困っていた人たち、なかなかサービスを価格に転嫁できなかった経営者たちなど一部の人は朔を支持していた。
マスメディアは目立つことを至高だと考えている。彼らの報道理念は驚嘆で大胆で簡単であるということだ。
普通なんて何の価値もないと考える人たちで、言い換えれば、過激で、上から目線で、偏見を押し付けてくる恥知らずの極論者だ。
彼らの挑発に乗らない。町田朔の支持者はネット民であり、朔の政策に未来の希望を見ている者たちだ。
だから朔はTwitterで反撃にでた。
なぜ、俺はネット民に指示され、マスメディアはネット民に支持されないのか?
それは、ある事件が発端になっている。数カ月後、イギリスの国営放送が某芸能事務所の元社長の性的虐待疑惑が放送される。
再びでた朔の未来予言だ。
その疑惑に対して、各メディアは沈黙をもって回答する。
このメディアの対応は今に始まったことではない。数年前、ある雑誌で同様の記事が出た時に「そちらの出版社には内のタレントは出さない!」と社長が恫喝したから。
人気絶頂のアイドルタレントたちが雑誌を飾らないとなると大きな痛手だから、出版社は直ちに和解に応じた。
アイドルタレントたちは視聴率にも大きな影響を与える。日本のマスメディアに真実を伝えるジャーナリズムはない。スポンサーのために売れればどんな理不尽だって許容する。
たった一つの芸能事務所に牛耳られたマスメディアは、それからは芸能事務所の言いなりになっている。
俺は芸能界なんて興味ないからどうでもいいけど、そのおかげでこの国のエンターテイメントは停滞した。
事務所の力でメディアに担ぎ出されたタレントたちは、良くも悪くも競争することもなく、作り上げられた人気者になって、今日も若者たちを熱狂させている。
ただそれも国内限定の話だ。国外に目を向ければ、この国のエンタメは二〇年間停滞したままで、過去の栄光にすがり現実を見ようとしない愚者たちは過去の手法を日々なぞり続け、意図的に真実を知らされていない大衆は自分たちの文化が最高だと信じてジャパニーズエンターテイメントを崇拝する。
でも、ネット民はとっくに知っている。すでに隣の国にさえ追い抜かれ、国際的には置いてきぼりを喰らい、才能ある者は雁字搦めの日本を見限り、世界に活躍の場を求めて出ていく。
ただ、世界も日本市場を見限っている。儲からないから日本に進出する必要もない。日本人に配慮するぐらいなら中国人を贔屓したほうが、メリットがある。
だから、世界に進出した日本人は祖国のバックアップを得ることができずに苦戦している。それでも、真の実力者は国内よりも海外で評価されて、日本に逆輸入され、ネットを通して一部のネット民は世界を目の当たりにする。
停滞したマスメディアのために、この国の人たちはこんな下等なエンタメに満足している。
わかる人にわかってもらえるはずだ。知っている人なら今の現状を否定するはずだ。IT技術が他の技術と繋がり、加速的に進化を遂げる現代において、停滞は相対的に退化と同義だと……。
このTwitterで予言したイギリスの国営放送は二〇二三年三月に現実となった。
そして、予言通りマスメディアはイギリスの報道について沈黙を貫いた。朔への批判と共に……。
◇ ◇ ◇
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