第16話 朔曰く、東京都だけ刑法上の罰を重くする
朔曰く、東京都だけ刑法上の罰を重くするわけにいかないので、条例を設けて過料(罰金)を上げる。それこそ上限は百万単位で。
それに掛かる人員、協力者はこちらで手配する。君たちは警察の威厳を取り戻せ。俺は都民の過半数の支持を得てここにいるんだ。声を挙げられない都民が望んでいることなんだよ。
外野の声など気にする必要などない!!
朔が語り始めたのは、あらゆるところに設置された防犯カメラのネットワーク化。
色々な国で問題になっているWEB監視システム。例えばアメリカ政府が保持している監視プログラム「プリズム」。メール、文章、検索や電話履歴あらゆるメタ情報を収集している。
もっとやばいのはイスラエルがパレスチナ人を監視するために開発したスパイウエア「ペガサス」。グーグルが中国人の敵対行為を監視するために開発しようとした「ドラゴンフライ」などなど……。
都市伝説では、AIがデータを収集そして選別し、敵対組織と認定した相手は24時間行動を監視されていると言われている。
朔はその日本版をやろうとしているのだ。東京都が設置した防犯カメラだけではなく、民間で設置している防犯カメラ、損保会社が設置しているドライブレコーダーまで、WEBに接続しているものはすべて網羅する。
そして、万引き、空き巣、強盗、殺人、放火、オレオレ詐欺の手口そして交通違反。あらゆる犯罪を想定して、犯罪を行う動作を、すでにAIに学習させていた。
そして、一旦AIが犯罪と認識すれば、すべての防犯カメラがAIの指令でその人物の監視を始める。そのデータは警視庁に伝送されすぐに警察官が逮捕に向かう。
さらに追加で設置された防犯カメラの前に、都内ではほとんど死角がなくなった。
そうやって追い詰めた犯罪者はすぐに逮捕され、刑法の罰とは別に都条例に定めた罰金を支払うのだ。常に監視された犯罪者は逃げることも踏み倒しこともできない。
どうだ、東京都の犯罪監視システムは他国の軍事目的とは全然違う。昔の人は良くいっただろ。「お天道様が見ている」って。「だれも見てないと思って、悪いことをしたら地獄に落ちる」って。
この犯罪監視システムは日本らしく「浄玻璃の鏡」と命名する。閻魔大王の御前で亡者の生前の善悪を映し出す鏡のことだし、ごまかすことのできない澄み切った眼識って意味もある。
目的にピッタリの名前だ。そして、地獄と同じように、罪を償うまで監視され続ける。罰金の徴収のため取り立て専門集団を採用しているのだ。
決して逃げ得はさせない。さらにこの集団は、一人親家庭の養育費の取り立ても行っている。子育てのもう一つの問題。離婚率の高さ。そして、たちまち陥る貧困スパイラル。
女性が感じる離婚のリスクを救いあげる政策だった。
少しでも批判から逃れるための苦肉の策だが、これも将来的には子育て支援に繋がっていくのだ。
徴収された罰金は犯罪内容とともに金額が日々、都ホームページで公開され、犯罪被害者への見舞金それに都のインフラや子育てコストに使われる。社会的損失を抑え、社会コストを賄うシステムとして都民に広く認知されるようになった。
万引きや交通違反などの軽微な犯罪から殺人、強盗、脅迫など認知件数は今までの三倍以上、検挙率は九〇%を超えて、逃げ切ることなどできそうになかった。
犯罪に対するこれ以上の抑止力はなかった。
朔は、このWEB監視システム「浄玻璃の鏡」と自動運転を連携させるというのだ。
元々全自動運転車は全方位型モニターを搭載している。このモニターも「浄玻璃の鏡」に接続して、この車にちょっかいを出す車は徹底的に検挙する。
東京都にシンボルカラーの緑をベースにパトカーみたいに派手な外観にして、前後に「監視システム稼働中」って表示しとけば、誰も近づかないだろ。
「高速道路の通行料を無料化するのは自動運転車両だけだ。まずは自動運転レベル4で遠隔操作できる都営バスで実証実験を行う。
当然、都営地下鉄にも自動運転システムを導入する。線路の上を走るだけの地下鉄は無人化に向いているし、駅には「浄玻璃の鏡」の監視の目が光っているから、公道を走る自動車より安全は確保できるだろ。
これは投資だ。必ず数年後には回収できる。これまでのバラマキとは根本的に違うんだ。
半年間、問題がなければ実行だ。それに合わせて、物流車両も自動運転車限定で首都高の無料化だ。もちろん、都営バスと同等のスペックと外観そして「浄玻璃の鏡」と接続することが条件だけど……。
あと、首都高に繋がるインター付近に物流センター用の土地を買収しろ。日本全体では、数台の無人トラックを引き連れた有人誘導車が走るようになる。まるで貨物列車だな。
アメリカだと拠点輸送が中心みたいだから。日本だと安全と効率に配慮すると各都市の高速道路インターチェンジを行き来するが現実的だからな。名古屋や大阪の知事あたりと調整しないとな」
物流業界の二〇二四年問題。人手不足、高齢化、物流量の増大、それらを置き去りにした働き方改革の法規制。
自動運転でどれだけ実証実験を積み重ねようが、モラルや感情論の前では実験データは無意味だ。批判を怖れて動けないんだったら、朔が矢面に立つ覚悟を決めている。
IT技術の収穫的加速の法則の前では、停滞イコール後退だ。日本が失われたの30年間、燻(くすぶ)っている間に、どれだけの国に追いつかれ、置いてきぼりにされたのか?
さらに一〇年後に、そのことに気が付いても遅すぎるんだ。
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