第15話 金の動きをコントロールし、無料サービスに

 金の動きをコントロールし、無料サービスに付加価値を待たせる目的を持った政策「サービスの有料化」。


 サービスとはその企業なりを贔屓にしてもらおうと企業価値を上げるために付加するものだ。だから当然、与えてくれる利益が大きいほどサービスが大きくなる。


 富の分配に主軸におく行政事業にはサービスという言葉は合っていない。サービスという言葉を使うなら、高額納税者ほど、高いサービスを受けるべきだろう!!


 その理屈で行政サービスを語るから、ふるさと納税のような実質節税で富の再分配になじまない不毛な事業で、各自治体がしのぎを削り消耗することになるのだ。


 そんな行政事業の問題点を上げた朔が、次に手掛けるのは人の動きだ。

 せっかくコロナ渦で在宅ワークやテレワークによるWEB会議、働き方も大きく変わったし、タブレットを使った自宅学習。


 コロナも伝染病の5類に分類されることが決定して、すでに当たり前のように元の生活に戻りつつあるけど、せっかく革新した習慣をなぜ後退させるんだ? 俺はその流れをさらに加速させたい。


 そのために、都営地下鉄や都営バスの通勤定期を使った割合に応じて返金する。交通系電子マネーのシステムを使えば手間もかけず技術的には可能だろう。

 企業も経費を掛けるわけでもないし、勤め人も臨時収入が入ってホクホクだろう?


 まったく、この都知事はなんてことを平然というのか?


 呆れた側近たちは顔を見合わせた。


「知事! いや、しかし、それでは都市交通部門は赤字に……」

「心配するな。人件費を削る」

「人件費を削る?! それはやはり公務員の給料が高いってことですか?」


「いや、そういう話じゃないんだが……。給料に見合った仕事をしている人も多いだろ。知らんけど。

 まあ、話を聞けよ。経済は人、物、金の動きが活性化することで景気が良くなるだろ。人と金はIT技術によって無駄が省かれるだろ。一部昔のやり方で掛かるコストはそれに見合った負担金を頂くことで売り上げは上がる。

 IT技術でコスト減とデリバリー(納期)が短縮されれば給料も上がる。給料が上がれば物欲に向かう。すなわち物流だが……」


「物流が一番の問題ですね。物流業界の二〇二四年問題もありますが、現在のエネルギー高騰問題も含んで物流コストはウナギ上りです」


「そこで、首都高無料化だ!!」

「えーっつ!!」

 

 驚く側近たちを尻目に、朔曰く。


 今、世界中で自動車の自動運転の実証実験を行っている。もちろん、この東京都でもだ。緊急時に対応するために乗っている運転者が介入する場面は、周りの危険運転や無謀運転だという報告書にも挙がっている。


 じゃあ、エリアを決めてそのエリアで走る車両を自動運転車両だけに限定するのは現実的じゃない。それなら、周りに交通ルールを守らせるしかない……。


 そこで、一旦発言を切り、周りを見回した朔。そして、自分に視線が集中していることに我が意を得たりと頷いて言葉をつづけた。


 世界ではすでに、自動運転車両が公道を走っているんだ。安全とコストを天秤に載せたアメリカや中国ではすでに無人タクシーが走っている。日本車でも技術的には問題はない。

 モラルや感情論の間で、トレードオフ(※何かを犠牲にして何かを進めるの意味)が起こっているんだ。そこが日本で自動運転システムが進まない原因なんだけど……。


 そこでもう一つ、東京が、いや世界が震撼する政策を敢行する。政治生命をかけて!

 悪そうな顔をして口角を上げた朔。


「警視総監をここに呼べ!!」

「はっ」


 側近たちが知事室を出て行った。

 朔は椅子に深く腰を落とした。


 あれから一年、ここまでは予定通り、ここからが正念場だ。少しぐらい経済が上向いても、俺が失脚すれば、町田和彦、村井裕子の未来はない。それどころか日本の未来さえ……。日本はアメリカをはじめとする国々に分割統治され、二度と浮上することはなくなる。


 AIが、それがベストだと判断したんだから……。


 朔は未来の思い出から帰ってくると、目の前の警視総監に向って口を開いた。

 町田朔が警視総監に指示したことは……。

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