第14話 朔の発言は事実だった
朔の発言は事実だった。
朔が側近に命じて取り寄せた職業訓練者の名簿の卒業後の就職先は、公務員となり朔の政策を進めた者であったり、急成長した企業の幹部に成った者がいたり、数年後、新たなサービスを中心に日本の経済はV字回復していくのだが、一年後すでに予兆は感じられていた。
将来的には、この職業訓練によって大学を出た人は朔の任期中(3年余り)だけで四万人。それぞれが就職して、自分の作り出したシステムやビジネスモデルで社会に貢献し、安定した収入を得るようになった。
三年後、この方式を厚生労働省が取り入れ、全国に展開されるようになって行った。
朔本人が直々に、側近に指示して訓練者の内何人かの追跡調査を命じていた。その中に町田和彦と村井裕子がいたのは偶然だったのか?
「じゃあ、職業訓練学校による失業者対策の話はここまでだ。
コロナのお陰で、在宅ワーク、在宅申請にネットバンキングそれにキャッシュレス、経済の未来形が垣間見えるようになりつつある。その流れを推し進めるべく、都庁にも職業訓練卒業生を採用して、行政関係の申請や申告それに給付や税などの徴収関係は九割以上をネットでできるようにしろ」
「はっ、早急に対応します。しかし、なかなか全部をするわけには……」
「なんだ、IT難民に対して遠慮しているのか? ここ十数年、その人たちがネックになってITを進めることができず、デジタルデバイドに陥って世界から置き去りにされた事実を政府は隠してきたからな……(政治家はその事実にさえ、気が付かない老害だらけだけどな)
ITが使えないことを棚に上げて、人的サービスを要求する自己中な正論は、踏みにじらせてもらう。とっくに甘えの時間は終わったのだ。
◇◇ ◇
朔が取り組んだ次なる政策は……、サービスを有料化することであった。
サービスを収益化するとでもいうのか……。人的サービスに掛かるコストを可視化する。今の時代、顧客に対して手を貸しすぎている分はコスト負担してもらうために、どれだけ経費が掛かり、対応する従業員に負荷が掛かっているか。それをサービスを受ける側にも知ってもらうための可視化だ。
最近ではコミュニケーションコストっていうらしい。会議や研修、ビジネス会合、はては、接客に至るまで、目に見えないこれらのコストは人件費に換算すると以外に掛かっている。
日本ではサービスとは笑顔と同じでノーチャージだが、海外ではチップの制度があり、中国では公衆トイレの紙でさえ有料だ。
昔のやり方と新たにIT技術を使ったやり方、お客さんに広く選択肢を用意した分、コストの掛かる昔のやり方を止めることができず、そのコストは店が持つか、サービスを受ける全員に均等に振り分けるか……。
それが経済、企業の利益に与える影響はレジ袋の比ではない。
最近ではやっとその一部を受益者が負担するようになった。例えば、銀行の送金手数料、ATMを使う場合と窓口では手数料が違うし、両替も手数料が掛かる。
ド〇モショップでも、ド〇モ以外のアプリのインストールは有料になった。人の手を介すればコストが発生する。それは一般的にはIT技術のコストより高い。人件費というコストは受益者が負担するのは当然だ。
行政でも、住民票を窓口で取るのと、マイナンバーカードを使って、本人がコンビニで発行するのでは、手数料は窓口の方が高く設定している。
しかし、都知事が要求するのは、こんなごく一部ではなく、すべての行政サービスについてだ。
近頃、不祥事続きのなんちゃら機構という利権の巣窟である半政府機関(第三セクターともいう)は顧客に対するサービスをないがしろにしている。
電話を掛けても繋がらないのは当たり前で、電話番号さえチラシやパンフにさえ乗っていない。役に立たない天下りたちの高額な給料や退職金の支払いをなくせば、カスタマセンターの設立や不具合の分析や防止に必要な人員を採用も可能になる。
そういう体制を整えて、3カ月後、サービスが有料になる記念すべき日にする。
朔曰く、3か月後、すべての行政サービスはそれを受ける受益者に相応の負担(料金の支払い)をしてもらう。行政書士、司法書士、税理士など専門家がいるにも関わらず、ろくに法律を知ろうともせず、無料(ただ)で職員にやってもらおうって輩も多い。
「行政サービスだとか、説明責任とかいう以前の問題だ。専門家にお金を払っていたり、自分で調べたりして申請してくる輩と、窓口を独占して他の客に迷惑をかける輩が同じ料金っておかしいだろ。
自らやろうとする努力に報いるべきだ。
少なくとも電子申請や電子届出ができるものについては、すべて窓口で行う場合と差をつける。申請の指導についても手数料をとる。
そうしないと、自分で苦労して調べて準備した申請と、白紙の申請書を窓口に放り出して、「どうすりゃあええねん。わからんからそっちでやってぇや~!」とふんぞり返るやつと同じように無料って、電子申請する人が報われないでしょ。
そんな調子で済むんなら、出かけるのが面倒な人以外は、誰も電子申請なんかしょうと思わないよ。
役所の窓口にいる人は税金をもらって働いているんだよ。税金の二割は公務員の人件費だから、窓口での対応が減れば公務員の数だって減らせる。
税金を払っているからって、窓口で自分だけは税金を無駄に使っていいってことにはならない。
大体、日本を見下したい某国では、役所の窓口で三割の人しか自分の名前が書けない偏差値30の低能国家と揶揄しているんだ。
民度が低いって言われても仕方ないほど、サービスという言葉で節度がない人も多いからな。
してもらうのが当たり前、悪びれることなく申請書や納付書をなくしたなんていう相手からは、再発行手数料を取る。再発行もタダじゃないんだから……。
加えて、都庁の問い合わせ電話には一分間20円の情報提供料を取る。窓口でも10分以上の相談または、書類の代行に対しては内容に応じて500円以上の手数料をとる。
法令のすべては公開しているし、専門家だっているのだ。自分でやろうと思えばやれる。人的サービスを受ける場合は有料にする。
都庁がサービスの有料化を大々的に広報すれば、都庁に合わせて民間も色々なサービスを有料化することになるだろう。
企業間物価(卸売り物価)と消費者物価の上昇率の差が5、6パーセントも開きがあるのは、小売りの従業員の無料奉仕や低賃金で埋め合わせいる部分も大きいと言われている。
物流は風下に行くほど人手が掛かるのは自明の理である。
ところが、IT技術を使った電子取引にポイントのインセンティブを上乗せして消費誘導しながら、従来の人手の掛かるやり方にも力をいれて、両方にコストをかけている企業が断然多いからな。
インセンティブの反対をディスインセンティブって云うんだけど、ディスインセンティブの日本語訳は習慣とか風習っていう意味があるらしい。
言い得て妙だ!!
受益者負担によって、今までの習慣や風習の真っ向反対を行く電子決済によるペーパレスやキャッシュレス決済も増えるだろう。金がかかるとなると、文句を言いながらもやるのが勤勉な日本人だ。
キャッシュレス決済が増えれば現金が減り、釣銭、防犯、計算ミスなど色々なリスクやコストが減るわけだから……。
韓国はキャッシュレス決済割合が八割を超えているそうで、日本がそうなれば、どれだけ仕事が効率化することか。
そこには色々なビジネスチャンスも生まれるし、デメリットとしてデジタルリスクも発生するだろう。しかし、そのための職業訓練学校だ。
不足しているといわれた技術者を補ってくれるはずだし、サイバーセキュリティに資質や特性が見出された訓練生も沢山いたと聞いている。
一年後、朔の狙いどおり、民間でも受益者負担の動きが活発化して、一部の人々を除いて、負担を逃れるために、IT技術を使ったサービスの利用者が指数関数的に増えている。
こうなれば情報と金の動きはより柔軟になってくるだろう。
より利益を生み出す体制になっていく。
ただ、この時点では、次から次へと今までに違って負担を強いる政策をぶち上げる朔への批判が大きくなっていた。
◇ ◇ ◇
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