第12話 朔が都知事になって最初に手掛けたのは失業対策
朔が都知事になって最初に手掛けたのは失業対策。
演説で技術と教育・治安維持・国防はどうなったのか? 誰もが疑問に思うところだが……。
朔にとっては、一番最初に手を付けなければならないところだ。
まず、欠員で経営がひっ迫している大学に失業者を入学させた。これは、元々失業者対策にあった職業訓練メニューであったが、授業内容はIT技術の先端事例、システム理論やプログラム作成に加え、さらにハッカー技術など。
特に授業で力を入れたのはネットワークの構築やそれに伴うデータベース化。コンピューターの最大の強みである検索と抽出技術を使った新たなビジネスモデルの模索など。
それを半年間みっちりと、さらに2回まで延長でき、最長は1年6カ月の間、大学でコンピュータ技術が学べるのだ。
IT技術の習得は、裾野の広い基礎技術を一から学ぶのではなく、パラシュート学習(ヘリコブターに頂上まで行って、パラシュートで頂上に降ろしてもらい、そこから裾野に向って学習する方)の方が効率が良いし、自分のやりたいことが明確であればあるほど、学ぶべき目標が明確になり取得も早い。
まあ、インターネットがまったくわからなくても、叡智なコンテンツにアクセスすることができるのを見れば、言っていることが大体わかるのではないか思う。
だから、半年から一年で十分な成果が出せるはずのだ。
これらの授業費は公費で負担。さらに受講期間中は失業保険の対象者以外にも賃金を支給していた。
ハローワークに通っていた和彦は、職員に東京都の制度で職業訓練を受けても失業給付が受けられと説明を受けて、乗り気ではなかったが、前と同じ、電気工事士の資格を取得しても大手には就職できず、小さい現場で使い潰されるだけだ。
職業訓練校の入学式。約300人を前に、壇上に立っているのはこの政策を進めた町田朔だ。
朔曰く、ホワイトカラー、事務業務のコスト削減から収益化の転換を目指せだ。
確かに、和彦が最初に面接した企業の求める人材。それはホワイトカラーの業務改善だったけど……。
昭和の工場や建設現場で働くブルーワーカーたちの仕事がオートメーション化し、機械に代わって効率化したのに、ホワイトカラーいわゆる事務系の仕事はPCが導入されたことで省力化はされたが、都知事の言う通り収益化はまだまだだと言える。
アナログからデジタルへ。事務作業の省力化プログラムは種々販売されて汎用化が進んでいるが、そこから収益につながるイメージがない。
それは営業職だった和彦も、一般的な企業の重役たちも一緒だった。人が余るもの困るわけで、新たな投資をして機械化しなくても人がすれば良い。そう考えて積極的ではなかった。
コンピューターは経営分析はできても、そこから経営方針をださない。はじき出さされた経営指標の数値はありきたりの値で、自らの経験と勘のほうがよほど信憑性がある。
それが経営者たちの主観的な味方だ。
学問がコンピューターを想定していない。またはついて行っていない。だからコンピューターは今までのありきたりな経営指標をプログラミング化する。
机上で紙でやっていた計算をコンピューターにさせているだけなのだから、今までと代わり映えしない数値が並ぶのは当たり前だ。
和彦たちはこの話を聞かされて目から鱗だ。
コンピューターがホワイトカラーの業務にあまり役に立ってこなかったのは、旧態依然とした経営分析が原因で、コンピューターのせいではない。
ならば、どうPCを活用するのか?
経営者が持つ経験や勘ってやつは、購買衝動っと言うこころの動きをストーリーとして構築できるってことだ。
ある状況で、あるニーズが生まれる……。またはあるウォンツを生み出される。
ここにいる諸君に告げる。就職したいなら、金を稼ぎたいのなら……!
いままで経験した強烈に揺さぶられた感情を使ってストーリーを練り上げろ!! 人生、ここに来るまでの間、君たちが経験したどうにもできない喜怒哀楽を思い出せ!!
そして、それを言語化しろ! そしてストーリー化しろ! そのおぜん立てはしてやる。
この学校で、心理学を学べ。行動社会学を習え、統計学を用いて数値化しろ! それらをAIに学ばせ、学習させれば、あらたなビジネスモデルが出来上がる。そして、ビジネスチャンスを掴め!!
俺が君たちに言えるのは以上だ!!
訓練生全員が唖然とする中、壇上から姿を消していった。
あとは職員が引き継いでオリエンテーションを始めた。
受講者は、受講期間中はほとんど大学生と同じ待遇を受けられる。
職業訓練授業だけでなく通常の授業や部活そしてサークル活動の参加も自由だとのことだ。コンピューターのプログラミング教室だけは受講番号順に30人ごとで、この授業だけは必須でサボると失業給付が止まるらしい。
第二の学生生活も楽しんでくださいと話が締めくくられた。
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