第10話 映し出された自称未来からきた男は

 映し出された自称未来からきた男は、まだ、二十歳を超えたぐらい若者。特徴のないどこにでもいるモブの外観だけど……。(この世界では公職選挙法が改正されて、二十歳以上であれば知事に立候補できるようになっている)


「未来から来た俺にとって金なんてどうとでもなる。博打は未来を知る俺には必勝だからな。別に金が欲しくて都知事をやるわけじゃねえ。未来を変えたいやつは勝ち馬(俺)に乗れ!! コメントを待つ」


 ふざけた宣言だが彼の周りには、政治に不満を持つ若者が集まり出した。

 そして、朔の予言通り、衆議院は解散。衆議院選挙に出馬するために現東京都知事は辞任。

 東京都知事選が予言通り実現した。

 そして、都知事選の告示日、すでに後援会を作り上げていた朔は立候補を届け出た。

 

 選挙演説の第一声、朔曰く、誰もが想像できる未来。各シンクタンク、総合研究所が予測する最悪の未来は確実に実現する。


 二〇四一年、団塊ジュニア世代が六五歳を迎える。少子化は進み出生率は0.9を割っている。その結果高齢者の割合は三割を超え、二人で一人の高齢者を支えるようになる。


 年金の受給額は15%の減額、さらに年金が受けととれるようになるのは七〇歳からで、平均余命を考えると受け取る年金総額は二〇二一年現在と比較して30%も減っている。


 加えて子どもや低所得者への扶助費に医療費など社会保障費は増大し、それを支えるために消費税は18%になっている。


 度重なる増税に、日本経済は低迷を続け、それに代わって台頭したアジアやアフリカ諸国の影響で、相対的に日本の影響力が低下。


 長く続く円安により貿易収支の赤字、物価高で庶民の生活はギリギリを強いられている。

 GDPは四〇〇兆円を切り、ドイツとインドに抜かれて世界6位。一人当たりのGDPは世界の四〇位にも入っていない。


 個人の収入は二〇二一年の年収と比較して平均値で100万円、最頻値で50万円も下がっている。3人に1人が年収二〇〇万円台なのだ。


 だからこそ、高齢者も女性も生きるために働かなければならない。失業率は10%に届こうとしており、就職できない若者は、親の年金と収入をあてに今日も引きこもりパラサイトをしている。


 それらの現象はワークシェアリングなどという甘いものではなく、趣味などやる余裕さえない切羽詰まった生活状況だ。


 今のまま、子育てコストを社会負担で乗り切ろうとする政策を続けた結果、飴のみで育てられて子どもが大人になったところで何の期待がもてるのか?


 成人しても社会の荷物になるほど学力もモラルも低下している。


 大学入試を迎える子たちは80万人を切っているのだ。あくせく競争しなくても大学に入れる。受験戦争なんて言葉は死語になっている。

 逆にアジア・アフリカ諸国では、受験戦争を経験した優秀な人材が山ほど世界に輩出されているのに……。


 日本はバブル崩壊後、政府の政策ミスで負のスパイラルに飲み込まれ抜け出せなくなっている。


 これが私の経験した未来だ。始まりはバブル崩壊後で、すでに手遅れだといえる状況だ。


 だが、俺が都知事になれば、経済シンクタンクの描くような誰もが想像できる未来じゃなく、誰も見たことがない未来を見せてやる!!


 朔の演説は熱狂的に迎え入れられた。なにせ、東京オリンピックのために都知事をやりたかっただけの都知事は、東京オリンピックが終わった後、コロナ渦の批判で嫌気が差していたところに内閣支持率の低迷。


 支持率を浮上させるために、与党から掛かった声に便乗して、国政復帰をめざし、任期途中で辞任。前代未聞の都知事選挙の予言が的中して、朔はここに立っているわけだから。


 そんな朔に向って対立候補者のスパイらしき者からヤジが飛んだ。


「どんな未来なのか具体的に答えろ!!」

「禁則事項です」


 周りからドッと沸いた。周りを煽ろうとした男ははぐらかされて焦ってしまった。


「ふざけるな!! 真面目に答えろ!!」

「いや、ネタバレは俺の存在が歴史から消されるんだよ。俺が選挙に落選してもだ!! 俺自身の存在をこの選挙に掛けている!! どこかの政治家の先生みたいに復活当選とか、ヌルイ選挙じゃないから」


 演説する車の上から、ヤジを飛ばした男に向って鋭い視線を飛ばした。


「お前!! 俺は誰にも邪魔をさせるつもりはない。でも、あんたの言うことももっともだ。支持者も聞きたいだろうから、当たり障りのない範囲で話してやるよ?!」


 朔は、万民に向かって演説を始めた。

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