第5話 同じことを繰り返そうとした馬鹿さ加減を

 同じことを繰り返そうとした馬鹿さ加減を周りのせいにすることで、自分の気持ちに折り合いをつける。政治が悪いのか?! 生まれた時代が悪いのか?! 


 くさる町田に対してハローワークの窓口の女性は、職業訓練を受けることで受給期間が延長されると説明して、職業訓練を申し込しこむように進めてくるのだ。


 前回の時は、同じ職業訓練を受けるのは町田より若い人がほとんだった。そして、職業訓練で修得する内容は、電気工事士の資格取得のための訓練だ。座学と実務は初めて習うことで、なおかつ基礎的なことで面白くない。


 職業訓練が進むうちに若い人が多い理由がわかるとともに、疎外感、いや劣等感に苛まれ

希望が持てなくなっていく。


解らないと言って期間が延長できるわけじゃない。まず、職業訓練による失業保険の給付期間の延長は一回きりなのだ。給付期間が切れるまでに何とか就職先を見つけるために、訓練に参加しながら、就職活動も行う。


 それなりにスキルを修得した若者は、会社、工場の技能職などに内定が決まっていく。

 延長期間が終わるのに、町田はまだ就職先が決まらず焦っていた。


 町田も履歴書の資格欄に電気工事士第2種資格取得予定と書いて企業に送っているが、反応はほとんどない。やっと面接までこぎ着けた企業も、町田にまだ取得しておらず、実戦経験がないとわかると会話がおざなりになる。


 採用担当者の態度は、町田に興味をなくしたのが露骨に顕著になるのだ。


 再就職のネックになるのは年齢条件、そして実践に裏付けされた即戦力。昭和の時代と違って、会社には人を育てる余裕などなくなっていた。


 さらに、社会の変化も……。若者の転職率の高さが人材ニーズのミスマッチなどと言われて、インターンなどの制度を採用している企業もあるが……。 


「人材ニーズのミスマッチ」当時よく聞いた言葉だが、今ならその意味を分かる。


 それは企業が求める技能を新卒者が修得していない。もっと簡単にいうと、社会が求める教育と学校の教育とにズレが生じている。言い換えれば、社会の変化に教育が付いて行っていないだけなのだ。


「ゆとり教育」これが二大国営企業の民営化、三大労働関係法の改悪、に続く政府の政策の失態だと人生を二度やり直した町田なら断言できる。


とにかく、日本では新卒での採用で一生が決まってしまう。偶然でも運でも必要な知識を教えてくれる余裕のある安定したところに就職できたのが勝ち組。


一旦、社会に出てしまえば、再び学ぶ機会も暇も、そして大儀名分もないのだから……。


町田は内定が決まった同期たちが就職する企業に、若者たちを育てる余裕があることを祈った。


そうでなければ、この若者たちも町田と同じように、経験者のプレッシャーに耐え切れず転職を繰り返すようになるだけだから……。そして、この制度は一回きりのため、次の失業の時には職業訓練は受けられない。


結局、なんとか取得した第2種電気工事士の資格を活かし、乱立する家電量販店のエアコンやテレビの搬送と設置の補佐をおこなう契約社員として採用が決まった。


 その後は、家電量販店は出店と閉店を繰り返し、そのテリトリー争いに巻き込まれて翻弄される人生の辛苦を舐めたのだ。


 せっかく、人生をやり直せるっていうのに、同じ人生を繰り返すしかないのか……。


職員に勧められた職業訓練校のパンフを見ながら、町田は自分の人生に絶望するしかない。


 なにも、町田個人が悪いだけじゃない。まして町田の努力が足らないわけでもない。生まれ育った時代が悪かったと不運を嘆くしかないのだ。


◇ ◇ ◇

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