第4話 あれ?! どうなっているのだ?
「あれ?! どうなっているのだ?」
事故を起こして、気を失って……。あのまま、死んでしまったのか?それとも生きていたなら病院のベッドで目覚めるはずだが……。
町田はハローワークの求人用コンピューターの前にいた。しかも、コロナ対策の給付金や失業給付期間の延長の広報ポスターやチラシが、自慢げにあちこちに貼られている。
この法律がどういう意図をもって作られたのか政治の素人の当時の町田には分らない。
ただ、初めてハローワークで職探しをすると、民間の求人情報誌と違って、求人票には男女の記載はなく、賃金は前職と比べてどの求人も給料が一律で安い。この給料で男として一家の生活を支えることができるのか?
コロナで職を失った町田は、求人票を見て感じた時と同じ既視感を感じた。
慌ててコンピューターの日付を確認する。
「なんで……、二〇二一年? 僕がコロナで勤め先が倒産して失業した時に帰ってきた?!
死んだはずなのに、あの頃に戻って再び人生をやり直せって云うのか? ろくな人生じゃなかったのは確かだが……?!」
町田は食い入るように、求職情報を探すのだが……。あの時と同じように、ろくな条件の求人はなかった。
当時の記憶を町田は持っていない。思い出したくもないみじめな日々だった。それでも、魅入られたように歴史は繰り返すようだ。
数多(あまた)ある求人票から、良さそうなものを持って、紹介窓口へと向い、窓口の女性に求人票を差し出した。
「これの紹介状をお願いします」
「えーっと、この企業は……、難しいと思いますけれど……」
女性の口元のゆがんだ愛想笑いで、町田は当時のことを鮮明に思い出した。
この企業は、当時、最初に面接を受けて門前払いを受けた企業だ。この企業で再就職の難しさ、怖さ、焦燥感、喪失感などを身に刻みつけられた。
それでも……、あの時とは違う。
「あの、電気工事士第2種の資格を持っています」
「あっ、そうなんですか? 実務経験とかは?」
「エアコンとかの設置現場の経験はあります」
「そうですか。ちょっと待ってください。相手企業の担当者に聞いてみますね」
そう云って、窓口の女性は求人先に電話を掛けた。
女性は電話口で時々頷いていたが、受話器を保留にして、町田の方を向いて話掛けてきた。
「資格証はありますか? 履歴書に書いておいて実際には持ってない人もよく応募してくるらしいので」
「はい、ここに……」
町田はいつも入れている免許証入れを探すが、資格証が見当たらない。それどころか、免許証の写真は若かりし頃の写真だったのだ。
こんな、すべて過去のあの時のままって? 心だけ過去の体に戻ってきた?わけではないよな……。
「いや、ちょっと忘れてきたみたいで」
「ふーん。わかりました。先方にその旨伝えますね」
町田は何かを言おうとしたが、女性はそのまま、電話で持っていないことを伝えて、相手と二言三言話すと電話を切って町田の方を見た。
「先方さんは、もう採用が決まってる人がいるみたいで、面接はできないということです」
いや、さっきの電話で「持っているかどうか怪しい。前職も全く関係ない営業職だ」というのが聞こえたんだけど……。
過去と同じ選択肢をなぞり、当時と違って、面接にさえ至らない結果に愕然とする。
町田の年齢は二〇二一年現在で三〇歳、正規職員の求人の定年は三〇歳と言われ、そこを超えると大きな壁が立ち塞がるように極端に正職の就職が難しくなる。
町田はそんな前の人生で思い知らされたことだ。
確か前回は……。
五分ほどの面談の後、「ご縁がありましたら、その時はよろしく。それから、就職活動は続けておいてください」という面接担当者に見送られて会社を後にしたのだ。
就活を続けろって、採用がないことを暗に言われているのか?
面談でも、コロナでリモートワークや面談がない新たな営業に必要な「コンピューターのプログラム云々」の話を一方的にされ、業務の効率化のためにコンピューターに詳しい即戦力が欲しいらしかった。
町田は大学を出て就職した後は、バブルが弾けた後で、採用が絞られていたこともあって仕事は多く、上司に言われる仕事だけで忙殺され、コンピューターに限らず新たな知識を得るための勉強などしたことがなかった。
それから一週間後、「申し訳ありません。ご縁がなかったようです」と不採用の理由も告げずに悪びれることもなく、採用担当者から連絡があった。
そこで食い下がるだけの度胸は町田にはない。不採用になった理由も聞くこともできない。
「はあ、お手数をおかけしました」
電話口に向かった頭を下げるだけだった。
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