第3話 日本ではバブルが弾け
日本ではバブルが弾け、経済のどん底を経験して以来、戒めとして上を目指す(儲ける)ことを、国民全体が怖れるようになったのかもしれない。経済は活気を失い、そして……。
むき出しの向上心より公平や平等、そんな実態のないものに、政府も経営者も心を砕くようになり、その反動は努力で得た地位でさえ攻撃の的になっていく。
その結果、耳触りだけは良い、しかし、向上心を持つ者の足を引っ張る政策が目立つようになってしまっていた。
真の公平や平等とは、持つものすべてが取り上げられ、すべての人が絶望に打ちひしがれる底辺になることでしか実現しないのに……。
そんな政策を上がれば枚挙にいとまがない。
政策的に国営にしている二つの企業を、民間より優遇されているという世間の声に乗り、人気取りのために民営化した。
バブル時代、通信の自由化の波で日本電信電話公社はNTTに、自民党をぶっ潰すといった総理が行った郵政民営化。この二つは未来の経済の根幹を担うITテクノロジーのネットワークと物流のインフラを、己の利益のみを追求する民間に委ねてしまった。
中央と地方と情報格差、物流格差は大きく広がり、他国と比べても割高なそれらの使用料は、エネルギーを海外に頼りきっていることと合わせて、企業の業績をひっ迫させた。
さらに、NTTもゆうちょも民間になったことで汚職や横領がなくなったわけでもなく、いまだ政府や大企業に忖度し、不祥事にまみれる某国営放送は、意義さえ見いだせないまま国営として残っている。
また労働法でも同様であった。
バブル時代の人件費の高騰は、経営状態を悪化させていた。
年功序列の企業慣習は、バブル崩壊で働いている人たちの雇用を守るために、新人の採用を控えた。
その割を喰ったのが当時の新卒者であり、就職できなかった彼、彼女たちが仕方なく選択したのが派遣という選択肢であった。就職の超氷河期の始まりだ。
企業と労働者双方に、政府は派遣法の改正という援護射撃を行う。
派遣できる業種の枠を広げ、ほとんどの業種で派遣できるようになった。それによって一時的に、若者は働き口を得、企業は正職員を守るためのショックアブソーバーを手に入れた。
当然、派遣の給料は低く安定しなかった。ただ、働き口ができただけマシと誰もが、この法律を受け入れたのだった。
さらに、女性の社会進出も多くなってきた。
そんな時代に出た方針で、元々努力目標だった男女雇用機会均等法の扱いが、募集及び採用から退職に至るまでの雇用管理の全てに女性への差別的な取り扱いが完全に禁止された。
これは、その平成九年に消費税が引き上げ(3%→5%)られた批判を躱すための意味合いもあったかもしれない。
消費税を上げるたびに日本は消費が低迷して、不況になり旦那の給料は減っていった。家計を預かる主婦に消費税の増税は重く圧し掛かっていた。家計の助けのためにと仕事にでる決意をした女性もいただろう。
そして、求人票をみた女性は、今までのようなスーパーマーケットのレジ打ちや電子部品の検査要員ではなく、色々な職種の求人に驚いたことだろう。
ただ、そういった幹部候補生のような職種に求職を申し込んで、採用に至ることはなかった。
はっきりしていることは、バブル崩壊以来転職を繰り返した男たちにとって、就職を目指す職種の募集賃金が目に見えて下がったことだ。
増税で不景気になった企業は、この男女雇用機会均等法を逆手にとり、男性の賃金を女性の賃金に近づけることで、採用人員を確保しつつ賃金総額を下げたのだ。
これは、二〇二〇年四月に施行された同一労働同一賃金法も同じことがいえた。
この法律も結果的には、正社員なみに責任を押し付けられていた一部の非正規社員に有効に適用されただけで、正規職員の賃金を非正規職員に近づけただけだった。
法律を改正しても、運用する側にとって有利になるように運用するだけで、平等や公平の声の前に全員が不幸になっただけだ。
派遣法、男女雇用機会均等法、同一労働同一賃金法、この三法は、未来では、経済音痴の官僚と政治家が、国民の不満を抑えるため、耳触りの良い言葉を並べた机上法と揶揄された。
または、経営悪化した企業から依頼された賃金を下げる法案を、賃金格差に問題をすり替え、美麗字句を並べて隠すための法だとする陰謀説まででてくるほど悪法扱いされている。
これが、バブル崩壊から二〇二一年の間におこった現実だった。
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