第3話 脱走

 次の日の夜。

 カイリ達はマニューバフレームに搭乗していた。

 隣にいるのはニーナのみ。

 その前方には二人以外の子供達の部隊が進撃している。

 向かう先にあるのは他のアウトレイジが滞在している地点。

 周りにはいくつかの巨大な岩に囲まれており、隠れているには良い場所だ。

 しかし同時に他からの侵略には対応するのは困難な状態になっている。

 勿論、見張りは存在しているが大人たちが使う高性能なマニューバフレームと狙撃武器により一撃で沈黙。


『荒らせ荒らせ!!

 男は殺せ!女は捕らえろ!ガキはどっちでもいい!狩りの時間だ!』


 パレノコールの号令と共にマニューバフレームが雪崩れ込む。

 相手のアウトレイジは少し遅れて対応するが、数の差に押されていく。

 中にはリーセントよりも高性能な機体が暴れ、何人かの子供が犠牲になる、それでも囲まれて袋叩きに。

 カイリやニーナもその一員だ。

 抵抗しに来るマニューバフレームを中心に倒し、できるだけ行動不能になるように器用に破壊する。

 ニーナも同じだった。

 常に苦い顔しながら機体を動かし、襲い掛かる敵を右腕で吹き飛ばす。

 火の手が上がり、悲鳴が機体の収音機能が拾う。

 一人、また一人と。


「ニーナ、ちょっとついてこい」

『は?急に何?』

「いいから」


 ある程度の機体を倒した頃、カイリはニーナを連れて戦域を離れた。

 移動の距離が長くなるにつれてニーナの胸に焦燥感が募る。


『ちょ、ちょっと!

 流石に場所離れ過ぎじゃない?

 これ以上はあのクソボスにバレるわよ!?』

「問題ない。

 アレから連絡されることも会うことももう無い」

『はぁ!?何言って……』


 カイリとニーナはかなり離れた場所まで移動し、機体を止める。

 周囲の確認をし終えるとカイリは機体のハッチを開けて降りた。

 ニーナも困惑しながら同じように機体を降りる。


「ねぇ、早く戻らないと。

 機体だってマーキングされてるんだからすぐにバレちゃうわよ?」

「大丈夫だ。

 事前にジャミング装置を俺たちの機体に取り付けてある。

 来る途中でそれを起動させたからマーキングは機能しない」

「じゃ、ジャミングって……一体そんなものどうやって」

「それは」


 カイリが教えようとすると一台のトレーラーがその場に現れ、二人の前に停まった。

 ニーナは何事かと身構えているとトレーラーのドアが開き、誰かが降りてくる。

 その人物を見てニーナは目を見開いた。


「はーいお二人共。無事に抜けられたみたいね」

「み、ミーナ!?」


 その人物はミーナだった。

 服装は以前に来ていた高そうなものではなく、カイリ達と同じレベルの物だ。

 それでも新品である為に綺麗ではあるが。


「なんでミーナが……」

「あれ?カイリから聞いてない?

 私たちの脱走計画」

「脱走!?」


 ニーナはバッとカイリの顔を見た。

 カイリはバツの悪そうな顔になりながら「すまない」と謝る。


「タイミングが無かった」

「まぁ、正確な計画は昨日の夜に伝えたばかりだし、仕方ないわね」

「ちょ、ちょっと待ってよ!!

 一体なにがどうなっているのよ!?ちゃんと説明して!」


 だがニーナは気が気ではない。

 自分の理解できないことばかりで混乱していた。

 カイリはミーナを見て顎をクイッと動かす。


「えーっとねニーナ。

 結構前から脱走計画を建ててたの。

 私たちが生き延びるためにね」


 ミーナは語り始める。

 捨て子アバンタイドチャイルドは使い捨ての駒として使い潰されるのが常。

 全員がそうはならないためにミーナはすぐにボスであるパレノコールに取り入った。

 幸いにも優れた容姿と最低限の教養を持ち合わせていたのですぐに気に入られることができた。

 それからパレノコールは勿論、他の大人達にも媚びを売り、着々と根回しを行って二人のサポートを行っていた。

 装備や機体の整備を最優先にするようにしたり、むやみに使い捨てにさせない為に無茶な命令を指せないようにしたりなど。

 パレノコールに同行し、最寄りの街に立ち寄った際に物資や情報の収集も行っていた。

 今回の他のアウトレイジの拠点を教えたのもミーナだ。

 欲深いパレノコールはそれを知ったらすぐに襲撃して何もかも奪おうと言い出すと考えたからだ。

 それによって生み出される混戦状態は三人が抜け出すには都合がいい。

 以前からひっそりと物資を運び出して集めて隠していたので、それらを運び出すためにトレーラーを盗む出してこの場所で二人と合流した。

 ふふんと自慢げに胸を張りながらミーナは笑う。


「ジャミング装置を用意したのも私。

 整備の人を抱き込んでつけさせてもらったの」

「……」

「さて!長い話はおしまい!

 こんなところに長いは無用!

 さっさと別の所に行くわよ、次に行く場所は決めてるんだから!」

「待ってよ!!」


 ニーナは上機嫌になっているミーナを怒鳴る。

 その顔に浮かぶのは怒りの表情。


「どうしたのミーナ?

 やっとあんな肥溜めから解放されるのよ?」

「他のみんなはどうなるのよ」

「他?」

「他の捨て子や今日襲われているアウトレイジの人たちのことよ!!

 みんな見捨てるの!?犠牲にするの!?

 それじゃああのクソ大人達とやっていることと何も変わりないじゃないのよ!!」


 歯をむき出しにしてミーナの胸倉を掴む。

 ミーナは抵抗せずに掴まれ、ただ笑みは消す。


「そうよ」

「どうしてっ!?」

「私は知らない誰かよりあなた達の方が大切だから」

「っ……!」

「私は人生において大事なのは妹とその隣に立つ男の子。

 それ以外はどうでもいい」

「なっ!?それは」

「いいニーナ?

 貴女は私の事が嫌いだろうけれど、私はいつでも貴女の事は大好きよ。

 だからその幸せを守る為なら手段を択ばないわ」

「そんな自分勝手な」

「ニーナ、落ち着け」


 カイリはニーナの手を握る。

 それに反応するようにニーナはカイリを睨みつけた。


「カイリもカイリよ!

 前からミーナのやってることを知っていたんでしょ!?」

「……あぁ」

「ふざけないでよ!

 私だけ何も教えてくれないのよ!

 なんで……そんな……」


 ニーナの手から力が抜け、項垂れた。


「文句なら後で聞くわ。

 ともかく今はここから離れましょう。

 まだこの場所は安全じゃない。早く遠くに行かないとね」

『おぉ~っとそれは良くないなぁミィィィナァァァ?」

「!?」


 大きな声と共にその場に現れたのは13機のマニューバフレーム。

 その真ん中にはド派手に装飾されている機体があった。

 ミーナはそれに見覚えがある。

 ボスであるパレノコールの機体だ。


「どうしてここがっ!?」

『俺はよく物を無くすから所持品には印をつけることにしてるんだ』

「印?」

『あぁ、お前が寝ている間に追尾ナノマシンをちょっとな』

「っ!?」


 そう言ってミーナは自分の身体に手を当てる。

 汗が止まらなかった。

 まさかそんな代物を仕込まれているとは考えていなかったからだ。


『所詮は子供だな。

 カイリとニーナが見当たらねぇと思ってお前の居所を調べてみたら案の定だ。

 なんだそのトレーラー?もしかしてどっかに逃げるつもりだったのか?』

「……まさかボス。

 これはあのアウトレイジたちからかっぱらったものですよ。

 私が見つけたところを二人に追いかけてもらったんです」


 まだ言い訳はできる。

 ミーナはそう考えて笑顔を顔に張り付けた。

 その中で打開策を必死に探す。


『ほぉ~?

 じゃあそのアウトレイジの死体はどこにある?』

「残念ですがボス。それは二人の機体が潰しちゃったんで死体は無いんです。

 それはもうペチャンコからの風でどこかにいっちゃうくらいに」

『そうかそうか、それは残念だ』

「えぇ、ごめんなさい。

 次からはわかりやすいように残すことにするわ」

『いや、そっちじゃねぇ』


 パレノコールの機体の腕が上がる。

 それが持っているのはマニューバフレーム用のマシンガンだった。


『お気に入りのお前を殺すことになったことだ』

「っ!?」


 パレノコールは引き金を引き、弾丸が発射される。

 狙いはミーナ。

 マニューバフレームには小さくても人間に一発でも当たればすぐ肉片だ。

 咄嗟に身体を腕で庇うが意味をなさないだろう。

 悲鳴を上げることなく死ぬ。

 だが、そうはならなかった。


『まぁ、そうなるよな』


 ミーナの前に二つの機体が庇うように出ていた。

 カイリとニーナだ。


『隠れてなさい!!』

「でも!」

『アンタは邪魔だって言ってんのよ!」

「……死なないでね!」


 ミーナはトレーラーに乗り込み、近場の岩陰まで動かす。

 それを追いかけようとしたパレノコールの部下が動くが、パレノコールが手を上げて制止させる。


『ボス』

『こいつらが先だ。

 あぁは言ったがあの女を失うのは惜しいと思うくらいには上玉だからな』

『へい』

『カイリ、一応言っておくぞ?

 帰ってこい。

 そうすれば今回は特別に飯を抜くだけで勘弁してやる』


 俺様は寛大だからなぁ。とパレノコールは嗤う。

 カイリは大きく深呼吸をして操縦桿を握りしめた。


「ニーナ」

『わかってるわ』


 カイリはパレノコールに返事を返さずにペダルを踏んだ。

 機体が前進し、完全に油断していた一機にブレードを構えて突撃。

 向けられた刃はコックピットを貫通。

 搭乗者は即死。


『そうか』


 だがパレノコールは慌てない。


『じゃあ死ね』


 冷酷な声と共に戦いが始まった。

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捨て子がロボットに乗って旅する話 projectPOTETO @zygaimo

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