第2話  非合法武装組織(アウトレイジ)

 カイリ達がいるこの組織はアウトレイジと呼ばれる非合法な武装組織の一つだ。

 ギアエネミーを狩る以外にも他人から略奪することも厭わない。

 違法な商人から横流しされたものを購入し、己の力を増やしていく。

 足らなければ奪った人材を働かせたり、そこらへんに暮らしている貧民を衣食住で釣って奴隷のように働かせる。

 統括しているのは総じて人間の屑の極みがほとんど。

 その中でもここはトップクラス。

 この組織の拠点は昔にセントラル中央で使われていた大型戦艦をベースとしており、武装も人も多く積み込める。

 この辺りでは一番の動く要塞だ。

 だが働いているほとんどがアバンタイドチャイルドで、大人たちは基本的に飲んだくれている。

 優しくしてくれるのは機体の整備をしてくれる整備班の人間たちくらい。


「今日は二人か」

『別にいいんじゃない?

 さっさと適当なの見つけて帰りましょう』

「そうだな」


 カイリたちは今日もマニューバフレームMFに乗り、ギアエネミーを狩る。

 マニューバフレームは座席に座るだけで、視点を除けば自分が巨人になった感覚で動かすことができる。

 であればレバーやペダルはいらないのではないか?と言われればそうはいかない。

 人体にはスラスターや足のホイールはついていない。

 結局のところ機械的な部分はレバーやペダルなどの操作機器が無いと機能しないのだ。

 そんな機体を乗ってカイリたちは早5年。

 ほぼ毎日も乗れば嫌でも乗りこなすことができていた。

 文字が読めなくともつけているヘッドセットから頭に直接情報が流れてくるのでコンソールの操作は手間取らない。

 しばらく荒野を動いていると3匹ほどのギアエネミーの反応がコンソールに映し出された。


「ニーナ」

『こっちも確認できたわ』

「小型、たぶんラプトルだろう」

『3体もいれば文句は言われないわよね』


 カイリが横を見るとニーナの機体の腕がガシャンと動かす姿が目に入る。

 彼女の機体には特別な事情でカスタマイズされており、右腕がパイルバンカーを内蔵されている。

 そのせいで幾分か巨大化しているが、その分そのままぶつけても威力は高く、また盾としても有効に活用できる。

 前回は相手が巨大だったので限界以上の出力を出して破損してしまったが、今回の出撃するまでには何とか修復できたようだ。

 整備する大人にカンカンに怒られていたことに目を瞑れば何も問題はない。

 ニーナは機体の速度を上げて反応があった場所へ向かう。

 カイリもマシンガンを握りなおしてその後ろに続いた。

 岩陰から前かがみの状態のまま進む二足歩行の機会が現れる。

 その姿はトカゲやヤモリに酷似しているが、その手には鋭い爪や顔には尖った牙を生えそろわせている。

 ニーナはそれに恐れることはなく、更に加速させ、その剛腕を1体に向けて振るう。

 大きな破砕音が響き、あっという間に3体のうちの1体は破壊された。

 それに反応した残りの2体は両端についている機銃でニーナを狙うが、そのにカイリがマシンガンで弾を乱射して妨害。

 距離も相まってマガジン一つ分のうちの数発しか当たらなかったが、ラプトルたちは動きを止め、隙を晒した。

 ニーナはそれを見逃さず、1体を右腕で叩き潰し、もう1体を左腕に握っているブレードで串刺しにした。


「お見事」

『カイリ、あんたちゃんと当てなさいよ』

「当てなくても仕留められるだろう」

『弾がもったいないでしょ!』

「……」

『なんで黙るのよ』

「いや、お前にもったいない精神があるとは思ってなかったから正直意外だった」

『喧嘩売ってる?』

「さて、ラプトルなら自前で抱えられるな」

『話逸らすな!』


 2人がワイワイと話しているとマニューバフレームに通信が入る。

 コンソールを触って回線を開くとパレノコールの姿が映し出された。


『調子はどうだ?』

「上々です。

 今2人でラプトル3機を仕留めました」

『ほぅ、そいつはいいな。

 じゃあちょっと話があるから戻ってこい。大至急だ』

「えっ、ですがラプトルの回収が」

『そんなもんは別の奴らに任せる。今はこっちが最優先だ』

「……わかりましたボス」

『おう、早く戻ってこい』


 パレノコールがそう言うと回線が閉じられる。

 カイリが大きくため息をつくと今度はニーナが回線を繋いできた。

 コンソールに映し出されるのは不安そうな顔。


「どうした?」

『いや、なんか嫌な予感がして』

「そうか……そうだな……」


 きっとろくでもないことが待っているのだろう。

 渋々ながらカイリは機体を拠点に向けて動かし始める。

 正直あんな男の指示に従うのは嫌気がさす。

 だがそれでも生きていくには従うしかない。

 まだ、今は。


 □


「襲撃をかける」


 戻って早々そう告げられた。


「他のアウトレイジにですか?」

「そうだ。レーダーに変な反応があったからちと偵察させに向かわせた。

 するってぇとどうだ?そこには丁度いい餌場が広がっているじゃねぇの。

 これはもう奪うしかねぇよなぁ!」


 パレノコールはソファに座らせたカイリに肩を組み、地図を広げた端末を指さす。

 アバンタイドチャイルドは地図も文字をを読むことが出来ないと知っているはずなのに。


「最近は狩りの調子がいい。

 わざわざそんなことする必要は無いのでは?」

「ほぉ?なんだ、俺に意見か?

 随分と偉くなったなぁ、えぇっ?」

「……いえ」


 パレノコールの声色の変化に気づくが、カイリは動じない。

 しばしの沈黙があり、パレノコールは酒臭い息を吐きだして立ち上がった。


「相変わらずいじりがいのねぇやつだな。

 ユーモア性ってのが足りてねぇ」

「申し訳ございません」

「まぁいい。実行は明日の夜だ。

 今日の夜はミーナとイイコトするつもりだったからな」


 そういって汚い笑みを浮かべて握った右手を上下に動かす。

 最初こそはそれがどういったものかはわからなかったが、最近それには卑猥な意味があるということを知った。


「おぉ、そうだ。なんならおめぇも混ざるか?

 ミーナとも知らねぇ中じゃねぇしな。俺もたまには趣向を変えてみるもの悪くねぇ。

 他のやつらだと加減を間違えてしまいそうでおっかねぇからな」

「……お誘いしていただいて嬉しいですが、遠慮します」

「そうか、つまらん。

 あぁ、そういやこの前の褒美の飯は部屋に置いてある。

 それで明日へ向けて英気を養っておくんだな」

「ありがとうございます」


 カイリはパレノコールに礼を言った後に部屋を出る。

 誰にも聞こえない音量で舌打ちを打ち、うんざりする気持ちを胸に抱えながら自室にへと向かうと何やら騒がしい声が聞こえた。

 なんだと離れた距離から目を凝らすと、そこにいたのはニーナとミーナだった。


「なんでミーナがこんなところにいるのよ!!」

「なにって、私はボスに言われてここに来てるんだけれど?

 ほら、お肉にお野菜とあっまいジュースよ。

 この前の報酬になんと豪勢に4人前!さっすがボス!太っ腹~!!」


 ミーナは両手に持つ鉄製のトレーを上げて笑う。

 そこにはいつもより大きい缶詰や缶ジュースが乗せられていた。

 それを見たニーナは震えながら腕を振り上げ、そのトレーを撥ねる。

 トレーは両手から離れ、乗っていた物は通路に落ちて煩い音を響かせた。

 そしてミーナの高そうな服の胸倉を掴み、鬼気迫る表情で睨みつける。


「なんでアンタはあんなヤツに媚びてるのよ!」

「あら?生きる為に強いものに媚びるのは普通でしょ?

 おかげで私はここでいい暮らしができているわけ。

 ニーナもそうしたらいいじゃない。まぁ、スタイルの方は私より良くないけれど」

「誰がッ!」


 ニーナがミーナの顔を殴ろうと拳を振り上げる。

 しかし、その拳はカイリの手によって止められた。


「ッ!?」

「落ち着け、こんなことしても意味が無い。

 むしろボスの機嫌を損ねるだけだ」

「でもっ!」

「ミーナも。用が済んだら帰ってくれ」

「あらカイリ?久々にあったのにその態度は無いんじゃないの?」

「……」

「そう、釣れないわね。

 わかったわ。ここは退散するとしましょう」


 ミーナは肩を竦めて、やれやれとその場を離れる。

 その時、カイリの耳元に小さく囁いた。


「0時。いつもの場所」


 カイリは返事をせず、ミーナの背中を見送る。

 通路の角を曲がり、その姿を確認できなくなったところでニーナを見ると何とも言えない顔で立ち尽くしていた。


「ニーナ」

「あによ」

「飯、食べよう」

「そんなの食べたくない」

「食べなきゃその……困る」

「……」


 カイリがポリポリと頬を掻く。

 ニーナはそんなカイリを見て、渋々と缶詰を拾う。

 カイリもその様子を見てホッと息をついて同じように拾い始める。


「久しぶりの肉だな」

「あっ、これ私の好きな味付け」

「よかったじゃないか」

「うん」


 全て拾い集めた後、二人は食事を取った。

 それは味が濃く、いつも支給されるものより美味い。

 先程まで不機嫌丸出しだったニーナは少しだけマシになっていた。

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