捨て子がロボットに乗って旅する話
projectPOTETO
第1話 アバンタイドチャイルド
『やだやだ!まだ死にたっ』
通信越しに若い叫び声が聞こえる。
同時に少し離れた先で爆発が起きた。
そこから細かい金属の破片が飛び散り、周りに散らばる。
これらの元になっていたものは原型をとどめていないだろう。
そんな痕跡が辺り一面に散らばっていた。
少年はペダルを踏みこむ。
衝撃が身体を押し、そのまま圧力が全身に広がる。
普通なら身体がぺしゃんこに潰されてしまいそうな気分になるが、少年は構わずペダルを何度も踏む。
画面に映る映像が何度も変わり、戦場を駆ける。
『よくもモリブを!!』
画面の横から人型の機械が通り過ぎる。
その機械が向かう先にいるのは大きな獣。
いや、正確には獣の形をした機械だった。
四足歩行で歩き、身体は硬い装甲で覆われている。
体中には機銃もついていた。
大してそれに向かう人型の兵器は貧弱もいい所だ。
細い手足で動き、手に持つ武器はマシンガンとブレードとグレネードだけ。
強いて優れているところを上げれば、その身軽さによる機動力だろうか。
『喰らえぇぇぇぇ!!!』
機体がマシンガンの引き金を引く。
銃身がブレながらも発射される弾は獣の機械が装備している機銃に当たり、破壊した。
『どうっ』
機銃を破壊した喜びもつかの間。
獣の機械に突進され、そのまま潰される。
少年はそれを尻目に獣の背後から滑り込むように腹部へと入り込んだ。
そこからマシンガンの弾を撃ちこむ。
弾が食い破るように獣の腹を損傷させる。
瞬時にマシンガンのマガジンを交換し、ペダルを踏みこんで足の一本へと動いた。
そして至近距離から関節へマシンガンの弾を全弾叩きつける。
足が破壊され、獣の機械はバランスを崩してよろめいた。
「ニーナ」
少年が呟き、その場を離れて顔を上げる。
すると一つの機体が跳びあがっていた。
見た目は先ほどの見た貧弱な機体そのもの。
だが、その右腕部だけは数段大きかった。
機体はその腕部をよろめく獣の機械に叩きこむ。
更にそこから杭のようなものが射出された。
獣の機械は横倒しになり、衝撃が辺りに広がる。
それでも獣の機械は動きを止めようとしない。
だから少年は素早くレバーを動かして獣の頭へと向かう。
カチカチと動かし、画面右側を見る。
そこにあるのは大きな手に握られているグレネード。
複数紐づけされているそれを獣の機械の頭に放り投げて、そのまま駆け抜けていく。
数秒後、背後から爆発音が響いた。
しばらく進んだ後、動きを止めて振り向いた。
眼に入るのは爆発で発生した煙と機能停止した機械の獣。
それを無言で見つめていると隣に先ほど腕を叩きつけた機体が立つ。
だがその腕は既に存在せず、腕が一本になっていた。
『終わったね』
「何人死んだ?」
『私たち以外』
「そうか」
あの獣の機械と対峙したときは六人いた。
残りは二人。
少年、カイリはコンソールの画面を操作する。
回収班を呼ぶための信号を出すためだ。
仲間が死んでも嘆かない。
悲しいという感情がなわけではないが、仕方ないと流すしかなかった。
アバンタイドチャイルドにとってはこれが日常だから。
□
荒れ果てた荒野が広がる大地。
そこには人類とは別のものが存在する。
蠢く機械『ギアエネミー』
誰が作り、誰が動かしているのかはいずれも不明。
ただわかるのはその身は機械でできていることだけ。
それは脅威でもあり、また恵みでもあった。
彼らの肉体はこの地を生きるのに重要な資源だからだ。
だから人類は彼らを倒し、その資源を確保するために人型の機械『マニューバフレーム』を使う。
カイリとニーナが乗っているものもそれの一つだ。
しかし、それはギアエネミーと戦うには全く性能が足りていない。
それもそのはず。
これは整備はされているものの、だいぶ初期に製造された骨董品だ。
名前は『
今の時代、こんな名前を聞いたら誰もが笑ってしまう。
機体を降り、カイリとニーナは一つの部屋に通されていた。
そこにはソファーにどっしりと座り込んでいる男が煙草を吸っている。
煙を吐き出し、にっかりと笑った。
「いよぉ~おめぇら、大戦果じゃねぇか!
あの『トリケラディー』を手に入れられるなんてよぉ!
これでぼろ儲けだぜ?今度のおめぇらの飯を豪華にしてやる」
「ありがとうございますボス」
「でも機体が4つ潰れたのがもったいないな。
カイリ、お前どうにかできなかったのか?」
「申し訳ありませんボス。
俺でもあのデカいの相手には……」
「いやぁ責めているわけじゃないぜ?
俺様は寛大だ。いつもと言い、今回と言い、お前はうちの稼ぎ頭だからな。
まぁ、機体は今回の稼ぎで安く売ってるところから買うさ、気にするな」
「乗り手はどうするんですか?」
今まで黙っていたニーナが聞く。
ボスと呼ばれるところは「あぁ?」と不思議そうな顔になってた後、答えた。
「決まってんだろうが、そこらへんに捨てられてるガキを拾って乗せる。
飯を餌にすれば乗り手なんていくらでも手に入るさ」
当たり前だろ?と言いたげな顔で。
ニーナは手を強く握る。
「まったく、お前はMFを動かす腕はいいが
その点、お前の姉はとっても優秀だぜ?俺の女にしておくにはもったいないほどだ」
「それはっ」
「ボス。申し訳ありません、ニーナは疲れているようです。
早めに休ませてあげられませんか?」
ニーナを遮り、カイリは進言する。
「ふぅむ……今回の成果に免じてやるか
今日は飯食って寝ろ」
「ありがとうございます」
カイリは頭を下げてニーナを手を引いて退室する。
通路を歩き、部屋から離れてしばらくして手を振り払われる。
足を止めるとニーナは怒り心頭をそのまま形にした表情になっていた。
カイリは周りを見渡し、誰もいないことを確認する。
「ニーナ、いいぞ」
それを合図としてニーナは近くの壁を蹴りつけた。
コォンという音が響く。
ニーナは涙目になり、蹴りつけた足を抱えた。
蹴る力が強すぎたようだ。
「あんのクソダルマ!子供を何だと思ってんだ!」
「落ち着け」
「落ち着けないわよ!4人よ!4人死んでんの!?
なのに何も気に掛けない!」
「いつもの事だろ」
「だから腹立たしいのよ!
おねぇ、ミーナもなんであんな男に入れ込んでるの!?わけわかんない!!」
「まぁ、俺たちと同じ
「私と違って美人だからね!」
そう言ってニーナは再び壁を蹴りつける。
今度は痛がってない。
「お前も十分美人だと思うが」
「うっさいバカ!!」
ニーナはふくれっ面で食堂へと向かう。
何か間違えたかなとカイリはその頭を掻いて後ろに続いた。
次第に人の声が聞こえ始める。
それは自分たちと同じ子供の若い声だった。
食堂に入ればその姿が目に入った。
見るからにみすぼらしい姿をした子供たちが長テーブルを囲んでいる。
食事を取っているようだった。
ここにいる子供たちにとっては唯一の楽しみだろう。
固形のクッキーやスープを食べながら、仲間内で談笑をしている。
だが、カイリ達が来るとすぐに静かになった。
まるで水の波紋が広がるようにカイリ達を避け、食事の途中の者は食べ物を掻っ込み、席を立つ。
配給所に向かうとそこには二人より少し年齢が上の青年がいた。
カイリを目にすると侮蔑するような目つきになった。
しばしの無言の後、クッキーが入った包みとスープが入った缶を台に置く。
カイリの分とニーナの分。
ニーナは素早くそれを手に取り、カイリも手にしようとした。
その時、青年の拳が包みに振り下ろされる。
ぐしゃりと包みが潰れて、中身のクッキーも粉砕される。
「死神が」
青年はそう言って手を放した。
カイリは潰れた包みと缶を手に取る。
「悪いな」
「っ!」
青年の手がカイリの胸倉を掴もうと伸ばされるが、ニーナがその手首を掴む。
「やっても手を痛めるだけよ」
「……ちっ、
青年はニーナの手を振り払い、ニーナを罵る。
ニーナは無視して青年の手を掴むために置いた缶を脇に挟み、今度はカイリの手を引いた。
先に向かうのは二人の寝室だ。
食堂というのに二人が食事できる場所はこの場には無い。
カイリはこの場で嫌われている。
彼と共に出ればほぼ確実に死ぬ。
今の今まで共にでて生き残っているのはニーナぐらいだろう。
そんな彼に近づこうとする子供はいない。
同じアバンタイドチャイルドであっても、彼らはカイリを仲間だと思っていない。
同様にニーナもまた好かれていない。
彼女の姉であるミーナはここのボスであるパレノコールのお気に入り。
その美貌と身体を使ってアバンタイドチャイルドでありながら裕福な暮らしをしている。
部屋も個室を与えられ、衣服や食事だってこことは全く違う。
そんなミーナに対する嫉妬と妬みをぶつけるにはニーナは丁度いい標的だ。
とはいえ直接手は出さない。
そんな余裕があれば自分たちの事に気を遣う。
せいぜい小言やいびり程度。
だから二人も特に仕返しすることは無かった。
寝室に到着してドアを閉める。
本来は六人ほど一緒に寝れる場所だが、同室の4人は先ほど死んだ。
彼らが来たのはつい最近の事だったし、思い出は少ない。
ただカイリたちのことをあまり知らなかったからか、笑顔を向けてくれた。
「……来世はいい暮らしができてるといいね」
「そうだな」
そんな彼らにできることはそんなことぐらい。
二人は一つのベッドに座り、食事を始める。
カイリは枕の下にあるナイフを取って缶を開け、ナイフをニーナに渡す。
ニーナも缶を開け、そこで気づいた。
「スプーン、貰い忘れた」
「そのまま飲めばいいだろ」
「いや、口切っちゃうでしょ」
「気を付ければいい」
「それはそうだけど」
カイリは缶を持ち上げて、口から少し放したところで傾けてスープを飲む。
ニーナはそれを真似するようにしてスープを飲んだ。
味はいつも通り悪い。
栄養だけを詰め込んだ携帯食料だからこうもなろう。
ニーナがスープを半分飲み、クッキーの包みを開ける。
ニーナは支給される食糧でこのクッキーは結構好みの味だった。
4枚入ってるうちの一枚を食べようとしてふと気が付く。
隣でカイリのクッキーは青年に粉砕されており、包みの中で欠片と粉末が詰まっていた。
「私のあげようか?」
「いや、いいよ。
ニーナはそれ好きだろ」
「でも」
「俺は味わかんないし、腹が満たせればいい」
カイリは包みを口に当て、包みを揺らしながら口に入れる。
数度咀嚼した後、スープで流し込んだ。
「ご馳走様」
「もう寝るの?」
「他に何かあるか?」
「愚痴大会」
「俺には無い」
「私にはあるのよ!」
「はぁ……」
今日は寝るのには時間かかるらしいことを悟ったカイリは深いため息をついた。
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