透明になった魔女

森野湖畔

透明になった魔女

今日もまた一人、魔女が殺された。



ある森に魔女がすんでいた。

彼女はまだ人間に見付かっていない、最後の魔女だった。

彼女はある薬を作っていた。透明になる薬だ。


森は春だった。

ひとつの花が刈り取られた。その種の最後の一輪だった。

人間達に美しいからとつみ尽くされたのだ。


夏になり、一羽の鳥が殺された。その種の最後の一羽だった。人間達に珍しいからと、取り尽くされたのだった。


秋になった。一匹の動物が殺された。

その種の最後の一匹だった。

その動物は人間達に毛皮をとるために狩り尽くされたのだった。


冬になった。

魔女は透明になる薬を完成させた。

そうして、自分で少し飲んだ。

彼女はみるみる景色に溶けていった。

それから彼女は種が少なくなった動物達を集めて薬を飲ませた。動物達もみるみる透明になっていった。

そうすると彼女は動物達と静かに森の中へ消えていった。


誰も知らない森の奥に、静かな優しい楽園をつくったのかもしれない。

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透明になった魔女 森野湖畔 @moonkiyo

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