あなたの全部を知っている
思い悩んだ表情の里愛ちゃんに、わたしの運命の人に語り掛けます。
「知ってるよ? 全部」
「全部って、何を……」
「里愛ちゃんの全部。里愛ちゃんは何が好きで、何が嫌いで、何に悩んでるかまで」
だって見てきましたもの。ずっと。ずっとずっとずっとずっと。
優等生の顔の奥に隠れた、歪んだ嗜好と激しい愛情に憑りつかれた本性。わたしはとっくのとうに知っています。その本性を必死に抑えつけようとしていたのだって。
――ふと、以前わたしがお付き合いしていた人の言葉が思い出されます。
『お前みたいな狂ったストーカー女、誰も受け入れてくれるわけがない』
今もわたしの奥深くに突き刺さっている言葉。
反論すらできずに、こんなわたしは一生誰にも愛されないと塞ぎ込んで……そんなときです。里愛ちゃんと出会ったのは。
たぶん、一目惚れだったんだと思います。わたしはいけない事と知りながら里愛ちゃんの私生活を覗き込んで、里愛ちゃんの隠された一面を知りました。そして思いました。もしかしたら里愛ちゃんなら、私を受け入れてくれるかもしれないと。
「……嘘。知ってるはずない」
「ほんとに知ってるんだよ。例えば、里愛ちゃんは催眠シチュが大好きとか」
「えっ」
「あとはー、快楽堕ちは好きだけどあんまり強引なのは趣味じゃないとか」
「待って、待って待って」
途端に里愛ちゃんが赤面しました。そんなところも可愛いと、素直に思います。
わたしは想いに忠実に、里愛ちゃんをぎゅっと抱き締めました。
「いいんだよ、別に。知らなかった? わたし、結構おかしな女だから」
「……それくらいは、もう知ってる、けど」
きゅっと、わたしの服が小さく握られました。
わたしの本性を薄々察していながら、一緒にいてくれた里愛ちゃん。
至上の感謝と甘美な陶酔と、燃えるような想いが湧き上がってきます。
「だから、いいの」
多くの言葉を省いて、それでも伝わるという信頼から、わたしは短く伝えました。
里愛ちゃんは里愛ちゃんのままでいいし、わたしもそれを受け入れると。
◇◆◇
……本当に、いいのだろうか。
あの後、更に深月を問い詰めてみると、私がひた隠しにしてきたはずのアレコレは全て筒抜けだったことが明らかになった。
それに関しては、もう本当に、顔から火が出そうだったけれど……。
私の全てが握られていたことに、嫌悪感はなかった。私に嫌悪感を抱く資格なんて元よりないけれど、それ以上に、そんな私を受け入れてくれていたというのが嬉しくて。
あぁ……どうしよう。胸の奥が甘い想いで締めつけられる。こんなのは初めてだ。
もしかしたら、私は今初めて恋をしたのかもしれない。
全身が熱い。それでいてふわふわした感覚がある。冷たくてドロッとした劣情の発露とは正反対で、息苦しさはまるでない。
「それじゃあ、こういうことしても……いいの?」
私は深月の両肩に手を置いて、少し身を乗り出した。
見つめ合う深月はパチパチと目を瞬かせた後、相好を崩して。
「……いいよ」
深月はそっと目を閉じる。その仕草にドキリとしながら、私は顔を近づけた。
そして、口付けを交わす。初めてのキスの感触は、想像とは全然違っていて、本物の深月がここにいることを強く実感させた。
途端に、もっと、という欲望が湧いてくる。恋をしたからといって、私の本性は変わらない。
深月の肩に添えていた手を、彼女の腕を伝って滑らせる。肘のところまで下ろすと、そこは彼女の胸のすぐ真横だった。
思わず喉を鳴らしてしまう。それで、私が何を思っているのか深月に気取られてしまった。
手を引こうとすると、深月は優しい微笑みを見せる。
「いいって、言ったよ?」
「……後悔、しない?」
「しない」
少しの躊躇いもなく、深月は断言した。
「その代わり、一つだけお願いしたいの。里愛ちゃんのお誕生日にわたしがお願いするのもおかしいけど……」
「なに?」
「わたし、里愛ちゃんの恋人になりたい。恋人同士になってそういうことしたい。……ダメ?」
潤んだ瞳で深月が見つめてくる。その可愛らしさに、私の頭はすっかりやられてしまった。
「……ううん。むしろ、私から言いたいくらい。深月を恋人にしたいって」
「ほんと? えへへ、嬉しいな」
深月が私にもたれかかってきて、身を預けてくれる。
柔らかな深月の感触。それは、これから知る彼女の感触の一部でしかないと知って、私は我慢の限界を迎えた。
一生秘めているはずだった本性を、私はさらけ出す。
最初は臆病に、けれど受け入れてもらえると、どんどん自制は難しくなっていった。
結局、いつしか私の裏表はなくなっていて。
私たちの関係は大きく変わり、私も彼女の色んなことを知った。
◇◆◇
――運命の人。わたしは里愛ちゃんのことをそう呼びました。
もちろん、運命を見る力なんてわたしにはありません。
けれどわたしたちは、わたしたち二人でなければ間違いなく噛み合いませんでした。
他人では決して寄り添えないし、わたしたちならずっと傍にいられる。
わたしたちの恋に、これ以外の形は存在しないのです。
そういう関係性を、もしかしたら運命と言うのかもしれません。
ヤンデレちゃんと溺愛ちゃん イノリ @aisu1415
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