女でも間に挟まってはいけない

「里愛ちゃん、一緒に帰ろっ」

「ん。少し待ってて」


 放課後。うきうき気分で里愛ちゃんに話しかけると、素っ気なく里愛ちゃんは荷物の整理を続けました。うう、構ってほしい……。

 ふと、里愛ちゃんはすぐ近くを通ったクラスメイトに目を止めました。


「××さん、ちょっといいかしら? 週末のお出かけのことで……」

「えっ」


 里愛ちゃんの言葉を聞いてわたしは硬直しました。

 今週末には年に一度の大事な日、そう里愛ちゃんのお誕生日があるのです。里愛ちゃんと一緒に過ごせるようにわたしは前々から約束を取り付けていました。それなのに約束を反故にしてこんなどこの馬の骨とも知れない輩(※クラスメイトです)と一緒に遊びに行くつもりなんですか里愛ちゃんは。へぇそうですかそうですか……。


 あっ、無理。死のうかな。

 チラリと、里愛ちゃんがわたしの顔色を窺いました。そしてすぐに、ぎょっとした表情をします。


「ちょ、ちょっと深月?」

「ハハハいいのいいのアハッどうぞ話を続けてよアハハッ」

「待って待って待って、勘違いしてる。たぶん勘違いしてるわ」


 勘違い。何のことでしょう。包丁で心中は難しいからやめておけということでしょうか。もっと殺傷能力高い武器の方がいいのかな……。

 里愛ちゃんは今度は、馬の骨さんの方を確認しました。なにやら引き攣った表情をしておられる馬の骨さんですが、はて一体なぜでしょう。


「あなたとの約束を反故にしたわけじゃないの。お出かけというのは土曜日の話よ?」


 里愛ちゃんとのお誕生日会は日曜日。たしかに日付けは被っていません。ですが……。


「でも二人で一緒にお出かけするんでしょ?」

「それは……。まあ仕方ないか。打ち明けてしまうと、日曜日のためのお菓子を買いに行こうと思って。この子、そういうのに詳しいそうだから相談したのよ」

「えっ? そう、なの?」


 馬の骨さんを見ると、脅迫の被害者のようにガクガクと首を縦に振っています。普段はあまり他人を信用しないわたしですが、なぜだか今回ばかりは嘘をついていないと感じました。


「深月、お菓子とか好きでしょう? だから持って行ったら喜ぶと思って……」


 つまり――わたしのため?


「~~~~っ! 里愛ちゃん好きーっ!」

「ちょ、ちょっと離れなさい」

「やだっ」


 ぎゅーっと、里愛ちゃんの柔らかさを堪能しました。

 若干の抵抗を見せる里愛ちゃんですが、それも裏返しの愛情表現なのはお見通しです。もう里愛ちゃんは素直じゃないですね。

 本当なら里愛ちゃんの休日も全て独占したいところですが、わたしは寛容ですからね。一日くらいは諦めましょう。

 ストーキn――じゃない、見守りの術は心得ています。だからもし、里愛ちゃんに色目を使ったりしてもすぐにわかるんですからね。ねぇ馬の骨さん……?

 ああそれにしても、日曜日が楽しみです。早く日曜にならないかなぁ。




   ◇◆◇




 どうやら、作戦は失敗に終わったようだ。

 約束の反故をチラつかせて私から距離を取らせるとか、ドン引きするクラスメイトの姿で少しは冷静になってくれるかもとか期待していたけれど……効果はなかった様子。


 深月は深月。私に途轍もなく可愛らしいアプローチをかけてくるのは変わらない。ああ本当に可愛くて食べちゃいたいくらい。いろんな意味で。

 この場で生まれたままの姿に剥いて味見を――という欲求は理性の鎖でなんとか縛り付ける。やるにしても人目がない場所なのは必須条件、深月ちゃんの最高に可愛らしい姿を他人と共有するなんてありえないという悪魔の声も手伝ってどうにか欲望は封印された。

 ふぅ、危なかった。私のように善良な人間でなければ欲望に負けていたことだろう。


 それにしても、なんだか深月の日曜日への期待の熱が高まった気がする。

 誕生日会は深月の家で二人きりと聞いている。となれば向こうも行動を起こすはず。

 私、日曜日は耐えられるかしら……。

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