第6話 地下アイドルプリンからの依頼~魔法少女ミラクルプリンセスの闇、いや暗黒~

魔王が倒されて200年、世界は様変わりした。

命の危機がなくなり安心を得ると人々は娯楽を求めだす。

魔導テレビの普及により、今までにはなかった職業も増えた。

スポーツ選手や俳優、そしてアイドルだ。


私の名前はプリン。

〝魔法少女ミラクルプリンセス〟の黄色担当。

アイドルである。


「プリンちゃんおはよー♡」


彼女の名前はイチゴ。

赤担当の実質的リーダー。

常に語尾に♡が付くいけ好かない野郎だ。


「二人とも、、、おはよ」


こいつの名前はアイス。

無口のクールキャラを演じているド腐れ女だ。

私あんたが電話で男とペラペラしゃべってんの見たことあるから!


そんな私たち3人組が〝魔法少女ミラクルプリンセス〟である。





今日は水曜日、〝地獄の瘴気亭〟の定休日だ。

と言っても普段とあまり変わらない。

俺は基本的に働いていないから。

というかこの店でちゃんと働いているのはユフィだけだろう。

俺とギルは飲んだくれ、ルリはたまに客引きと言う名の散歩に行くがほとんど食べてるだけ。

だからこの定休日と言うのはほぼユフィのためにあるものだ。

そう思いながらホールに降りていくと珍しくユフィがテレビに見入っていた。


「何見てんだ?」

「アニキ!これ見てくださいよ!最近はまってるアイドルで〝魔法少女ミラクルプリンセス〟っす!」

「アイドルねぇ。あ、魔法少女だけに歌って踊って魔法も使うんだ」

「そうなんすよ!振り付けの中で結構ギリギリの魔法を使ってくるんっす!下手したら大事故っすよ!でもそのギリギリを攻めてる感がいいんっすよね!可愛さとのギャップ萌えと言うか!」

「お前ってアイドルとか好きだよなー」

「龍でブイブイいわしてた時は気付かなかったんっすけど、自分ちっちゃくて可愛い子が好きみたいなんす!ルリちゃんも大好きですし!なんか見てるだけで癒されるんすよね!」

「そんなもんかねぇ~。可愛い顔してるけどどうせ仕事が終わったらクラブでイケメンたちと乱痴気騒ぎだろ」

「アニキそういう言い方やめてもらってもいいですか?」

「どうせテキーラ点滴しながら裸のイケメンたちを掛け布団にして寝てるんだよ」

「本当にやめてください!アニキにはわからないんですか?彼女たちのこの穢れなき純粋な瞳が!きっと彼女たちは『ファンの笑顔が見たい!』それだけなんっすよ!」

「そんなこと本気で考えてるのなんてアンパンマンぐらいだ!つまり人類には不可能ってこと!それができるのはパンだけなんだよ!パンってすごいよね」

「なんなんすか、それ」

「でも本当にそうかもしれないわね」


ん?今誰かなんか言った?

振り返るとサングラスにマスク姿の怪しそうな女が座っていた。


「あ、すいません。今日は定休日なんですよ」

「でもそこの女の子が入れてくれたわよ?」


ルリを見るとなぜかドヤ顔でサムズアップしていた。

そして朝っぱらからステーキを頬張っていた。

マジなんなんだ、こいつ。


「申し訳ない、お客さん。あの子はポンコツなんで定休日わからなかったみたいっすわ~。まだ三文字熟語は読めないんで!ほら、ウチの料理長ももうオフモードでしょ?」

「まあ別に料理はいいのよ。今日は依頼に来たんだから」

「ふぅ、最近そういうの多いんですけどウチ別に便利屋じゃないんで。めんどくさいのは勘弁なんですよねー」

「これじゃ足りないかしら?」


怪しい女は札束をテーブルに置いた。

俺は中を数えた。

念のため3回ぐらい数えた。

そして確信した。

中身は300万フェン。

あの親父掘られ貧乏冒険者女の時の10倍だ。


「仰せのままに」


気付いたら俺は跪いていた。


「あ、受けてくれるのね」

「何をご所望で?」

「私の無実を証明して欲しいのよ」


そう言って怪しい女はここぞとばかりサングラスとマスクを脱ぎ捨てた。

女の素顔が今まさに白昼の元へと晒された。

うん、誰?

自信満々で素顔さらしたけど、まあ中の上ぐらいかな。

それで、誰?


「プリンちゃんじゃないっすかー!!!」


驚きと歓喜の声を上げるウチの料理長。

依頼者は〝魔法少女ミラクルプリンセス〟黄色担当〝閃光〟のプリンだった。





「てかさ、黄色担当とかはわかるんだけどさ、なんで二つ名もついてるの?〝閃光〟のプリンって!」

「なに言ってるんっすか、アニキ!まほプリのメンバーには全員二つ名がついていて、それがまた厨二心をくすぐるって話題なんっすよ!」

「まほプリって略すんだ」

「ちなみに赤担当は〝情熱〟のイチゴ、青担当は〝氷結〟のアイスです!」

「あ、そうなんだ」

「あの~、そろそろ本題の話していい?」


あ、そういえばその〝閃光〟が来てるんだった。

依頼に来てるんだった。

しかも300万フェン払ってくれるんだった。


「どうぞ。あることないこと話しちゃってください」

「あることしか話さないわよ。実はあなた達にやってもらいたいのは犯人探しなの」

「犯人?密室殺人でも起きた?大体そういうのはピアノ線とかひっかけてやるんだよ。それで大体解決よ」

「殺人事件じゃないわよ。来週私のスキャンダルが週刊誌に載るの!」

「ほら見ろ、アイドルなんて男という名のモビルスーツに乗って『イっきまーっす!』って言ってるんだよ!」

「うそだぁ!!!ねぇウソだと言ってよ!プリンちゃ~ん!!!」


うわ、キモ。ユフィがガチな泣きしながら〝閃光〟に縋りついてる。

アイドルにハマるとこうなるのかよ。

気をつけよ。


「ウソに決まってるでしょ!そのスキャンダルはでっちあげよ!」

「信じてたよ~、プリンちゃ~ん!!!」


どうなってんだこいつの情緒。


「つまりハメられたってことか?違う意味で」

「ちょこちょこそっちに結び付けようとしてくるのやめてくれない?でもそうよ!私はハメられたのよ!あのメス豚のうちのどちらかにね!」

「メス豚ってのは?」

「赤と青よ」


赤と青?ああ、他にもう二人いたな。


「つまりメンバーの中に犯人がいると?」

「そうよ!あいつらは私を人気ナンバーワンの座から引きずり降ろすつもりなのよ!」

「ウソだ―!イチゴちゃんとアイスちゃんがそんなことするわけない!だって三人揃って〝まほプリ〟じゃないっすかー!!!」


ユフィはちょっとうるさいので退場してもらった。

ギルとルリに縛り付けておいてもらった。


「でもセンターと言うかリーダーは赤なんだろ?それなのにあんたが人気ナンバーワンなんだ」

「よくあることよ。人気投票で主人公じゃなくライバルキャラが一位だったり、3人組のセンターがなぜか一人だけゴリラだったり」

「言われてみれば。でも他にも容疑者候補はいるんじゃないの?」

「この写真見て」


写真にはプリンとゴリラがキスしている姿が映っていた。


「、、、ゴリラだね」

「ゴリラなのよ」

「ゴリラならいんじゃね?」

「どう考えても合成でしょ!こんな写真!」

「まあそうだけど、ゴリラだし。動物とじゃれ合ってる様にしか見えないよ?」

「アイドル舐めないで!二足歩行しているオスとキスしてたらもうそれはファンへの裏切りなのよ!それがゴリラであってもロボであっても概念であってもね!」


概念ってなんだよ。

ドルオタってそこまでの高みに上り詰めてるの?

いつもなら冗談だと聞き流すところだけど、ついさっき身内の痴態を見たばっかりだしなぁ。


「そ、そうなんだ。で、メンバーが犯人だっていう根拠は?」

「この写真の私たくあん柄のリストバンドしてるでしょ?」


たくあん柄、、、かどうかはわかんないけど水玉の球が黄色の半円になってはいる。

そもそもたくあん柄ってなに?

普通黄色の半円は月とかでしょ。


「そうだね。てかなんでたくあん柄なの?」

「このリストバンドをしてるのはレッスン中のときだけなのよ!」

「あ、教えてくれないんだ」

「つまりこの写真を撮れたのはメンバー以外にいないの!」

「なるほどね。犯人を捕まえて合成の証拠を掴めばいいってことか」

「週刊誌の発売は金曜日。あと一週間以内に証拠を掴んで!」

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